日々の糧—香り日記—

日々出会った香水について記してゆく日記。

30.家の前の木(ビーチ ウォーク)

最近、めっきり外が暖かくなり、春先に比べて香りに快感よりも不快感を覚えることが多くなった。
だからなのか、試香をしても文章にする気力がなかなか湧かず、ブログもこの体たらくなのだった。


歩いている表参道は、人の汗と香水と化粧品の香りといったべたついた不透明な香りがしていた。
かつて帰り道を彩った花々の時期はとうに終わり、あの甘いネロリの香りを恋しく思っていた。

春の終わりの夜、家に入る前どこからともなくネロリの甘い香りがする時があった。
辺りを見ても暗闇ばかりでそれがどこから来るものなのか分からなかったが、闇夜に香るネロリは心に温かかった。

それももう来年まで感じる事は出来ない。
そう考えたら急にしょげた気持ちになってしまい、自分の意思で来たにもかかわらず帰りたい気持ちになりながら原宿を目指して歩いた。


丁度その時、MM⑥のショップが目に入り、久々にモダンなレプリカシリーズの香水を嗅ごうと入店した。
その中で、今日はビーチ ウォークが印象に残った。今まで特に着目していなかったが、夏の今になって急に目に留まった香りだった。
所感は以下。


ビーチ ウォーク (Beach Walk)

→名前の通りマリン的な甘さが香る。しかしそれに含まれるのはバニラではなく、調べるとココナッツやミルク由来の甘さ。
バニラだと気温が高いと嫌な濃度で残ってしまったりするが確かにこれにはそのべたつきも生臭さもない。
最後まで波打ち際を彷彿とさせるような粒子の細かい滑らかな瑞々しさが続く。
酸最初は味の抑えられた柑橘の香りからはじまり、時間が経つにつれて濃厚なイランイランのパウダリーな花の甘さが混ざって来る。
甘い香りが多く使われており優しい香りだが、個々がある程度クールに管理されて混ざり合っており肌と上手い距離感で香った。(単に使いこなせていないのかもしれないが)
フレッシュな朝のビーチというよりは、やや日の傾いた海岸で香って欲しいイメージ。
23の記事のゴースと併せて夏でも甘い香水を付けたい人にはお勧めしたい。


やはり夏は柑橘系の香りが良く香る。
その日はレプリカシリーズだけで鼻が疲れてしまい、早々に家に帰ってビーチ ウォークの付いたムエットを嗅ぎながら今年も行かないであろう海に思いを馳せながら寝た。

 

次の日の朝、家の前の通りを歩いていたら、大きな夏みかんが2つ道路の脇に落ちていた。上を見上げると大きな木が茂っており、いくつか道に落ちている物と同じ形の実が残っていた。
いつも帰るのは夜遅くで、この木を日の下でまともに見るのは初めてだった。
そして夏みかんは、夜にどこからともなく香っていたネロリが家の目の前のこの木のものだったと意味していた。
その熟しきって落下した萎びた夏みかんを見て、
「お前だったのか」
とついつぶやきが口に出た。

丁度そのとき近所の老人達がやって来て、私は独り言をいう変な女として見られたが、そんな事はどうでも良かった。

 

 

メゾン マルジェラ

Maison Margiela Fragrances