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香りの記録

年始のご挨拶

 

あけましておめでとうございます。

 

2016年は沢山の香りの世界との出会いがありました。

その出会いを三日坊主の性にも関わらずブログに載せ始めて、今48番目の記事まで更新を続けられたのも、世の中に生まれ続ける素晴らしい香り達と記事を読んで下さる読者の皆様のおかげだと思っています。

 

今年も引き続き旅を続けようと思っているので、どうぞよろしくお願いします。

 

 

 

初回に名乗るのを忘れ今に至ってしまいましたが、ペンネームは幽霊と言います。

48.クリスマスの旅(ア ラ ニュイ 他)

クリスマスが誕生日だったりする。

誕生日だからこそ、自分のやりたい事を誰にも邪魔されずに気ままに行いたいので、周囲に「クリスマスに予定のない寂しい女」と言われても毎年一人で散歩に出る。予定はぎっしり詰まっているのだ。

 

今年はやはり香水を巡って銀座と六本木を散歩をした。

まずは銀座の資生堂でセルジュ ルタンスを見た。

今までセルジュルタンスの香りやコンセプトのパリ的洗練加減がどうも得意でなかったが、今日は珍しくアラニュイが気に留まった。

 

 

 

ア ラ ニュイ(A La nuit)

ジャスミンが全面に押し出されている。トップから白い花の青みの分かる生花のようなジャスミンの香りが立体的に広がる。だいたいジャスミンというとバニラや他の甘みのある花との組み合わせでミドル以降に濃厚になる傾向があるが、これにはバニラではなくホワイトハニーが入っているため、変に濃く甘くなったりベタついた香りにはならない。夜にふと出会った暗闇の中に浮かび上がるジャスミンの花といった雰囲気。とにかく澄んだジャスミンの香りで、拮抗してくる余計な香りが無い分引き締まっている。

ミドルから徐々に清潔感のあるムスクや仄かにクローブが目立ち始め、始まりの克明なジャスミンの香りは落ち着き、柑橘系のようでもある瑞々しく凛々しい香りに変わって行った。

これもまた夜をテーマにした香水だが、官能系に寄りがちなジャスミンの香り方がストイックに感じたのでとても気になった。生花の部分は幾分かクラシカルな香りにも感じる。

 

 

 

 

 アラニュイのおかげでセルジュルタンスへの個人的評価を簡単に変更できた。

まだルタンスのオリエンタル系の香りに関してはどうしても強く感じてしまって鼻が慣れないのだが、これから少しずつ肌に乗せてみられればと思う。

 

そのまま歩いてバーニーズニューヨークへ行った。

軽くもて回るだけにするつもりが、クリードの説明をしてもらっていた。

クリードもまた、その値段の上流階級感と個人的な好みと肌との相性でもやもやとした体験しか出来ていなかったブランドだった。

そこではラブ イン ブラックとホワイトフラワーズを試香した。

 

 

ラブ イン ブラック(LOVE IN BRACK)

→ボトルの漆黒さから、ついきつめのオリエンタルだったりスパイシーな香りを想像してしまったが、甘さは優しくやや重めのアイリス系の香り。ブラックカラント、紫のバラ、バイオレット、ムスクなど名前の通りの調香。

最近のムスクは全て合成香料で作られているが、このムスクは採取と流通が禁止される前にクリードがキープしていたジャコウジカから取られた希少な動物性のムスクが使用されているらしい(クリードでも使用しているのはこの香水だけらしい)。それ故なのかどうかは分からないがムスクのある種石鹸のような香りと共にレザーのような滑らかなコクを感じた。

官能的な感情ではなく、野生の母性をイメージしたのは私だけだろうか。

 

 

レ ロワイヤル エクスクシュリブ ホワイト フラワーズ

(Les Royales Exclusives White frowers)

 →値段から始まるのは卑しいが、ただでさえ高価なクリードの中でも5〜7万円という価格。しかし、それでも仕方がないと思える。夢の世界を表現した香りらしくホワイトフラワーやローズの花々の香りは花の蜜のような仄かな甘さと丸みを帯びて羽のような軽さで包み込む。細かく何の香りがどうでという説明は不要の類なのだろう。店員さんは「天上の香り」のようなニュアンスでこの香りを表現していた。耽溺というより、空を舞える香り。

以前所感を書いた20万のアラローズ エクストラに似た多幸感だったので、ある一定以上の香料の力を見せられた気がした。

 

 

店員さんと話しているうちに、クリードの多くにはベルガモットが含まれているらしいと知った。それがあのクリードのやや内に入ってゆくような独特の質感を感じさせるのだろうか。

明確な答えは分からず終いだったが、クリードの知見は深まった。気がした。

 

 

最後に六本木に寄った。

本命のフェギアで香水を買うためだった。

グランドハイアットはクリスマスを過ごす客で賑やかだったが、フェギアの店内は変わらず丁度良い照明の明るさと静かさだった。

 

 

ジョーバン ノーチェ(LA JOVEN NOCHE)

ボルヘスの詩「若き夜」の幻想の夜を表現した香水。産地の異なる白檀のみの調香で、伐採されてしまい絶滅が危惧されている白檀の香りを調香師のジュリアン・デベルがイメージで作り出したそうだ。

サンダルウッドというと「お線香の香り」というイメージが付きまといがちだが、この香りはそんなことはない。最高級の白檀の、滑らかで乳白色の控えめでふんわりとしたやさしさのある香りは少し甘く、シルクの玉のようなイメージを受ける。だんだんと増してゆくパウダリーさの中で漂うようで、ウッド系の乾燥した調子はあまり見られず、肌に溶け込むように香るので、さらに深くまで嗅いでみたくなる。内省的。

ローズが入っていないところが美しい。甘さはあるが、ユニセックスの香り。

 

 

 

最初はやはり念願のアルギィエンスエニャのトワレを購入予定だったが、このジョーバンノーチェを知ってしまったら決意が揺らぎ始めた。

両腕に各々二つの香りを乗せて、何度も交互に聞いた後、今回はアルギィエンスエニャを購入することにした。

ジョーバンノーチェも一度出会ったら忘れられない素敵な香りなので、また購入する機会はたくさんあるだろうと思う。

 

アルギィエンスエニャのトワレはリニューアルに伴って、前のタイプよりパチュリが弱くなっているが、今回の調香は、カシスのバランスが一番上手く行った自信作らしい。

肌に乗せるとややカシスが強めに香ったが、トワレなのでこれなら春先まで使えそうだった。

 

フェギアの紙袋を手にして新宿に戻った時、漸くクリスマスの香りの旅が終わった。

心地い疲労感と眠気と、いつの間にか鼻が疲れきってしまった鼻は、すれ違う人々の香りも、自分の両手に乗せた香水の香りも判断できなくなっていた。

 

旅の終わりはいつも、眠りから覚めるようにやってくる。

新宿は人がたくさんいた。

人が多すぎて、クリスマスの曲もイルミネーションも、とても遠くに見えているように感じた。

何かに急ぐ人の流れに乗り切れずに逃げるように入り込んだ地下の通路で、一番鼻に近いマフラーに、買ったばかりのアルギィエンスエニャを吹きかけて帰った。

 

 

 

 

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47.思い出す事(ダンシング オン ザ ムーン )

唯一の休日の日曜日が勤務で潰れた怒涛の二週間が終わり、ようやく日曜日に時間が出来た。

 

この日は夕方から用事があり、その間の時間を使って伊勢丹へ向かった。

伊勢丹はサロンドパルファン以来だ。

マルタンマルジェラでレプリカの新作が出たと聞いていたので、それが気になっていた。

新作は4種類あったが、その中でダンシングオンザムーンに目が行った。 

今年の冬はなぜか「夜」や「月」といった香りが気になってしまう。

 所感は以下。

 

ダンシング オン ザ ムーン(DANCING ON THE MOON)

→バニラ、チュベローズ、ジャスミン系の甘い香り。トップではムーンフラワーが香り、それがやや甘酸っぱさを付与している。

店頭では悲しいことに「一番人気」「女性らしい」というフレーズで勧められたが、公式サイトでは表現に「クリーンで無機質」というワードが見られる。こちらのほうがしっくり来る。

調香は先述通り、ベーシックな「夜の香り」の記号に満ちている。それによって濃厚な温かみはある程度あるのだが、他の似た傾向の香りに比べてややドライさがある。かといって粒子感が強い訳ではない。滑らかで甘く瑞々しい香りの中央にやや異質なアルデヒド系のクールな香りを感じて、それより先に感情が進むのを阻まれた気がした。それらがかえって肌から少し浮いているような距離を感じさせて無機質さ・真空感を覚えた。シングルノートなのだろうか。

纏うことを考えたときには、クセもないのでこれからの時期は男女問わず纏いやすい香りだと思う。

 

 

他の新作も試してみたが、共通して調香自体は極めて現代的で、特徴を掴みにくい程に流行を押さえたものであったものの、不思議な距離感と無機質感を覚えるものばかりだった。

次に気になったのはアクロス サンズだった。

タバコの葉の香りとインセンス寄りのまさに砂のようなドライな香り。タバコ系の香りは良くも悪くも内によどみがちだが、これはタバコの香りがシャープで澄んでいる印象。(機会があったら改めて所感を残したい)

 

何かの記事でレプリカは記憶や深層心理を呼び覚ますコレクションだと読んだ。

新作は、何の記憶のレプリカなのだろう。勉強不足ゆえに今ここで答えに到着はできないだろうが、

月でのダンス、空を飛ぶこと、深い森の神話、砂漠への逃避。現在の記憶を超越したテーマを持ったそれらは、今から少しだけ未来の記憶と私たちの中に眠る懐古的な記憶を結びつけてゆくようなイメージの香りだった。

 

 

世間はクリスマスムードで、伊勢丹もいつも以上の人で賑わっていた。

私が世の中のイベントに心を躍らせることがなくなったのはいつからだっただろうかと考えながら暫く館内を巡っていたが、答えは出ないままだった。

その記憶を遡って懐かしく思うには、まだまだ経験と時間が必要なのだろう。

 

 

帰りに紀伊国屋書店で本を買って帰った。

 

 

Replica Eau de Parfum | Maison Margiela

 

 

 

46.サロン ド パルファン②(ローズ バルバル 他)

続きをまとめるのが遅くなってしまったが、サロンドパルファンの会場は、23日と27日に巡った。

様々なブランドがやや天井の低い空間に一堂に集まり、1階のカフェ デ パルファムとはまた違った濃密感があった。

 

 両日ともローズについて考えて続けていたため、もう少し探検してみようと試香はローズに絞ってブースを巡っていた。

しかし、だいたいの香水にはローズが入っており、大抵どこのブランドでもローズを扱っている。

パルファンロジーヌパリというローズの専門ブランドもある。

あまりにも代表的な香りだからこそ、自分の鼻に合うローズの香りに出会うのは難しかった。

 

そんな中、23日にゲランのローズに出会った。

 

ゲラン

ローズ バルバル(ROSE BARBARE)

→「野蛮なローズ」という意味。

トップはピーチとパチュリが良い意味でローズに毒気を纏わせている。

パチュリのえぐみのあるスモーキーで深いグリーンの香りはトップが1番強く、だんだんと落ち着いて行く。店員さんがグロッシーと形容していたピーチはラストまで完熟した様なとろりとした甘さを保ったまま香った。私の肌だとピーチが入るとそこが妙に主張して香るのだが、これに関しては浮き足立つ事はなく沈着さを漂わせていた。調べるとミドルにオトマンローズと共に甘みと苦みのあるフェヌグリーフが配置されている。ピリッとした刺激的なスパイシーさではなく、冷たさのあるスパイス感がフルーティーな香りを引き締めてローズの香りを目立たせている。色で言えば黒に近い、深く落ちて行ける香り。

クルジャンやクリードなどに見られるガーデン系ローズの丸みや優しさではなく名前の通り野蛮なまでに生を強く香らせている深緑の中に茂るバラのイメージを受けた。男性でも充分に纏える。

 

これもクルジャンの調香だというのだから、今日のローズの香水はどうなっているのかと思う。

この他にもローズ ナクレ デュ デゼールも試香した。

これは覚えきれなかったので簡単な所感を。

 

ローズ ナクレ デュ デゼール(Rose Nacree du Desert)

ペルシャローズの香り。バラらしい優しいパウダリーさはあるものの、トップからウードが感じられる。他にもミドルにサフランやウコン、シダーなどの甘さが抑えられたウッド系の香りが配置されており、ローズといってもガーデン的な甘くボタニカルなものではなく、鼻に抜ける冷たい土のような香りがするところが面白かった。

砂漠のバラをイメージした香りだそうだが、太陽の下の灼熱の砂漠というよりは、静かで寒冷な砂漠の夜をイメージできた。ラストに近づくにつれて、ローズが石鹸のような清潔さを感じさせるパウダリーな香りとなり、砂のように消えてゆく。

 

 

どちらかというとローズ ナクレ デュ デゼールの方が好みであったが、どちらもヨーロッパから離れたオリエンタルなローズを彷彿とさせていたところが印象的だった。

 

 

 オリエンタルつながりで、27日はミヤ・シンマのブースを覗きに行った。パリで展開している日本人の調香師のブランドということで気になっていた。

 

この日はミヤ・シンマのブースの向かいのパルファン・ロジーヌ・パリのブースにマリー・エレーヌ・ロジョン氏が来ており、関係のない一般市民でありながらとても緊張してしまった。

緊張しながら試香した中では、TSUKIという香水が一番印象に残った。

 

 

ミヤ・シンマ

TSUKI(La lune)

→トップからベリーの香りとグリーンが香る。

ベリーはラズベリーだが、竹のハーブのように鼻に通る香りが相俟って日本の木の実の香りを彷彿とさせる。いつかの夜に出会ったコムラサキの香りに似ていた。それと同じくヘリオトロープジャスミンの香りもトップから感じるのだが、パウダリーで甘い王道の香りというよりは、植物の緑の筋を感じる、独特の癖のある甘い香り。ラストに向けてバニラの滑らかな甘みとラズベリーの香りが強まってゆくが、煮詰まるような濃さではなく、最後まで香りの潤いは失わない。

ミヤ・シンマの香水全般に感じたのだが、とにかくひんやりとした水感が特徴的だった。香りが完全に混ざり合って出来ている水や、弾ける水の球や、川のように一本に流れる水というより、盆に汲んだ澄んだ清水に木の実や草花を浮かべたような、清廉で透明な瑞々しさがある。

百人一首素性法師の句をモチーフにしており、そのテーマが夜に思い人に馳せる想いだからか、瑞々しくも香り立ちはしっかりしており甘美で濃厚な夜を彷彿とさせる。

何人か言及しているが、欧米の文法に則って日本の繊細さが表現されているイメージ。 

フランスではその日本的な繊細さが評価されているそうだ。 

 

 

 

全体的に、今回のサロンドパルファンでは、最近のボタニカルな傾向のものより甘い香りのものが印象に残った。その数も多かったのではないだろうか。

 

話は少し逸れるが、今日(あるいは昔からなの分からない)の「夜」や「闇」といったイメージを使用した香水には、例えばベリーとカシスの組み合わせやバニラ、インセンスや沈香の甘みといった不透明な濃厚さが付いて回っている。文化の違いがそうさせているのだろうか。

ミラーハリスのエチュイノワール、ヴィトンのマティエール・ノワール、クルジャンのグラン・ソワール、フェギアのアルギィエン・スエニャ、そしてミヤ・シンマのTSUKIも、どれも違った調香の魅力があるが、総じて時間が経つにつれて内に落ちてゆくように濃厚さを深めてゆく。

だからなのか、夜をモチーフにしていない香水ではあるものの、ローズ ナクレ デュ デゼールの砂漠の夜のような香りを聞いた時、一瞬嬉しくなったのを覚えている。

 

 

伊勢丹を出てすっかり暮れた外の空気を吸い込んだ時、冷えた空気に試香したたくさんの香りたちが解放されたように香った。

鼻に滲みる寒さの中で離れて行く香りを感じていたら、濃密に香りが集まるサロンドパルファンも、そこにあったとろけるような香りたちも、すでに遠い昔の記憶のように思えてきた。

 

 

 

Rose Barbare - Guerlain

ローズ ナクレ デュ デゼールはの情報は手に入れられなかった。

 

miyashinma.fr

 

45.サロン ド パルファン ① (ローズ クチュール 他)

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22日から新宿伊勢丹でサロンドパルファンが開催されている。

私も早速23日の祝日を使って、サロンドパルファンのイベントに参加した。

 

 それはローズの香りについての簡単なレクチャーと体験が出来るもので、一度にローズの香りを比べながら体験できる良い機会だったので予約してみたのだった。

イベントではまず、ローズの歴史や、種類について簡単に知識を得てから今年収穫されたローズのエッセンシャルオイルを試香する機会があった。

その後、サロンドパルファンに出品してあるローズの香りを楽しんだのだが、まずその試香した10種類の簡単な所感メモを残そうと思う。

 

 

ブルガリ  ローズゴルデア

→前に記事に書いたが、他のものと比べるとムスクがはっきり香り甘みは少なめだと分かる。


フランシスクルジャン  ア ラ ローズ

→他のものと比べるとローズの香り方が柔らかい。


フランシスクルジャン  ア ラ ローズ エクストラ

→ア ラ ローズよりも薔薇をふんだんに使っており、それにふさわしい深みがある。


エリー サーブ  ローズ クチュール

→同じくクルジャンの作。ローズ ネクター アコードというクルジャンオリジナルのアコードが使用されている。ベリーのように濃厚。

 

アニック グダール  ローズポンポン

→前に記事に書いたが、ローズの他のピオニーやハーブの香りがスッと鼻に抜けるのが心地よい。

 

アニック グダール  ローズアブソリュ

→1番ローズのエッセンシャルオイルに近い香り。バラが目の前で咲いているような、熟した花弁の香りがする。

 

クリード ジャルダン アマルフィ

→柑橘系が入っているからかローズは華やかというよりは古典的なコロンのような香り。クリード特有の滑りもある。

 

ペンハリガン  誰からも愛されるローズ公爵夫人

→甘くウッドを含んだ優しいローズの香。トップの香り立ち方が人の温かな肌から感じる体温の様で目が覚めた。

 

ブルガリ アマレナ

→チェリーが入っており、その甘酸っぱい香りがローズを瑞々しく香らせる。ヨーロッパ的なローズの香りよりやや明るく暖かい印象。

 

 

ボンドNo.9 ブライアントパーク  

→ローズにピンクペッパーの近年流行り(?)の組み合わせでシャープな印象。しかし奥にアプリコットやメロンのような甘みを感じる。

 

この中で、今回は

フランシスクルジャンの『アラローズ エクストラ』、エリーサーブの『ローズクチュール』の所感を書いてみようと思う。(ペンハリガンの新作も面白かったが、記憶の問題でまとめるまでに至らなかった。)

一度に嗅いだので正確な記憶ではないかもしれないが、以下。

 

エリー サーブ

ローズクチュール(LE PARFUM ROSE COUTURE )

→クルジャンのオリジナルのローズ ネクター アコードがミドルに配置されている。

トップは肌の上ではオレンジブロッサムやベルガモット、ピオニーの白い花系の甘く明るい香りが広がるが、その後ろからやってくるローズに注意すると、その香りはネクターと称されるだけあり、濃厚で滑らかに曲線を描く輪郭はフルーティーで瑞々しい。ライチやピーチも入っているので彼らもその一翼を担っているが、香り自体はあくまでローズを取り巻く輪郭としてであり、あまり主張はしていない。

もちろんローズはムスクがパウダリーに香り出すラストまで主役として続く。

ドレスをイメージしているものの、当たりは格調高さというよりは穏やかな印象。煮詰めたジャムのように濃厚だが、砂糖の甘さと濃さのイメージはない。その甘さ控えめな濃密さと瑞々しさのバランスはさすがクルジャンなのかなと思った。

 

 

フランシス クルジャン

ア ラ ローズ エクストラ(正式名称を忘れてしまった)

→ムエットのみの試香。

普段のアラローズがどこまでも広がって行く豊かなローズの香りなのに対し、こちらは使用しているバラの本数で考えてもローズの中に無限に耽溺できる香り。

蜜のようなバラのとろけるような濃厚な香りがアイリスの内に篭る落ち着いた優しい香りに絡まるように一つに引き付けられ、夢心地な香りになっていた。高級な布地の顔を埋めたときはこのような気持ちになるのだろうなと思えた。(これはフランシスクルジャンのフレグランス全般にしばしば思う)生まれるずっと前に過ごした幸せな時間を思い出せそうだった。至福。現在日本には5本しか入荷しておらず20万ほどするらしい。サロンドパルファン会場に展示されている。

 

 

 

このように一度にローズに絞って試香したことはなかったので、面白い体験だった。 

 

レクチャーでは、西洋的な「女性らしさ」の記号としてのローズの香りにフォーカスが当てられており、香水のセレクトもその流れの正統のものだったと感じる。

今回所感をまとめたローズクチュールはなかでも強くその傾向を感じた。

 

一方で、最初に嗅いだ新鮮なローズのエッセンシャルオイルには、甘く濃い花弁の香りの中にどこか柔らかい上質なレザーのような、花弁の奥底で様々なものを煮詰め凝縮したようなこっくりとした深いコクを感じたのだが、それを10種類の香水の後に今一度嗅いだ時、不思議にも上記のイメージで慣れ親しんだローズの香りが急に混沌とした遠い国の香りに思えてきたのだった。( ここでローズ史を語るのが筋かもしれないが、長くなるのでやめたい)

 

 ローズの異国情緒に頭をぐるぐると回転させられながらイベント会場を後にし、サロンドパルファンの会場を覗きに行った。

 

②に続く。

 

 

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44.アエデス デ ヴェヌスタス(イリス ナザレナ 他)

 すこし前、ワイン好きの知人に銀座でワインとフレンチをご馳走になった。

その知人とは年も親子くらい離れており、デートという雰囲気ではない。ただワインについて教えてもらおうという話から食事をすることになったのだった。

そこでその彼が選んでくれた赤ワインの香りの違いを楽しみつつ、すこし気取ってイタリアの車やシュルレアリスムの話などをしてその日のディナーは終わり、夜の銀座で一人になった。

 

もちろんその知人と会う前も、香水を探しに歩いていた。

丸ビルのコンランショップから三越に行き、 最終的にバーニーズニューヨークにたどり着いた。

前にニューオータニで試香したアエデス デ ヴェヌスタスをもう一度嗅ぎたくなったからだった。

バーニーズニューヨークの香水のカウンターの端に置かれたアエデス デ ヴェヌスタスのボトルは遠くからでもすぐに正体が分かった。このデザインも気入っていたりする。

今回はウィエベンガルとイリスナザレナを試香した。

 

所感は以下。

 

 ウィエ ベンガル(Oeillet Bengale)

→バラの一種が使われている。カーネーションになりたかったバラが己の身に火を纏うという物語が添えられた香水なのだそう。調べるとバラでベンガル・サントゥフーユという花弁の多い種がみつかった。このバラの物語なのだろうか。

トップはクラシカルなローズの、カーネーションを彷彿とさせる赤い花の生花のような辛口の香りが広がるが、間もなくナツメグやシナモンなどの、生花の刺激とはまた違った温かなスパイスの香りがバラの香りに絡まる様に鮮やかに沸き立ち始める。花の香りはスパイシーな乾いた香りに飲み込まれ、その熱を帯びたミドルが過ぎると、トップにまた戻って行く様に、だが燃え尽きた灰も感じさせる静かなカーネーションとムスク、サンダルウッドの香りが残される。

真夜中に1人自分の姿を見つめ直す様な、心地の良い静寂のラストの香りは、トップからの変化を経るからこそ圧巻で耽溺できる。

冬に最適な香り。出かける時にも纏える香りだが、その物語性を考えると家で一人で纏ってリラックスしたり、大事な人とシーツの様に纏っても良いのではないかと感じた。

 

 

 

 

イリス ナザレナ(Iris Nazarena)

→イリス、ウードやジュニパーベリー、フランキンセンス、ローズなどという、色味もそのボトルの色にふさわしい落ち着いた調合。以前アパルトモン アルシミストで試香した時、店員さんが「寺院の石畳を彷彿とさせる」という言葉で説明してくれたことを思い出した。

確かにその通りで、ムエット上や肌に乗せた直後は、甘みは感じず、べチバーやフランキンセンスの筋の通ったクールな香りの中にウードの深くスモーキーな香りが禁欲的に香る。ローズが入っているそうだが、それらしい香りに感じるのは華やかさというよりは薬草としてのローズの香りに近い。

オリザのレリーク ア ダムールが好きな人は好きになるのではないか(現に私がそう)。それよりも草花の気配は無く、静謐で広大な寺院の外の光景がイメージできる。

しかし今回は、肌に乗せて暫くするとイリスとウードの香りが台頭してきた。パウダリーなのだが肌に張り付くようにしっとりと濃厚な優しい香りに変わった。この変化についてはトップの荒涼とした風が吹いているような香りからは全く想像が付かず、そこになんとも言えない、成熟した深い色気を感じた。

 

 

 

アエデス デ ヴェヌスタスの香水は他のニッチフレグランスと比べてクラシカルで落ち着いた香り方をすると思うが、今回初めて、実はどの香りも情熱的なのかもしれないと感じた。

恋・官能的といった安易な表現で語り尽くせる情熱ではなく、ウィエベンガルのバラの渇望のような、そんな熱さのような気がした。 

愛する人と一緒にいるときに2人の周りに振り撒く香りを選ぶなら、すこし迷ってアエデス デ ヴェヌスタスを選ぶだろう。

 

 

 

 しかし私は銀座のルノアールで1人、無機質な長方形をしたムエットと睨み合っている。

 食事に行く前だというのについ肌に少しだけ乗せてしまったイリスナザレナは食事の時間にはなりを潜めていたが、手首に顔を近づけたらまだ優しく仄かな残り香を湛えていた。

私がアエデス デ ヴェヌスタスの香りのような、感情の燃えるような深まりを感じたのはいつだったろうか。

 

ふとそう思ったらなんだかさらに温まりたい気持ちになって、先程知人と交わした同性の中年同士の様な会話を、いかに甘美に脚色して思い出に残そうかと暫し背もたれに身体を預けて考えた。

 

 

 

 

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43.フェギアのリニューアル(ヤケーンヌ)

 

フェギア1833にてエロヒオ デ ラ ソンブラを購入した。

(エロヒオ デ ラ ソンブラに関する記事はこちら28.蜃気楼(エロヒオ デ ラ ソンブラ ) - 日々の糧—香り日記—)

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というのも、来月は私の誕生日なのだがその前後が仕事で慌ただしいため、前倒しで購入を決めたのであった。

 

 

フェギア1833には暫く行っていなかったので、今回訪れた時に価格やデザインが変わっていたことを初めて知った。

リニューアル後のボトルデザインは、手書きのラベルではなくボトルに直接プリントが施され、裏側を見ると主な調香がわかる仕様になっていた。新しいデザインもクールで素敵だった。

 

しかし、ボトルデザインと価格だけに留まらず、よりによって購入を悩んでいたエロヒオ デ ラ ソンブラとアルギィン スエニャの調香までもがリニューアルされていた。

ショックだった。

新しい調香はどちらもフルーティーな部分が強化され、より流行に近付いた人当たりの良い香りになっていたが、やはり私は前の独特の癖のある調香のものが忘れられなかった。

店員さんに尋ねると前のタイプの在庫を調べてくれて、エロヒオデラソンブラの30mlは一本だけ在庫があったのでそれを手に入れた。

 

 

他にも何種類か新作が陳列されており、それらに関してはまた後ほど感想を書きたいが、ミルクを使用したフェギアらしい甘さの面白い香りのものが興味深く印象に残っている。

 

会計の際にヤケーンヌのテスターの1mlボトルを貰った。

この新作はグリーンが主役の様で、アルギィエンスエニャが好きならきっと気にいるはずだと勧めてくれた。

所感は以下。

 

 

ヤケーンヌ(yakeń)

→トップはパチュリ寄りの渋みのあるグリーンの香りに同じ様に青さの強いベリーの香りが相俟ってメンズ寄りの香り立ち。青みはあるが瑞々しいと言うよりはウッドも感じるドライさ。

店員さんが「肌に付けるともっとフルーティーに香りますよ」と教えてくれた通り、私の肌ではトップ以降どんどんとグリーンの深みが中心に凝縮してゆく様に深まってゆき、その奥からカシスのようなフルーティーで濃い甘い香りが姿を現した。アルギィエンスエニャのミドルと似た様な香り方だが、甘さはカシスの様でいてミルクの様な滑らかさもあり、ラストにはアンバーも加わりより優しくふっくらと丸みがある。ラストはトップのような芯のあるドライなグリーンというより秋の半ばに感じる緑の香りの様な静かなグリーンに落ち着く。

ヤケーンヌとは、現地の人々が薬草にしていたパラメラというマメ科の花らしい。パラメラがどんな香りかは分からないが、確かにトップのグリーンには薬草の様に鼻に抜ける部分があると感じた。

 

 

 

私はこのヤケーンヌがすぐに好きになった。

エロヒオ デ ラ ソンブラも併せて、フェギア1833のグリーンは格別だと改めて思った。

ジュリアン・デベルはパタゴニアや南米に分布する数々の植物を香料に採用している。

パタゴニア地方の、殊にアルゼンチン側の気候は厳しいと聞く。不毛の大地、荒涼とした風、険しい山脈、そしてそこに息づく力強いパンパや薬草の数々。

実際にパタゴニアには行った事はないが、香水に溶け込んだ百以上の草花の香りを通して、彼らが生きていた人知を超えた深い混沌と孤独を内包した大自然の気配が心を揺さぶるのだ。

 

 

家に帰ったら早速エロヒオデラソンブラをベッドにプッシュして寝転がった。

その地球の反対側の柔らかい草の香りに包まれたら、どこか遠くの生まれ故郷に行って帰って来たような、胸が一杯なのに少しだけ途方に暮れた気分になった。

 

 

フェギア1833

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