人は変わるもので、最近、グリーンやボタニカルの香りに関心がある。
去年から今年の始めにかけては専ら濃厚なチュベローズやジャスミンばかり気にしていたのに、この変わり様は何なのだろう。
疲れているのだろうか。
夏に自然に触れる機会が多かったからだろうか。
それともファッション香水に溢れ過ぎている「センシュアル」や「清楚」「女性らしさ」「自由」などの記号に食傷気味だからだろうか。
何にせよ、気候による一時的な気の迷いだったら恐ろしいので、今は香水を購入することをためらっている。
しかしながらどうしても試香だけはしていたい。
ということで、今月の7日にフェギア1833に赴いたら、ちょうど限定品の新作が発売されていた。
そのパンパ セカはパンパ ウメダのスピンオフ的な香水らしい。
調香の情報が無かったので、どの香りが何かが克明に思い出せないのが口惜しいが所感は以下。
パンパ セカ(Pampa Seca)
→トップは草と土の香りがする。青々としたグリーンと土のひんやりとした低調な香りがリアルに表現されており、一瞬で草原の中に身を置いている様に感じる。そこに感じられる優しい甘さはクローバーだろうか。(パンパウメダにはシロツメクサが入っているらしい。それと少し似ている)その甘さがグリーンの香りを引き締め、力強くしている様に感じる。
パンパウメダはその湿った露も表現している深い青緑色のグリーンだが、このセカは説明通り乾いた大気を彷彿とさせる。色で言えば黄色味が掛かっており、太陽に照らされて水分と栄養を沢山その身に蓄えた草の甘さをイメージさせる様でジューシーだった。
時が経つといつの間にかトップの臨場感のある草の香りは姿を隠し、甘い露の様なクローバーの香りとハーブの香りが心地良く香る。
子供の頃に何も悩む事無く夢中で遊んだ堤防の芝生がちょうどこんな感じの甘い香りだったのを思い出した。
ちょうどその日の朝は雨が降っており、グリーンが良く香った。
数量が少なかった記憶がある。
もう売り切れてしまっただろうか。
見事パンパの草の香りに魅せられてしまった私は、その日は必死に自分のものにしたい気持ちを抑えて店を後にした。
その翌週、懲りずに銀座東急プラザへ遊びに行った。
パンパ セカによるグリーンへの衝動を忘れようとしていたのにも関わらず、そこでもまたハーブ系の香りとの出会いがあった。
とあるショップに南仏の山奥で生産されているマドエレンの香水が売られていた。
マドエレンはその製造環境や香りから、前々から気になっていた。
ポプリは伊勢丹でしばしば見ていたが香水は初めて実物を見たので、やや興奮気味で試香をした。
そこで店員さんに勧められたのが以下。
スピリチュエル(SPIRITUELLE)
→トップからとても鮮やかなミントの香りが広がる。ミントの香りの香水やルームフレグランスは少なくないが、ここまで摘みたてのミントのような豊かな香りは珍しいのではないか。茂みの上に広がる空やその他のものを感じさせないくらいの深い緑。ミント葉に乗った水滴の瑞々しさまで感じる事が出来る。ミントの他にもハーブの香り(パチュリのこくのある苦み感じる)や柑橘系のピールの様な香りをいくつか奥の方に感じることができ、それが一層緑の深い茂みのような香りを豊かにしている。シングルノートなのでここから香りが大きく変わる事はない。
もちろんミント特有の鼻に抜ける爽快感はあるが、一般的なリフレッシュ効果というよりもグリーンに飲み込まれる感覚がある。ミントの茂みに横たわったら視界までもこのような香りに包まれるのだろう。
名前の如く、深い緑の精神世界に思いを馳せられた。
緑を感じさせる香水にも様々なアプローチがあるが、これらは緑の緻密な描写が美しい2本だった。
試香を終えたところで、なぜそれらに惹かれているのだろうか今一度考え直してみた。
グリーンは確かに華やかさで言ったらローズやベリー、チュベローズなどの香水よりも引けを取るかもしれない。
合成香料の効いた都会的な香りよりも使い勝手もイメージが広がりにくいかもしれない。
ただ、この2本の香りを吸い込んだ時
私は私の身体が土に帰る時、何の香りに包まれながら、何の香りを思い出すのだろう。
と、そんな事を考えていた。
結局のところ、季節の変わり目のせいなのかもしれないが。
フェギア1833
FUEGUIA 1833 Laboratorio de Perfumes, Patagonia
マドエレン