polar night bird

香りの記録

17.夢(アルギィエン スエニャ 他)

昨日は六本木に行った。

 

翌日がホワイトデーだからか、空は灰色で外は肌寒いにも関わらず、ミッドタウンやヒルズ周辺は仲睦まじいカップルらがいつもより行き交っていた。

わざわざそんな日曜になぜ独り者が六本木に行ったかと言うと、以前フェギア1833に赴いた際、3月の半ばに新しいコレクションが追加されるという話を聞いていたような気がしたからであった。

 

まず、エストネーションのバレードの棚に行った。 前にも書いたが、バレードの香りは試香した直後は言葉が見つかるのに、なぜか気付いたら具体的な感想を忘れてしまう。白昼夢を見ていた気分である。

今回やっとの事で記した所感は以下。

 

 

 

モハーヴェ ゴースト(MOJAVE GHOST EDP)

→明るい甘さが明確に香る。人工的な甘さではない。調べたらサポジラという柿似の味のするフルーツが調合されていた。周りがウッドや落ち着いた類いのフローラルで構成されているからか、南国のフルーツが調合されていながらジューシーで香りが強過ぎない。各々の香りがお互いさりげなく調和し丸くなっている印象で、空気や気配を思わせた(この所感はバレード全体に持っている)。

雰囲気を変えたり気分を上げるというよりは、日常に溶け込む香りだった。

 

 

フルールファントム(Fleur Fantome)

→フレグランスキャンドルである。詳細は忘れてしまったが、ゆったり落ち着きながらそれでいて胸が締め付けられるような愛おしい花の香りがした。

アロマティックで豊かな香りだったので、夜部屋いっぱいに焚いてから眠りたい気分になった。

 

右の手甲にモハーヴェゴーストを乗せつつグランドハイアットのフェギア1833へ行くと、まだ新コレクションは発売されていなかった。

まだ早かったのか、それとも聞き間違えたのか。懇意にしてくれる店員さんもいなかった。

一方店内はにぎやかで、客に紛れて気に入りのアルギィエン スエニャを心行くまで試香出来た。

所感は以下。

 

 

アルギィエン スエニャ(Alguien Sueña)

→レイヤーが深いタイプの香りではないと思うのだが、毎回香り方が変わる。

吹いた直後はベリー系と花の甘みとグリーン系の苦味が柔らかく広がる。どこか遠い地の、木の実の茂るあまり日の当たらない静かで湿った草むらに1人横たわって呼吸している気分にさせてくれた。

今回は時間が経つにつれイランイランとカシスが割と強く混ざり合い、しっとりとした1つの渋みのある甘い香りを作り出したのだが、人によると土や青臭さが強く出てしまう人もいるらしい。私も初回の試香ではドクダミの類のような癖のある苦みが表立って香って気になった。

しかしながら、それ故に全貌を掴めず何度も嗅ぎたくなってしまう香り。肌にしみ込ませるというより身に纏うような付け方をしたい。

 

 

 

アルギィエン スエニャは、ボルヘスの詩に出て来る「誰かの夢」という言葉を冠した香水らしい。 

夢を纏うというのは何とも詩的である。

アルギィエン スエニャの、かつて誰かが夢で見た木の実と土と草と大気を身に纏う。

そうして誰かの夢に抱かれた私が今夜見て覚めるであろう夢の木の実と土と草と大気もまた、誰かが「誰かの夢」として纏う。

夢は誰かの夢なのだ。誰かの夢によって抱かれ、夢によって誰かを抱いている。

 

ボルヘスがどんな文脈で「誰かの夢」という言葉を使ったのかは分からない。もちろんこのような意味で使う訳もないのだが、己の非合理な妄想に耽溺するには充分な香りである。

何にせよ、購入を決めている香水の1つで、機会を見て買いに行ければと思っている。 

 

しかし、今回バレードで試香したモハーヴェゴーストとフルールファントムも気に入ってしまった。

どれにしようか、どれも買おうか楽しく悩んで眠った昨日の夢は

大学のゼミに何故か2週間以上行っておらず、制作も進んでいない上に先生に咎められ、ものすごくびくびくして講義を受ける

という夢であった。

 この夢も、いずれ誰かを抱きに行くのだろうか。

 

 

 

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 フェギア1833

FUEGUIA 1833 Laboratorio de Perfumes, Patagonia