polar night bird

香りの記録

86.アーモンドの花《ALMOND(Ortigia)》

ラクレットの店で、こってりしたチーズのスイス料理の後に、アーモンドフレーバーのエスプレッソを飲んだ。

 

なんだか今年は香水でも植物系ミルクと並んでアーモンドが気になっている。

いくつかのブランドでもその傾向はぼちぼち見られている。

 

そのきっかけのあった日は、漸く仕事終わりにミッドタウン内の香りものを調査しに向かっていた。

オープン当初は遊園地さながらの混みようだったが、

それから約一ヶ月、平日の夕方は辛うじて幾分か落ち着いた混み方になってきた。

日本初上陸の店舗が多いと聞いていたのでどんな香水があるかと楽しみにして行ったところ、ルームスプレーばかりが目立って香水が見つからなかった。

このまま見つからなかったら潔く帰ろうと思いながら3階を回っていたら、雑貨屋のTempoの前を通りがかった。

すると、奥の棚にOrtigia(オルティージャ)というシチリアの香水ブランドの商品が揃っていた。

見慣れない顔だ。

何でもまだ卸す先が他に見つかっていないそうで、現在Tempoの店にしかないものだという。南青山にも店舗があるらしいが、そちらにもあるのだろうか。

 

香りはその鮮やかなパッケージデザインとは予想外に甘さが控えめであっさりとしており、香り立ちは締まっていた。ミドルレンジにしばしば見られる金属的な軋みがこのブランドに関しては良い意味でのアクセントになっていたように思う。

(因みにシチリアのサボテンの香りのフィコ・デ・インディアが一番人気だそうで、何となくフエギアのラテン感と通じるものがあった気がした。)

 

私がその中で一番気になった銘がALMONDだった。その名の通りアーモンドの花の香りらしいが、他の香りと比べて明らかに香りのトーンが違ったので興味を持った。

 

所感は以下。

 

 

アーモンド(ALMOND)

→トップはユリなどに通じる鼻に抜ける直線めいた筋感とそれに乗ったグリーン、そして奥には油脂めいた滑らかな層を感じる事が出来る。

ムエットだとその表情がはっきり分かるのだが、肌に乗せるとすぐに染み込み、端的に言えばハンドクリーム類のような香り立ちになる。香水でこのようなアプローチのものは珍しいと思った。

若干スズランのようにも思える緑の含まれた甘さが軽やかに上層で香り、それは深くは根差していない。やがてイリスやバイオレットのような柔らかなパウダリーさも奥から広がって来るのだが、それはどこかに漂ってしまう軽さというよりはやはり全体に感じるオイリーな液状感が香り立ちがしっとりと肌の上に定着させている。しかし、矛盾している表現だが、ベース自体は不思議と軽く、その部分が香りを支えている訳ではない。

各自が各自で肌に定着し各々その深度も違う印象だった。

その部分にフォーカスすると、アーモンドという名前からの先入観からだろうか、煎ったナッツのクリスピーさもあるが、この時点では何より茹でたピーナッツやアーモンドを噛んだ時の、あのやや湿った弾力のある歯ごたえとナッツのオイルが香りと共に口の中に染み渡るようなコクを最奥に覚えた。

ミドルに近付くにつれて、その辺りから感じ始める肌に張り付くような位置でこごもるジャスミンとバニラのような香りを始めとして、香りの塊全てに潤った透明なコーティングがされているような感覚を覚えた。

そこにフォーカスしていると、インセンスやフランキンセンスのような清廉に弾ける香りが奥からやってくる。由来はウッド系なのだろう。透明なコートにある時は反射し、ある時は混ざり合いながら広がって行くため、透明なコーティングの潤いは拡張されてゆく。

その一連の有りようはキリッとした軟水のような質感で、これから甘くなっていくだろうと思っていた分ミドルでそのような表情を見せるとは思いもよらなかった。

終盤になると透明なコーティングは消え始め、その透明なまとまりから解放されたパウダリーなベビーパウダーのような香りが地面にひろがって行く。そのラストもまたミドルで現れたウッドの清潔な香りと相まるものの、依然クリーム状の香り方をしていた。

アーモンドというとグルマン的な甘さのある先入観があったが、それに反して終始分かりやすい甘さは無かった。あるとしてもあくまで植物的な、生感のある甘さだった。

 さて、後程Fragranticaで公開されている調香を調べると、

アーモンド、パウダリーアコード、アーモンドフラワー、アーモンドツリー

とストイックにアーモンドで構成されていた。

ではあのいくつかの花のような香りはスズランやイリスではなかったのか。

実際に嗅いだことはないが、アーモンドの花は杏仁の香りがするらしい。それを聞くと、トップからの油脂感とスズランの様な香りはバラ科のアーモンドの花由来だったのかと納得できた。

 

 因みにOrtigiaの香りは香水だけでなくパフュームオイルから石鹸、クリスタルパフュームまで良心的な価格で広くバリエーション展開をしていた。

Almondに関しては、いずれその中の一つは買っておきたいと思った。

 

 

 

アーモンドというとやはりローストしていたり、チョコレートの中に入っているものを想像してしまいがちだったが、この香水を知って印象が大きく変わったのだった。

当たり前だがアーモンドもまた植物なのだ。

 

スイス料理屋で飲んだエスプレッソのアーモンドはフレーバーらしいアーモンドの香りだった。

しかし飲み干す時の一瞬、その中に仄かにアーモンドの花のような香りを見つけて少し嬉しくなった。

 

 

 

 

 

https://www.ortigiasicilia.com/

 

※ Tempoの他の雑貨と並ぶOrtigaは肉眼で見てほしい気もする。

tempo23.com