日々の糧—香り日記—

日々出会った香水について記してゆく日記。

71.アゴニストの冬(ソラリス/ブルーノース)

と春や夏よりも、秋の終わりから冬にかけての季節に心惹かれる部分がある。

 今は夏から秋への変わりどきで、そろそろ気に入りの秋冬用の香水に変えようかどうしようかと思案していた。

 

そんな中、NOSE SHOPにアゴニストが入荷されたのをその2日後に知った。

アゴニストはバレードやSTORA SKUGGANと同じスウェーデン発の香水だ。STORA SKUGGANを調べていた際に見かけ、その北欧的なモダンなデザインに常々日本に来るべきブランドだと思っていた。

そしてそんな願いが叶った今、こうしてはいられないと低気圧に負けそうな身体に鞭打って慌てて試香しに行ったのだった。

 店舗に行くと、ラボラトリオオルファティーボの隣に陳列されていた。調香の書かれたボトルのシンプルだがこだわりのあるデザインが目を引く。

 

試香してみたところ、初回はソラリスとブルー ノースが印象に残った。

所感は以下。

 

 

 

 

ソラリス(SOLARIS)

→夏の真夜中の太陽にインスパイアされていると書いてあるが、それは白夜の事だろうか。しかし、ソラリスとの銘を冠しているところを見ると、空想上の太陽なのだろうか。

トップはピンクグレープフルーツ、レモン、グリーンマンダリン、プチグレン。

青さが爽やかなシトラスが煌めくように香るのだが、よくあるフレッシュなトップというよりは、奥にはミドルのオゾンアコードが開いた空間にベースのパチュリ由来か深い緑が鎮長に流れているため、香りは奥行を感じ軽すぎない。

そのため、どこか肌とは離れた場所で香るので、シトラスと言ってもつかみ所がない。色で例えれば、どこか陰影のある、良い意味でのくすみのあるオレンジ色といったところだろうか。それが煮込まれているように甘さを増しながら肌に近づいてくる。

 ミドルになると、トップで煮込まれ良く混ざり合った香りの中に直線的に流れる甘い花のような香りを感じ始める。そこにはネクタリンやピーチの甘さ(Vigna Peachと記載があるが、たぶんこのことだろう)とその表面のようなきめ細かく優しい温度の粒子感を覚える。ベースを見るとトンカビーン、ベンゾイン、シスタス、パチュリ、アンバーと幾分か重みを感じる構成なのだが、それらもまた混ざり合いながら全体的に広がって定着してゆくために、重さを感じたり変な甘さの主張を感じたりはしなかった。明るさのあるトップからミドルの香りの奥のそれらの内に籠るような優しい甘さの配置は、絵画の中の陰影のようで、周囲の色と混ざり合った暗部の深さと安息感と全体の輪郭を浮かび上がらせている。ラストはそのまま穏やかな流れで他の香りが通り過ぎ、仄かにピーチを乗せたベンゾインとトンカビーンの落ち着いた甘さが残った。

全体的に、纏いやすい香りながら、前半の瑞々しい球を綿が優しく包んでいるような浮遊感のあるイメージを受けた。

 

 

 

 

ブルー ノース(Blue North)

→厳しく暗い北欧の冬の季節に対する畏怖と敬意、そして光への希望や憧憬が込められた香り。

トップから広大な広がりを感じさせる。調香はカルダモン、ローズマリースペアミントと言った、文字の上ではコロン的な軽さのある構成となっているものの、カルダモンの芯の通った香りとスペアミントの冷たいながらグリーンの瑞々しい甘さのある香りが少し裏返るような癖を持って香る様は、無駄を排除し洗練されており、一面冬を連想させる寒色寄りの白を彷彿とさせた。その中腹では、トップからミドルのオリスのパウダリーさが雪の様に香りのフィールドにスピードを持って拡散してゆく。オリスが含まれていると、どうしてもある種の乳白色のぬめりを感じてしまうことが多いが、この香りにはそれはない。確かに一面に広がり香り全体の形が見えるのもこのオリスの香りの力なのだが、その香りはドライでミドルになっても拡散を続けた。

ミドルの調香はミント、ヘリオトロープ、ジンジャールーツ、オリスとなっている。表層のミントの清涼感の中、ヘリオトロープのパウダリーで甘く優しい香りがオリスと相まって、人肌のようなベビーパウダーのような香りに変化してゆく。ラストのバニラはグルマンではなく、あくまで甘い花の香りとして現われ、拡散して漂うオリスとヘリオトロープの香りを受けとめるようにして肌に近づける。

ラストに向かうにしたがって、オリスの中にサンダルウッドの乾いた表情が見え始める。このウッドの乾燥感はトップから一貫して見られる特徴だが、各々のパウダリーさの中でそれがミントのひんやりとした質感とともに終始シャープな鼻触りを作り出す。そのおかげか香りの温度は常に一定になっている印象を受けた。

ブルーノースはそのテーマのごとく、鼻の前にクールな距離感で広がっている。

それはただそこにある自然の佇まいを思い出させ、その中でミドルの優しい肌のような温度は、暗い冬の中で憧れとして見出される太陽の光の母なる温かさなのだろうか。と感じた。

 

 

 

アゴニストは本当に北欧的モダンな香りだ。どの香りもさりげなくスマートだが、その実かなり捻られた香りになっている。

隣のラボラトリオオルフィティーボと比較して試香することで、ニッチ香水の前衛のアプローチも様々なのだと舌を巻いた。

しかし、やはりどうしてもラストのパウダリーさの最奥に優しさを見てしまうのだ。先に書いた様に、ただそこにある自然の厳しさの中に、 母性や生命の温かさを感じる。それはフエギア1833のラストに通じる感覚で、香水の描く自然の興味深さを改めて感じた。

 

 

 

アゴニストの上陸に、つい嬉しさを店員さんに吐露してしまい、少し恥ずかしい気分になりながら店を出た。

 

次はどんなニッチ香水がやって来るのだろう。

しかしその前に、とっておきの一本を購入したいところではある。

 

 

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