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日々の糧—香り日記—

日々出会った香水について記してゆく日記。

19.5 猫の香り(飼い猫)

今週のお題「犬派? 猫派?」


実家に猫が二匹いた。

一匹のオス猫は新参者の暴れ者で、もう一匹のメス猫は人間の様な目をした大人しい猫であった。

彼女が家に来た時、まだ私の方がずっと年上で、遊びたがる彼女のお陰で皆手が傷だらけになった。しかし、いつの間にか彼女の方が先に年を重ねて、声を上げずに静かにこちらを見つめる控えめで不気味な猫になった。


彼女は毛が柔らかく、よく触らせてくれた。

たまにその毛に顔を埋めると、父の吸うタバコの香りと日干しした布団の良くいうお日様の香り。あとは木の様な、乾燥している冬の風の様な香りがした。獣じみずに甘くなく、クールでカサついた、好みの香りだった。

それはだいたい毎日、大好きな父のそばか、その父が彼女の為に作ったバルコニーの木製キャットタワーの上で日向ぼっこをしているからだ。  

何を考えているか皆目分からない猫だったが、彼女からは彼女の大好きなものの香りがしていた。

人から離れたくなり授業を休んで大学から帰った日の午後、誰もいない居間で寝ている猫の腹部に顔を埋めて香りを吸い込んだ思い出は、結局モラトリアムでしかないのだが、誰にも邪魔出来ない、好きなものが大好きな彼女と私の共犯の時間に思えた。


当然、今はもうそんな気だるい平日の午後は生活の中に存在しない。

彼女も去年肝臓癌で死んでしまった。

最愛の猫を失ったショックで帯状疱疹を患った父は、その時の検査によって肺癌が発見され、煙草を吸えない身体になった。


今は私が煙草を吸っている。

煙草の香りを嗅ぐたびに、その今はもう嗅ぐことのできない香りと猫の眼差しの記憶が蘇る。

動物にはあまり興味はないのだが、強いて言えば猫派なのかもしれない。