日々の糧—香り日記—

日々出会った香水について記してゆく日記。

70.レジーム デ フルールの花の中(ターコイズ/ゴールドリーブス)

レジーム デ フルールが日本に来るとは思っていなかった。

そのマットで鮮やかな発色のボトルは海外のサイトで稀に見かけていたが、それ以上の情報も無く、どんな香りの傾向なのかは全く予想がついていなかった。

 実は発売日の前日くらいに日本への上陸を知り、急にわくわくした気持ちで一日を過ごしたのを覚えている。

 

発売日の次の日あたりに銀座のエストネーションを覗きに行くと、丁度レジーム デ フルールのお披露目パーティーイベントが行われていた。

中は業界人のような人々ばかりで(作者の二人の姿もあった)通勤帰りの一般人にはそぐわない雰囲気だったが、興味本位で見物がてらに試香しに寄ってみた。

 

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 その会場でとりあえず全種類試香はしたが、今回はターコイズ、ゴールドリーブスの所感をまとめようと思う。個人的にはファウナが一番気に入ったが、各々とても深い香りの上に一度に試香しすぎたために所感をまとめるのはまた今度にしようと思う。

所感は以下。

 

 

 

ターコイズ(turquoise)

 →ターコイズがイメージされた香りらしいが、トップの調香はローズバッド、野草、ウコン、ヘディオン。野草とウコンを中心とした、ドライで渋みのある、臨場感のある野生のグリーンの香りが現れる。干し草やフレッシュなハーブというよりも、硬い大地に生えている草の乾いた緑色の香りだった。それらはヘディオンの影響か、やや体温を持った丸い形を描き中心に集まるような厚みのある質感をもって香っているのだが、ミドルになるに従ってそれらが解れて平らになるように花の香りが現れるのが心地よい。

ミドルの調香は金香木、フルーツ、キャシーフラワー(キャシーフラワーが何なのかは分からなかった)。金香木は本来甘く濃厚な花の香りだが、トップのドライな香りが続いているからか、それらとミドルが複雑に混ざり始める中、鮮やかさと明るさがそれらに当たって跳ね返るようにコントラストとなって現れる。とても高い位置で花が咲いているようなイメージを受けた。その後のベースに重みのある蜜蝋アブソリュートとベンゾインが控えているにも関わらず、私の肌だからだろうか、それらが分かりやすい主張をすることはラスト以降もなかった。それらのなめらかな香りはトップから続く木の根のような硬質な香りにツヤを与えており、ミドル以降のそれはターコイズのこっくりとした青と滑らかな曲線を思わせる。

ラストも甘みと言うよりはミドルの甘い花の甘さをほのかに含んだ湿潤なウッドのような香りが散り散りに香りつつ、それの先にある野草のドライさを残したターコイズの地面は、堅固ですべやかな冷たさを思わせる香りとして鎮座している。

トップからラストにかけて随所に石らしさを感じたのは先入観からだろうか。その硬質さがあるおかげか、さりげなく現れた花の香りはどれも滑るような自由なスピードを感じる事が出来た。

 

 

ゴールドリーブス(Gold Leaves)

 →トップは月桂樹、カルダモン、セドラといったハーブ系のグリーン中心の調香となっている。表層のカルダモン、セドラの清涼感は鋭利ではあるのだが、中心に行くほど香りの粒は軽い印象で、ミドルあたりのアイリス的なパウダリーで、控え目な甘さをその奥に感じるため深く吸い込める。それと同時に、甘さと混ざり合った形で金属的にも感じるある種の渋み(グリーン系由来という事は感じたのだが…)があり、それが弾けるように香る。

ミドル以降は花の香りが肌に定着してゆくのに気付く。雲が晴れるように、アイリスの内に籠る乳白色めいた滑らかな香りが体温に乗って露わになるものの、グリーンとラストのアンバー系とが混ざった結果なのか、パチュリのような深いグリーンの苦みが常に後ろに控えている。それは不快なものではなく、ミストのように花の甘みを受け止めており、ラストに近づくにつれて現れるオークモスやシダーウッド、ムスクなどの空間的な広さと清潔感のある香りと相まって、ミドルの花の香りを抽象的な輪郭で肌より少し浮かせた状態に押し上げて香らせ始める。

 ラストはそのままムスク、オークモス、ウッドの香りが強くなるものの、そのグリーンはトップの苦みによく似ている。しかしそれは最初に逆戻り、というわけではなく、金属的なきらめきはライラックのような淡い光を帯び、それに混ざって余韻として感じ取ることが出来る、かつて通過したアイリスの優しい重みやオークモスの湿潤感、アンバーの濃い深みによって洗練されたラストのグリーンのように感じた。残り香に不思議な愛着を覚えたのもそのせいだったのだろうか。

公式HPでは説明文にニーチェが引用されているが、その真意は聞けないままになっている。

 

 

レジーム デ フルールは全体を通して香りの変化のプロポーションが美しいと感じた。

まず、トップから花の中へと一気に入り込むような感覚を覚える。それはここには書いていないベル エポックやファウナのトップにはっきりと感じたのだが、成熟させたオイルによる、芳しくも生々しく時にえぐみを持った動物的にすら感じる花の香りは、まるで内部からその生の営みを感じているような気持ちになる。

視点はそんな複雑な花の内部から始まり、やがて縦横無尽に広がるアングルや細かい香りの編集でその花の咲く様を追っているかのように香りが展開してゆく。トップ、ハート、ラストの一応の判別は付くものの、香りは常に運動を続ける。ラストにはその香りは皮膚と一体化し、己が今まで見つめていた花そのものになったように思える余韻が残される。

そして、 もう一つは粒子の粗さが印象的だった。パウダリーと形容もできるが、従来の「パウダリー」とは少し違う。香りの個々にはそれとは対照的な瑞々しさも感じられるものの、全体の香りの拡散のしかたが粒を彷彿とさせる。それはフィルターのようで、ある時は香りを鮮明に浮きだたせ、ある時は輪郭をぼやかせてこちらの想像力を煽る。丁度ブランドのプロモーション動画のようなアナログビデオやフィルムの、奇妙なノスタルジーに似た感覚だった。

 

この値段相応の体験は、しばらく頭をぐるぐる廻る思考で満たしてくれた。

 

 

そうして、ひとしきり香りに包まれた後、華やかなパーティー会場を後にした。

あの会場に居合わせたちょっとだけ着飾った人々は、レジーム デ フルールの香りに包まれた後、今夜はどんな夢を見るのだろうかと考えながら駅の階段を下りた。

 

regimedesfleurs.com