知人と六本木のフェギア1833へ行った。
前々からフェギアの香水を紹介したいと思っており、今回ついにそれが叶ったのであった。
まず、エストネーションへ行き、バレードやアニックグダールやフランシス クルジャン、アトリエコロンなどの嗅ぎやすいものたちに親しんだ。
やはり誰かと回ると自分とは違った感想を聞くことができて面白い。人によって香りの感じ方は様々だと改めて勉強になった。
フェギア1833に行くと、新作が幾つか店頭に並んでいたが、それらについてはまた今度試香しようと思う。
今回はアルギィエン スエニャと並んで気になっているエロヒオ デ ラ ソンブラを主に試香した。
所感は以下。
エロヒオ デ ラ ソンブラ(Elogio de la Sombra)
→アイリス、ベルガモット、ミモザの香り。フローラルウッド系。
トップはミモザの香りが柔らかで優しい。葉と花の透明感もあるので嗅ぎやすく纏いやすい香りだが、トップが過ぎて15分しないうちにツンとした鼻に抜けるような清潔で煙めいた香りが加わり始める。これはアイリスが入っているからかもしれない。
体質の問題だが、私の肌ではこの煙のようなウッド系の香りが強く香る。そのため、ミドル以降はトップの青空や地に緑を感じるような自然的・具体的なイメージが覆され、突如開けていた視界がシャープな光沢のある神聖なベールに包まれてしまった様に感じられた(決して嫌いな感覚ではない)。かつての葉と花は手探りで探せば遥か遠くに微かに感じる事が出来る。
ちなみに「エロヒオ・デ・ソンブラ」とはボルヘスの詩集「闇を讃えて」から取られている。
私が好きな詩集の1つだ。
残念ながらフェギア1833には知人の好みの香りはなさそうであったが、
彼女がティンタロハ、アルギィエンスエニャ、エロヒオデラソンブラについて
「蜃気楼系の香りですね」
と興味深い言葉をくれた。
確かに、追憶、失望、忘却、死、不在、夢を孕んだ名前を冠したそれらは、常にゆらゆらと揺れ動き、香り同士が混ざり合った水脈としてではなく、香りがお互いを隠し合い1つの幻の香りを作り合っている。
詩香用のフラスコを傾けながら上げた視線の先の、店の入り口から覗くロビーはとても薄暗く、全てが静止しているように思えた。
エロヒオ デ ラ ソンブラと共に目の前に広がる照明や窓が薄く映り込む黒い床は、いつも以上にそこに何も無い様に感じさせていた。
フェギア1833