日々の糧—香り日記—

日々出会った香水について記してゆく日記。

48.クリスマスの旅(ア ラ ニュイ 他)

クリスマスが誕生日だったりする。

誕生日だからこそ、自分のやりたい事を誰にも邪魔されずに気ままに行いたいので、周囲に「クリスマスに予定のない寂しい女」と言われても毎年一人で散歩に出る。予定はぎっしり詰まっているのだ。

 

今年はやはり香水を巡って銀座と六本木を散歩をした。

まずは銀座の資生堂でセルジュ ルタンスを見た。

今までセルジュルタンスの香りやコンセプトのパリ的洗練加減がどうも得意でなかったが、今日は珍しくアラニュイが気に留まった。

 

 

 

ア ラ ニュイ(A La nuit)

ジャスミンが全面に押し出されている。トップから白い花の青みの分かる生花のようなジャスミンの香りが立体的に広がる。だいたいジャスミンというとバニラや他の甘みのある花との組み合わせでミドル以降に濃厚になる傾向があるが、これにはバニラではなくホワイトハニーが入っているため、変に濃く甘くなったりベタついた香りにはならない。夜にふと出会った暗闇の中に浮かび上がるジャスミンの花といった雰囲気。とにかく澄んだジャスミンの香りで、拮抗してくる余計な香りが無い分引き締まっている。

ミドルから徐々に清潔感のあるムスクや仄かにクローブが目立ち始め、始まりの克明なジャスミンの香りは落ち着き、柑橘系のようでもある瑞々しく凛々しい香りに変わって行った。

これもまた夜をテーマにした香水だが、官能系に寄りがちなジャスミンの香り方がストイックに感じたのでとても気になった。生花の部分は幾分かクラシカルな香りにも感じる。

 

 

 

 

 アラニュイのおかげでセルジュルタンスへの個人的評価を簡単に変更できた。

まだルタンスのオリエンタル系の香りに関してはどうしても強く感じてしまって鼻が慣れないのだが、これから少しずつ肌に乗せてみられればと思う。

 

そのまま歩いてバーニーズニューヨークへ行った。

軽くもて回るだけにするつもりが、クリードの説明をしてもらっていた。

クリードもまた、その値段の上流階級感と個人的な好みと肌との相性でもやもやとした体験しか出来ていなかったブランドだった。

そこではラブ イン ブラックとホワイトフラワーズを試香した。

 

 

ラブ イン ブラック(LOVE IN BRACK)

→ボトルの漆黒さから、ついきつめのオリエンタルだったりスパイシーな香りを想像してしまったが、甘さは優しくやや重めのアイリス系の香り。ブラックカラント、紫のバラ、バイオレット、ムスクなど名前の通りの調香。

最近のムスクは全て合成香料で作られているが、このムスクは採取と流通が禁止される前にクリードがキープしていたジャコウジカから取られた希少な動物性のムスクが使用されているらしい(クリードでも使用しているのはこの香水だけらしい)。それ故なのかどうかは分からないがムスクのある種石鹸のような香りと共にレザーのような滑らかなコクを感じた。

官能的な感情ではなく、野生の母性をイメージしたのは私だけだろうか。

 

 

レ ロワイヤル エクスクシュリブ ホワイト フラワーズ

(Les Royales Exclusives White frowers)

 →値段から始まるのは卑しいが、ただでさえ高価なクリードの中でも5〜7万円という価格。しかし、それでも仕方がないと思える。夢の世界を表現した香りらしくホワイトフラワーやローズの花々の香りは花の蜜のような仄かな甘さと丸みを帯びて羽のような軽さで包み込む。細かく何の香りがどうでという説明は不要の類なのだろう。店員さんは「天上の香り」のようなニュアンスでこの香りを表現していた。耽溺というより、空を舞える香り。

以前所感を書いた20万のアラローズ エクストラに似た多幸感だったので、ある一定以上の香料の力を見せられた気がした。

 

 

店員さんと話しているうちに、クリードの多くにはベルガモットが含まれているらしいと知った。それがあのクリードのやや内に入ってゆくような独特の質感を感じさせるのだろうか。

明確な答えは分からず終いだったが、クリードの知見は深まった。気がした。

 

 

最後に六本木に寄った。

本命のフェギアで香水を買うためだった。

グランドハイアットはクリスマスを過ごす客で賑やかだったが、フェギアの店内は変わらず丁度良い照明の明るさと静かさだった。

 

 

ジョーバン ノーチェ(LA JOVEN NOCHE)

ボルヘスの詩「若き夜」の幻想の夜を表現した香水。産地の異なる白檀のみの調香で、伐採されてしまい絶滅が危惧されている白檀の香りを調香師のジュリアン・デベルがイメージで作り出したそうだ。

サンダルウッドというと「お線香の香り」というイメージが付きまといがちだが、この香りはそんなことはない。最高級の白檀の、滑らかで乳白色の控えめでふんわりとしたやさしさのある香りは少し甘く、シルクの玉のようなイメージを受ける。だんだんと増してゆくパウダリーさの中で漂うようで、ウッド系の乾燥した調子はあまり見られず、肌に溶け込むように香るので、さらに深くまで嗅いでみたくなる。内省的。

ローズが入っていないところが美しい。甘さはあるが、ユニセックスの香り。

 

 

 

最初はやはり念願のアルギィエンスエニャのトワレを購入予定だったが、このジョーバンノーチェを知ってしまったら決意が揺らぎ始めた。

両腕に各々二つの香りを乗せて、何度も交互に聞いた後、今回はアルギィエンスエニャを購入することにした。

ジョーバンノーチェも一度出会ったら忘れられない素敵な香りなので、また購入する機会はたくさんあるだろうと思う。

 

アルギィエンスエニャのトワレはリニューアルに伴って、前のタイプよりパチュリが弱くなっているが、今回の調香は、カシスのバランスが一番上手く行った自信作らしい。

肌に乗せるとややカシスが強めに香ったが、トワレなのでこれなら春先まで使えそうだった。

 

フェギアの紙袋を手にして新宿に戻った時、漸くクリスマスの香りの旅が終わった。

心地い疲労感と眠気と、いつの間にか鼻が疲れきってしまった鼻は、すれ違う人々の香りも、自分の両手に乗せた香水の香りも判断できなくなっていた。

 

旅の終わりはいつも、眠りから覚めるようにやってくる。

新宿は人がたくさんいた。

人が多すぎて、クリスマスの曲もイルミネーションも、とても遠くに見えているように感じた。

何かに急ぐ人の流れに乗り切れずに逃げるように入り込んだ地下の通路で、一番鼻に近いマフラーに、買ったばかりのアルギィエンスエニャを吹きかけて帰った。

 

 

 

 

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