polar night bird

香りの記録

113.チベットの薬草(圣香海螺藏香水)

登山を始めると、その極めて未熟な熟練度合に関わらず高山地帯の香りに興味が湧く様になった。 しかし、以前富士山に登った際は終始香りを楽しむ場合ではなく、その他の大体の山でも嗅覚に向ける余裕が無くなるのが正直な所だ。 神奈川県の大山でさえ息絶え…

112.心にレザー≪M VQ2(Puredistance) ≫

厚手のレザージャケットに憧れがある。 幼少期に夢中になったメタルバンドやハードロックバンドではお決まりのアイテムである。他にもパイロットやバイカー等、かつてなりたかったがなれなかった者達は皆厚ぼったいレザーのジャケットを着こなしていた。 レ…

111.雪解けの記憶<Essence du Sérail(Sous le Manteau)>

去年から今年の頭にかけて随分環境が変化した。 登山を始めたのも変化の一つであり、去年の秋口には城山と高尾山を案内してもらった。 その城山から高尾山に向かう登りの道で、ある香りに遭遇した。 それは濃い菫色の葡萄の果実めいた瑞々しさとオシロイバナ…

110.低血圧なグルマン、あるいは私の肌の香り《ECCENTRICITY(JMP Artisan Perfumes)》

少し前、形容し難い心ここにあらずな状態が続いていた。 心地良かったが、浮世を離れ過ぎて仕事に支障があった。 もしかしたら先の聞香会のために砂糖を抜き過ぎたのかと思い、一度しっかりと糖分を摂取して脳を現に戻そうと喫茶店に向かった。 その日初めて…

109.香木の霊魂(香木7種のレポート)

麻布香雅堂にて開催されたイベントで、今更ながらほぼ初めてしっかりと香木を聞いた。 月の初め辺りに香道の展示を見てからというもの香木への機運が強まっており、今回然る殿上人のお陰でイベントを知り幸運にも予約が成功して今日を迎えた。 私はこの日が…

108.ロシアの記憶《Ladanika(Ладаника)》ロシアニッチ香水レポート

世の中が今の様になる直前にロシアのインディ香水と作家事情が気になった事があり、Ladanika(Ладаника)からサンプルを購入していた。 その後今のような状況となり、どうやっても香水へマイナスな印象を与えかねないと感じて公表のタイミングを逃していたのだ…

107.日傘の中のトロピカル《ALOHA LEI(fūm)》

春の冴えない頭を凝縮した様な週末である。 すっかり辺りは草花の香りに溢れ、正午になれば厚着を後悔する様な陽気になる。 その月の連休の最後の日は水辺のカフェのテラス席で虚無な老人よろしく薄ぼんやりと湖畔の風に当たって過ごした。 自分の働きぶりに…

106.罪作りな者達《Tubereuse criminelle(セルジュ・ルタンス)》

人を連れて銀座の香水を巡った。 阪急メンズ館、Nose shop、Le labo、FUEGUIA1833… 知り合って間もない相手の事は良く知らないままであったが、香水初心者への配慮も忘れて香水店に連れ回した。 私が香りについて話して、ムエットを渡し、相手がそれを受け取…

105.冬と春の間《No.12 (Puredistance)》

着実に春になって行く。 私は冷たい外気が好きで寒い日には敢えてカフェでテラス席を選んで過ごすのだが、徐々に寒さが辛くなくなって行くことに気付いてふと寂しさを覚えた。 この日はピュアディスタンスのNo.12を付けてテラス席で過ごしていた。 外は人が…

【特別企画】 CHANEL N°5 あるいは私達だけの素肌

目次 CHANEL N°5 N°5のアルデヒド 娼婦か淑女か ナーチャー(NURTURE) 共有される肌 仕事終わりに新橋から出発し夕方の銀座7丁目界隈のクラブ街を歩いていると、これから出勤する華やかな夜の蝶や同伴の男性たちの中の他に、ムスクのパウダリーな香りとコ…

104.初夏の陰影《DES CLOUS POUR UNE PELURE(SEAGE LUTENS),THE GINZA(THE GINZA)》

珍しく資生堂を訪れた。 爽やかでやや暑い、気候だけなら平和な日であった。昼下がりのまだまだ明るい日差しから身を隠す機会を逃したまま表通りを彷徨っていた所、何の気無しに覗いた資生堂店舗の奥に置かれたボトルの、目を引く鮮やかさながらどこか薄暗い…

103.水の苦味〈O'FRAICHE(ギャラガーフレグランスGALLAGHER FRAGRANCES)〉

最近ハーブの調合に興味があり、手作りのハーブ煙草なども作成してみたいと考え、ひとまずいろいろと材料を採取して準備をしていた。 そんな中、長らく手を付ける暇の無かった新鋭のニッチ香水「ギャラガーフレグランス(GALLAGHER FRAGRANCE)」のサンプル…

102.コートの中の白い花《チュべルーズ・アブソリュ(ペリス モンテカルロ)》

「厚手コートやスーツの下から香らせるなら白い花の香り」 と事あるごとに繰返し説いてきたが、当の自分はコートの下から香らせるための香水は未だ購入していなかった。 実際はもう購入しており、誕生日に箱からボトルを取り出す予定になっている。 しかしそ…

101.含み笑いの暗闇《Rubikona(Puredistance)》

鉄の光と味が好きで、幼い頃は血にはその鉄が含まれるという事が興味深かった。 ルビーはしばしば血に例えられ、上質なルビーは『鳩の血』と言われる。以前その鳩の血を拝む機会があったのだが、光沢の奥の混濁した黒色にすら思える程深い有機的な赤い色が印…

100.箱庭の香り(S.C)

コロナ禍で、外出時にはマスクを手放せない日々が続いている。 マスク生活の何と辛い事。 自分の動物性の香りが不織布によって鼻の前に押しとどめられ、おまけにいつもなら無数の香りのおかげで気にならずに済んでいた食べ物の香りやきついシャンプーの香り…

99.ナエマの赤い薔薇《NAHEMA(Guerlain)》

外は麗かな春だというのに外に出にくい日が続いている。 香水に会いに外を出歩いたのはいつだっただろう。 思い返すと、確かその日の日比谷は新型コロナウイルスの影響で人通りは少なかったが、今よりは活気があった。 だがやはり人混みの力は弱く、風の強い…

98.黄金の銀河《GOLD(Puredistance)》

香水の良い悪い関係なく所感を記すモチベーションがどうも上がらず、もうブログを書くのをやめようかと腐っていた去年の暮れ。ポストカードと共に舞い込んできた新作GOLDが染み込んだムエットに一瞬で退屈な気分を覆されたのを今でも覚えている。 モダンで均…

97.龍の根城《Winter Palace (Memo)》

引っ越した先は豊かな秋の香りに包まれている。 仕事帰りに歩いていると、イネ科の植物の垂れた頭のように降りて来る甘く乾燥した香りが丁度鼻のある位置を通り過ぎ、ある時は遠くの畑から野焼きの苦味のある香ばしい香りが風に乗って駅までやって来る。 春…

96.初めての調合《Silk Iris(パルファンサトリ)+メチオナール》

パルファンサトリのオープンアトリエがあると聞きいたので訪問させて頂いた。 パルファンサトリの香水は気に入っている香水がいくつかある。 また、最近私は香りの言語化と並行して実際に自分でも調香をしてみようと思いついており、作る側の視点からも学べ…

95.終わりの向こう側《Capri Forget Me Not(カルトゥージア)》

梅雨が明けてから一気に暑くなったが、それまでの寒冷な気候のおかげで今年はそれほど鼻が疲れておらず、仕事終わりに汗ばみながら銀座を歩き、試香する体力も残っている。 しかし一方で突如として暑くなった現状に付いて行けずに未だにどこか夢心地というか…

94.人工物の夏《Unsettled( Bruno Fazzolari)》

家の周りを走るのでも良かったのだが、せっかくの人生なので様々な場所を体験しておこうと思い、最寄りのジムに入会した。 明るく挨拶をよくするスタッフや、引き締まった身体の利用者たちが作り出す健康的な雰囲気は正直得意ではなかったが、目当てのプール…

93.ベースノート《Aenotus(Puredistance)》

仕事終わり、霞ヶ関から二重橋駅まで散歩をして帰る。 回り道をして銀座の高級クラブ街を通過し丸の内仲通りに出るのが毎度のルートだ。 銀座の繁華街では、これから仕事に向かう夜の女性たちの風呂上がりの蒸気感と粉っぽい化粧品と上質なムスクの香りが鼻…

92.微酔《PAS CE SOIR(bdk parfums )》

夕方、久々に新宿を訪れた。 相変わらずひどい混みようで、人観察に退屈しない所はやはり嫌いではなかった。 まだ日が明るいにも関わらず既に人が酒気を帯びている香りが漂っていて、さすが新宿だと嬉しくなったが、同時にこんな喧噪ごときが嬉しくなるほど…

91.緑の物語《MIDORI(Y25)》

Y25

最近住まいを東京から緑と水の多い場所に移した。都心まで苦なく出られて、静かで、東京と比べたらもちろん何も無い。今まで気に留まるのは自宅から歩いて20分程の所にある大きな沼と崖の下に見える薄気味悪いプレハブ小屋だけで、そのどこか荒涼とした景観…

90.畑とビルと風《Stercs(Orto Parisi)》

久々に渋谷に出た夜、正直気分は最低な日だったが、この機会を逃したらずっと行かないであろう六本木を訪れた。 一時期は毎週のようにグランドハイアットへ通った見慣れていたはずの六本木は、何やら妙によそよそしく、ビル風も重く冷たく、一辺倒に感じた。…

89.大人になれば分かるのかも《KISS ME INTENSE(Parfums de Nicolaï)》

年が明け、香り初めに銀座を訪れた。 去年は訳あって半年以上香りから離れていたため、店もろくに回れていなかった。 その間嗅覚の癖も若干変わってしまった様で、かつて愛した香りが楽しめなかったらどうしよう、とか、いつもの様に聞く事が出来なくなって…

【特別編】Tanu氏×ゆうれい Juliette has a gunクロスレビュー!

皆さまお久しぶりです。 大変お待たせしてしまいましたが、初企画記事が完成しました! 【特別編】Tanu氏×ゆうれい Juliette has a gunクロスレビュー あらすじ この話は私、ゆうれいの Juliette has a gunまた日本に来ないの? という何気ないツイートによ…

88.愚者の時間《???》

約2ヶ月も更新を止めていたのには何も理由が無いわけではないのだが、敢えて言わないでおきたい。 ただ、香水の出会いは変わらずあったので、その出会いが文章になるまでの運が残念ながらなかったという事もある。 不器用な者には世の中は難しい。 今回は近…

87.ささやかな夏《マイロ(ラボラトリオ オルファティーボ)》

半袖で過ごす日が多くなった。 それを考えてしまうと、夏嫌いの私はまだ6月だというのになぜこんな…、という気分でいっぱいになる。 夕方になれば、冬にはあまり気にならなかった行き交う人々の朝昼に付けたであろう香水のラストノートが鼻を掠める。 つい…

86.アーモンドの花《ALMOND(Ortigia)》

ラクレットの店で、こってりしたチーズのスイス料理の後に、アーモンドフレーバーのエスプレッソを飲んだ。 なんだか今年は香水でも植物系ミルクと並んでアーモンドが気になっている。 いくつかのブランドでもその傾向はぼちぼち見られている。 そのきっかけ…