今週のお題「犬派? 猫派?」
実家に猫が二匹いた。
一匹のオス猫は新参者の暴れ者で、もう一匹のメス猫は人間の様な目をした大人しい猫であった。
彼女が家に来た時、まだ私の方がずっと年上で、遊びたがるおてんばな彼女のお陰で皆手が傷だらけになった。
しかし、いつの間にか彼女の方が先に年を重ねて、声を上げずに静かにこちらを見つめる控えめで少し不気味な猫になった。
彼女は抱き上げさせてはくれなかったが、よく触らせてくれた。
たまにその柔らかな毛に顔を埋めると、タバコのようなスモーキーな香りと日干しした布団の様な良くいうお日様の香り。あとは木の様な、乾燥している冬の風の様な香りがした。獣じみずに甘くなく、クールでカサついた、好みの香りだった。
それはだいたい毎日、煙草を吸う大好きな父のそばか、その父が彼女の為に作ったバルコニーの木製キャットタワーの上で日向ぼっこをしているからだ。
何を考えているか皆目分からない猫だったが、彼女からは彼女の大好きなものの香りがしていた。
人から離れたくなり授業を休んで大学から帰った日の午後、誰もいない居間で寝ている猫に顔を近付けて香りを吸い込んだ思い出は、誰かの宝物を見せてもらった時のような感覚で蘇る。
当然、今はもうそんな気だるい平日の午後は生活の中に存在しない。
彼女も去年膵臓癌で死んでしまった。
最愛の猫を失ったショックで帯状疱疹を患った父は、その時の検査によって肺癌が発見され、煙草を吸えない身体になった。
どこかでふと煙草の香りをとらえるたびに、彼女の穏やかな眼差しとその今はもう嗅ぐことのできない香りの記憶が蘇る。
私は猫派なのかもしれない。