日々の糧—香り日記—

日々出会った香水について記してゆく日記。

44.アエデス デ ヴェヌスタス(イリス ナザレナ 他)

 すこし前、ワイン好きの知人に銀座でワインとフレンチをご馳走になった。

その知人とは年も親子くらい離れており、デートという雰囲気ではない。ただワインについて教えてもらおうという話から食事をすることになったのだった。

そこでその彼が選んでくれた赤ワインの香りの違いを楽しみつつ、すこし気取ってイタリアの車やシュルレアリスムの話などをしてその日のディナーは終わり、夜の銀座で一人になった。

 

もちろんその知人と会う前も、香水を探しに歩いていた。

丸ビルのコンランショップから三越に行き、 最終的にバーニーズニューヨークにたどり着いた。

前にニューオータニで試香したアエデス デ ヴェヌスタスをもう一度嗅ぎたくなったからだった。

バーニーズニューヨークの香水のカウンターの端に置かれたアエデス デ ヴェヌスタスのボトルは遠くからでもすぐに正体が分かった。このデザインも気入っていたりする。

今回はウィエベンガルとイリスナザレナを試香した。

 

所感は以下。

 

 ウィエ ベンガル(Oeillet Bengale)

→バラの一種が使われている。カーネーションになりたかったバラが己の身に火を纏うという物語が添えられた香水なのだそう。調べるとバラでベンガル・サントゥフーユという花弁の多い種がみつかった。このバラの物語なのだろうか。

トップはクラシカルなローズの、カーネーションを彷彿とさせる赤い花の生花のような辛口の香りが広がるが、間もなくナツメグやシナモンなどの、生花の刺激とはまた違った温かなスパイスの香りがバラの香りに絡まる様に鮮やかに沸き立ち始める。花の香りはスパイシーな乾いた香りに飲み込まれ、その熱を帯びたミドルが過ぎると、トップにまた戻って行く様に、だが燃え尽きた灰も感じさせる静かなカーネーションとムスク、サンダルウッドの香りが残される。

真夜中に1人自分の姿を見つめ直す様な、心地の良い静寂のラストの香りは、トップからの変化を経るからこそ圧巻で耽溺できる。

冬に最適な香り。出かける時にも纏える香りだが、その物語性を考えると家で一人で纏ってリラックスしたり、大事な人とシーツの様に纏っても良いのではないかと感じた。

 

 

 

 

イリス ナザレナ(Iris Nazarena)

→イリス、ウードやジュニパーベリー、フランキンセンス、ローズなどという、色味もそのボトルの色にふさわしい落ち着いた調合。以前アパルトモン アルシミストで試香した時、店員さんが「寺院の石畳を彷彿とさせる」という言葉で説明してくれたことを思い出した。

確かにその通りで、ムエット上や肌に乗せた直後は、甘みは感じず、べチバーやフランキンセンスの筋の通ったクールな香りの中にウードの深くスモーキーな香りが禁欲的に香る。ローズが入っているそうだが、それらしい香りに感じるのは華やかさというよりは薬草としてのローズの香りに近い。

オリザのレリーク ア ダムールが好きな人は好きになるのではないか(現に私がそう)。それよりも草花の気配は無く、静謐で広大な寺院の外の光景がイメージできる。

しかし今回は、肌に乗せて暫くするとイリスとウードの香りが台頭してきた。パウダリーなのだが肌に張り付くようにしっとりと濃厚な優しい香りに変わった。この変化についてはトップの荒涼とした風が吹いているような香りからは全く想像が付かず、そこになんとも言えない、成熟した深い色気を感じた。

 

 

 

アエデス デ ヴェヌスタスの香水は他のニッチフレグランスと比べてクラシカルで落ち着いた香り方をすると思うが、今回初めて、実はどの香りも情熱的なのかもしれないと感じた。

恋・官能的といった安易な表現で語り尽くせる情熱ではなく、ウィエベンガルのバラの渇望のような、そんな熱さのような気がした。 

愛する人と一緒にいるときに2人の周りに振り撒く香りを選ぶなら、すこし迷ってアエデス デ ヴェヌスタスを選ぶだろう。

 

 

 

 しかし私は銀座のルノアールで1人、無機質な長方形をしたムエットと睨み合っている。

 食事に行く前だというのについ肌に少しだけ乗せてしまったイリスナザレナは食事の時間にはなりを潜めていたが、手首に顔を近づけたらまだ優しく仄かな残り香を湛えていた。

私がアエデス デ ヴェヌスタスの香りのような、感情の燃えるような深まりを感じたのはいつだったろうか。

 

ふとそう思ったらなんだかさらに温まりたい気持ちになって、先程知人と交わした同性の中年同士の様な会話を、いかに甘美に脚色して思い出に残そうかと暫し背もたれに身体を預けて考えた。

 

 

 

 

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