polar night bird

香りの記録

29.シックで自由奔放(シック エ ボヘーム)

最近とても汚かった部屋を掃除していて、綺麗になった部屋にプッシュする新しい香水を探していた所にこの香水をネットで購入した。

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ネットだとボトルのディテールを触って感じたり試香が出来ないので出来る限り利用したくなかったのだが、

シャボーはほぼ店舗では見られていなかった香水で、これを機にネットで香水を買ってみようと思い立った。

 

いっそ何も予備知識を持たないまま購入しようと、このシック エ ボヘームに関しては一切調べずに「シックで自由奔放」という名前と画像だけで決めた。

 所感は以下。

 

 

シック エ ボヘーム(CHIC ET BOHEME)

→トップからミドルまで、ネロリ、マンダリンと甘いモモ系の熟したきめの細かい瑞々しい甘さが続くが、イランイランのパウダリー感が果実の甘さを適度に抑えて奥の方に古風とも取れる味を醸し出しレイヤーに深みを与えているのが面白かった。
先述したネロリの香りは確かに感じるが、この香水からは従来感じる青みはあまり感じられない。徐々にフルーツの香りは飛んで行き、濃厚でなめらかな花の香りに、そして石鹸の様なムスクやアンバーの香りに変わる。ラストがムスクアンバーという調合は数あるが、ミドルまでの香りに濁らせられる事なくムスクが綺麗に潔く香った。
取っ付きやすい香りなのに、名前の通り自由に漂い掴み所が無い色気がある。
夏にも使えそうではあるが、オーデパルファムらしい重みと濃さのため、カジュアルというよりはどこかに出かける時。昼間に纏うより日が沈んだ後に纏いたい香り。

 

念願のネロリが入っており、個人的に好きな香りで安心した。

 

 

掃除が終わって落ち着いた室内にシック エ ボヘームを振り撒くと、上記の家で寝付くより、外に出たくなる香りが広がった。

そもそも掃除を始めた理由は、母が
「あなたに縁がないのは部屋が散らかっているから。部屋を綺麗にすればそこに出会いが舞い込んで恋人が出来る」
と何やら精神世界じみたことをしきりに言うからで、私も私で馬鹿なと思いつつ掃除をしてしまったのであった。

 

もちろんゴミが消え去った室内には縁が舞い込む気配はなく、達成感とシック エ ボヘームの香りと出歩く気分ではない私だけが残った。

 


ただ、以前26の記事で話した節目の時に会える友人と会う予定がまた決まった。

実は、シック エ ボヘームを纏って夜に繰り出す日もそう遠くないのではないか。

 

シャボー

Chabaud Parfum

28.蜃気楼(エロヒオ デ ラ ソンブラ )

知人と六本木のフェギア1833へ行った。

前々からフェギアの香水を紹介したいと思っており、今回ついにそれが叶ったのであった。

 

まず、エストネーションへ行き、バレードやアニックグダールやフランシス クルジャン、アトリエコロンなどの嗅ぎやすいものたちに親しんだ。

やはり誰かと回ると自分とは違った感想を聞くことができて面白い。人によって香りの感じ方は様々だと改めて勉強になった。

 

フェギア1833に行くと、新作が幾つか店頭に並んでいたが、それらについてはまた今度試香しようと思う。

今回はアルギィエン スエニャと並んで気になっているエロヒオ デ ラ ソンブラを主に試香した。

所感は以下。

   

 

エロヒオ デ ラ ソンブラ(Elogio de la Sombra)
→アイリス、ベルガモットミモザの香り。フローラルウッド系。
トップはミモザの香りが柔らかで優しい。葉と花の透明感もあるので嗅ぎやすく纏いやすい香りだが、トップが過ぎて15分しないうちにツンとした鼻に抜けるような清潔で煙めいた香りが加わり始める。これはアイリスが入っているからかもしれない。
体質の問題だが、私の肌ではこの煙のようなウッド系の香りが強く香る。そのため、ミドル以降はトップの青空や地に緑を感じるような自然的・具体的なイメージが覆され、突如開けていた視界がシャープな光沢のある神聖なベールに包まれてしまった様に感じられた(決して嫌いな感覚ではない)。かつての葉と花は手探りで探せば遥か遠くに微かに感じる事が出来る。

ちなみに「エロヒオ・デ・ソンブラ」とはボルヘスの詩集「闇を讃えて」から取られている。

私が好きな詩集の1つだ。

 

 

 

残念ながらフェギア1833には知人の好みの香りはなさそうであったが、

彼女がティンタロハ、アルギィエンスエニャ、エロヒオデラソンブラについて

「蜃気楼系の香りですね」

と興味深い言葉をくれた。

 

確かに、追憶、失望、忘却、死、不在、夢を孕んだ名前を冠したそれらは、常にゆらゆらと揺れ動き、香り同士が混ざり合った水脈としてではなく、香りがお互いを隠し合い1つの幻の香りを作り合っている。

 

 詩香用のフラスコを傾けながら上げた視線の先の、店の入り口から覗くロビーはとても薄暗く、全てが静止しているように思えた。

エロヒオ デ ラ ソンブラと共に目の前に広がる照明や窓が薄く映り込む黒い床は、いつも以上にそこに何も無い様に感じさせていた。

 

 

 

 

フェギア1833

JORGE LUIS BORGES - FUEGUIA 1833

27.寝る前(ヤタイ)

最近休みが職場の行事で潰れ続けてブログも私も停滞気味だ。
 
 
先日伊勢丹を訪れたら、幸か不幸か、このタイミングでエルメスルバーブエカルラットが再入荷されており、アトリエコロンの100mlを買う気持ちに揺らぎが出てしまった。
そこで、ひとまずポメロ パラディの30mlを買った。
 
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やはり夏に気持ちの良い香りで
アトリエコロンが開発したコロン アブソリュ というコロンの様に瑞々しいながら持続性の高いカテゴリーの香水。コロンの様に気軽に吹いてオーデパルファムのように暫く楽しめる。そして最後は嫌な残り香を残さずに潔く消え去ってくれる。
 
 
 
 
仕事終わりには当たり前だがその香りはすでに消え去って久しく、家に帰る頃にはボディクリームの香りやら何やらが沈積したような濁った自分の香りに嫌気を覚え始める。
 
家に帰ると、まずフレグランスキャンドルに火を灯す。
今はフェギア1833でティンタ ロハと共に購入したヤタイが1番気に入っている。
 
 
 
ヤタイ(yatay)
→柑橘や花・ハーブとは違った独特の香り。
調べると、アルガローボというラテンアメリカに分布している木の実、マルメロ、デーツの香りが調合されているらしい。
(神聖な木”ヤタイ”とはアルガローボの事なのだろうか。)
確かに、あまり水っぽくはないが杏子などの果実寄りの香りではある。葉の香りも入っているのだろう、火の温かさの周りを良い距離感で漂うほのかな甘さに、神秘的な南国の木々を思わせる熟する前の様な鼻に通る酸味。
アロマティック過ぎずクールに香るが、あまりお目にかかれない木の実たちの香りだけあってついついのめり込んでしまいそうな不思議な魅力がある。
 
 
 
 
 
 
風呂上がりに電気を消して、焚いておいたこのキャンドルの香りと灯り1つでいるととてもリラックス出来る。
大人数で賑やかに騒いだりするのもたまには楽しいが、やはり根が暗いので1人で薄暗い部屋にいる夜が好きなのだ。
 
 
ベッドには安眠用の中国土産の桂花の匂い袋が待っている。
桂花の香りに包まれてさっさと眠るのもそれもそれで幸福感がある。
しかし、ベッドに向かう前にキャンドルの前で眠気を迎えて夢と現の間をさまよう様な、どちらにも属さない時間も大切なのではないかと思っている。
 
 
 
フェギア1833
 
 
 
 
 
 

26.転換期(ポメロ パラディ 他)

日曜日、夕方に友人と会う予定だった。
 
その友人は、いつもは中々お互いの予定が合わずに会えないのだが、何かの節目になりそうな時は不思議とすぐに会える。
今回もどちらか、あるいは両者の転換期が近いのかもしれない。
 
そんな転換期という事だし、午前中に新しく買う春夏用のコロンを決めようと思っていた。
(前に書いたアロマリン社のティーは気に入り過ぎてもう使い切ってしまった)
 
当日は晴れておりあまり外を動きたくなかったので、六本木はエストネーショングランドハイアットに向かった。
 
フェギア1833では、夏を思わせる水色のリネンシャツを着た男性が店員さんと熱心に香水の話をしていた。
そのせいでだいたいの香水を試行出来なかったが、お目当ての香水の場所は何とかキープ出来た。
名前がパンフレットから見つからない所をみると、やはりこれが新作なのだろう。
所感は以下。
 
 

アグア デ ガーデニア(AQUA DE GARDENIA)

→水の流れを感じる瑞々しさにガーデニアの甘い香りが織り込まれる。ガーデニアというとやはり濃厚でそれなりの重さが出るものが多いが、これは重くなく名前通り水に浮くガーデニアを思い起こす。
しかもその水はただの水ではなくコクがあるのだが、何なのだろうかと考えていたら何と茸の香りが入っているらしい。確かに言われてみると、まさにポルチーニ茸の香りのコクであった。一旦茸と知るとガーデニアではなく暫く瑞々しい茸の香りに思えてきてしまうが、それはそれで豊かな体験だった。他にない個性的な香りだが場所を選ばず纏いやすいのではと思った。
 
 
その後、エストネーションに寄り、たまにはアトリエコロンでも嗅ごうかとカウンターに寄ったら、夏のような暑苦しい陽気にだらしなく緩んだ心に爽やかに浸透する香りが揃っていた。
その中でも気に入ったものは以下。
 
 

グランド ネロリ(Grand Neroli)

→名前の通り、トップからネロリの香りが広がるが、それと共に清涼感のある、青みのある香り(オークモスだろうか)が共に香り立つため、花というよりはややメンズ寄りのハーブグリーンの香りの印象があった。しかし少しするとネロリと共にベルガモットの果実の香りも現れてくるため甘みと瑞々しさが加わり、生花のネロリに寄った香りに変わる。
ラストはややバニラが香り始めるからか、乳液のような滑らかな香りになった。それ以降の残り香はオレンジの気配を残した酸味とウッドの落ち着きが心地よい。
 
 

ポメロ パラディ(Pomero Paradis)

→トップから甘酸っぱくはっきりとした柑橘の香り立ち。グレープフルーツよりは苦くなくオレンジよりも甘くない。そのポメロとは何なのか調べたらブンタンザボンの事らしかった。確かに大きなブンタンを剥いた時や口に入れたときの果汁の清々しさと果肉の弾けるジューシーさを思い出せるが、カシスのような香りが入っているからか忠実なブンタンの香りではなく柑橘過ぎない甘さではある。次第にオレンジ系の香りや草花の鼻に通る青さが混ざり込むために甘さの主張は落ち着き、柑橘の爽やかさが引き立ってきた。
 
 
 
アトリエコロンは冬に一通り試香しており、その時はグリーンが強すぎる様に感じたのだが、暖かくなると逆にそれが心地良く感じて目から鱗が落ちた。
六本木ヒルズから出るころには香水はこの3品のいずれかにしようと決めていた。
多分来週か再来週買いに行くだろう。
香水もまた、決まるときはすぐに決まるのだ。
 
後は来週までに私の気が変わって急に「やはりオリザ・ルイ・ルグランのミュゲの香りが良い」「やはりエルメスルバーブ エカルラットの再入荷を待つ」などと言い出さないことを祈るばかりだ。
 
しかし、それが一番難しかったりする。
 
 
 
 
 
アトリエ コロン
※公式サイトではないが、説明欄の小話が程よく腹立たしい(好きな人は好きだろうが)のでおすすめ。

25.ある春の帰路の香り(オーデ サンス 他)

少し前の夜の帰り道、ふと良い香りがしたので周囲を見渡すと、近くの木にネロリが咲いていた。

初めての実物のネロリだった。

その香りに吸い寄せられるようにして白い花の木の下に立ち、暫くその香りを堪能していたのだが、そこでどうしても一輪家に持って帰りたくなってしまった。
少し前まで咲いていた近所の匂い桜のように手が届かない所に咲いていれば諦めたものの、その木は丁度手の届く部分に沢山花を咲かせている。

白い花は、その清廉な姿とは裏腹に甘く濃艶に香るものが多いように思う。

 気付いたら一輪手に持ってよたよた歩いていた。

理不尽に花を摘み取ってしまった良心の呵責に悩みながらも部屋に飾ったら、1輪だけにも関わらず、パウダリーかつ鮮やかな酸味のある甘い香りが漂い始めた。

 

そんな出来事がきっかけで、急にネロリの香りに対して興味が湧いてきたのだった。

甘く濃厚ながら、やはりオレンジの果実を彷彿とさせる香りだからか春夏にも使える香りである。

ネロリを使った香りは膨大にあるが、その中でもあの夜に嗅いだそれの香りに近いもの、と様々探してみた所、

プラダ、ディプティック、クヴォン デ ミニム、ジョー マローンの香水に出会った。

 

ジョー マローン

オレンジ ブロッサム(Orange Blossom)

→オレンジ系の香りとグリーン系の香りでオレンジの花をイメージさせているが、それらは別々の香りとして楽しめる。花というよりは果実の瑞々しい香りで、トップはオレンジフラワー的な香り立ちながらミドル以降はオレンジ系の果実の香りが主体で後ろに葉の様な落ち着いたグリーンの爽やかさが重なって行く。

 

クヴォン デ ミニム

オーデラブ(EAU AIMABLE)

→トップはオレンジの香りなのだが、徐々に花の香りに変わる。先に挙げたジョーマローンが花から果実への移行とすれば、これは果実から花へと逆再生感がある。しかし時を経るとオレンジの部分の青みが薄れバニラが台頭して来るのでややまろやかでジャスミン寄りの甘さになった。しかしこれも果実というよりは花の印象。(体温によってはバニラが強く香る時がある)

 

ディプティック

オーデサンス(Eau des Sens)

→ビターオレンジが柑橘系の香りを担い、ジャスミンとオレンジブロッサムの配合でトップから花の香りが漂う。ドソンやオーモエリにも感じるディプティック特有の青みがあり、それが暫くオレンジフラワーの香りのジャスミン花に似た癖を喚起させてくれた。最後はやはりその青みが強まりオーモエリ的な香りに落ち着いた。

ネロリのオーデコロンがもう1つあったが、そちらは爽やかで少しイメージと違った。良い香りだったので後ほど所感を書きたい。

 

プラダ 

インフュージョン ドゥ プラダ オーデパルファム オランジェ(LES INFUSION DE PRADA EAU DE PARFUM  FLAURE D' ORANGER)

→トップからオレンジブロッサムのパウダリーかつ爽やかな甘い香りが漂う。ジャスミンやチュベローズがオレンジの実ではなくオレンジの花の香りとして強く感じさせてくれた。そのパウダリー感はラストまで続き、時間を経るごとに穏やかにチュベローズとネロリの香りに別れ移行して行った。重さもややありオレンジの香り方が控えめなので、春夏の改まったパーティーなどのお呼ばれのシーンでも使用出来そうだった。

 

 

結果、1番私が嗅いだネロリの香りに近いのはプラダであった。確かに生花としての香りならサンタマリア・ノヴェッラが1番ネロリだったのだが(これも後ほど所感を書きたい)、私の嗅いだネロリの香りは生暖かい夜風に溶け込んでもう少し甘く香っていた気がするのだ。

 

仕事終わり、仕事の出来ない私はとぼとぼよたよたと歩いて帰る。一歩一歩が後悔と自責で痛みを感じる。

そんな時にふと降りてきたネロリの香りは天使のようだった。ビターオレンジの花の香りは少しジャスミンに似ているのだな、と幸せに包まれて嗅いだ匂いは忘れられない。

 

悲しい事に、もうそのネロリは枯れてしまい、香りはすっかり辺りから消え去った。

代わりに何だか分からない蕾のあった生垣に薔薇が沢山咲いていた。

薔薇は今夜も仄かに蜜のような香りを漂わせている。

 

 

ジョーマローン

オレンジ ブロッサム コロン | ジョー マローン ロンドン

 

クヴォン デ ミニム

キーワード検索 - オーデラブ

 

ディプティック(バーニーズニューヨークHP)

ディプティック(DIPTYQUE) | 公式通販 バーニーズ ニューヨーク

 

プラダ(伊勢丹オンラインショッピングサイト)

<PRADA>インフュージョン ドゥ プラダ フルール オランジェ オーデパルファム:三越・伊勢丹オンラインストア

 

24.合わない靴(ミュゲ ポースレン )

購入した靴が思いの外歩くときに足の先を支えない造りの事が判明し、頼りにならない靴と痛い足を引きずって新宿を歩いていた。

嫌な用事の時ほど早く外に出て、色々活動しないとエンジンがかからない。
今日もある用事の為に新宿をうろついていた。

こうなったら気になっていた新作の香水を一度に試そうと思い立ち、最近発売された新作 ミュゲ ポースレンのためにエルメスに寄った。

そこで店員さんに聞いたのだが、以前購入を悩んだルバーブエカルラットは反響が大きく関東首都圏では品切れになっているらしい。
その時に買えば良かったのか、後々安く売られる福音として受け取り期待すれば良いのか今はまだ分からないが、なんにせよ購入するか否かの悩みが1つ消えて安心ではある。
ボトルの緑の色が気分を上げる新作の所感は以下。



ミュゲ ポースレン(muget porcelain)
→トップから豊かなミュゲのどこか洋ナシやリンゴにも似たジューシーな甘い香りが広がる。ミドルではその瑞々しいミュゲの中に時折パウダリーで落ち着いた白い花系の香りが顔を出し始める。しかし最後までミュゲが主役の印象。都会的ながら足がほんの少し大地から解放されるような香り。いつしか愛しい甘さのミュゲは肌に染み込み一体化するように優しくほのかな残り香に変わる。
エルメッセンスシリーズの奥にある革のように滑らかで川のように揺るがない香りの筋は健在だった。
聞く所によるとエレナの最後の作品らしい。(エルメスでの作品なのか彼の活動の最後なのかは分からない) 



ムエットの香を嗅いでいたら、エレナのエルメスを締めくくる作品がこのミュゲ ポースレンの香りという所になんとも言えぬ感慨深いものが込み上げてきた。

もう少しこうしてエルメッセンスを堪能していたかったが、そうこうしているうちに人と会わねばならない時間になった。
しかも色々な理由であまり気乗りしない相手だ。
(軽い気持ちで約束してしまった私が悪い)


幸い、手首からはまだ先程吹いて貰ったミュゲ ポースレンが香っていた。
足取りは合わない靴のせいでさらに痛く鈍くなって行くだろう。
しかし、嫌になったらまたミュゲの香りを嗅いで浮き足立てば良い。




※ミュゲ ポースレンはまだ100mlが発売になっていないため、まだ項目がないようだ。暫しの間期待していたい。


23.雨 (ゴース 他)

先週の日曜日は渋谷で人と会う予定だった。

しかし、その人に急な仕事が入った為、私はいつもの様に1人散歩に出歩ける事になった。
 
 
今回は表参道に行く事にした。
珍しくコットン素材のロングシャツジャケットを羽織り、丁寧でスロウな人間の気分で電車に乗ったのだが、表参道に着くと雨が本格的に降っていた。
傘を持っていなかった。
雨に混ざった春の匂いや衣類が雨に濡れた匂いが急激に気分を下降させたが、駆け足で入り込んだスパイラルマーケットには初めて見る香水の面々が揃っていた。
 
今回出会ったのはD.R.ハリスやカルトゥージア、ミレー エ ベルトーやラボラトリー パフュームと様々だった。
 
その中で印象的だったのは以下。
 
 
ラボラトリー パフューム(Laboratory Perfumes
ゴース(GORSE)
→トップはシトラスの香りながらもしっかりと甘い。それはバニラやライチ、ピーチなどの下手するとベタ付いてしまう類ではなく、名前の通りのゴースのココナッツの香りが由来のため、暖かい季節に纏っても不快ではないかもしれない。
柑橘の香りは飛んでしまったが、ココナッツの香りは最後まで残るため、ココナッツミルクを使ったエスニックなデザートの様な、重いは重いが夏の開放感やリラックス感は失わない香りに思えた。
ココナッツと言えども海岸というよりは陸地の穏やかな夏を感じさせる。
私の肌ではあまり明確には感じなかったのだが、ムエットに乗せた時にかすかに感じたハーブ系の香りもこの香水が甘過ぎない点に貢献しているのだろうか。
 
 
 
ひとしきり香水と本物志向の客層向けの店内の陳列を楽しんだものの、本来ならばお茶をしていた時間にはすっかり暇になった。
そのお茶をするはずだった彼はそもそも生き方が正反対な人間なので内心会う事には乗り気ではなかった。
が、いざ予定がなくなると少し空虚というか、つまらない。
ジャケットは雨の飛沫でまだら模様で、髪は湿気で広がってゆく。
これでは気分も湿っぽくなって行く一方なので、爽やかな香りで気分転換をしたくなり、帰りにトム・フォードに寄って香水を探す事にした。
 
そこで勧めて貰ったものは以下
 
 
 
マンダリーノ ディ アマルフィ(MANDARINO DI AMALFI)
→トップはマンダリンやレモンに合わせてネロリなどのグリーン系の香りが爽やかかつ男性的に仕上がっている。しかし、肌に乗せると時折奥の方にそれらとは趣きの異なる滑らかで白色めいた香りが混じりこんでくる。これは何なのかと思って調べてみたら、だいたい爽やかな香りとは対照にあるジャスミンが入っているようだった。
説明の通り地中海でのバカンスを想起させる香り。その中でフローラスノートは地中海地方の陽光で程よく火照った肌のような艶やかさを加えている。
これは肌質や体温故かもしれないが、時間が経つにつれトップ〜ミドルの柑橘よりもジャスミンの甘みとパチュリの苦みのある香りが目立ち始め、ディプティックのオー モエリに似た香りに変化した。

 
 
 
トム フォードのフレグランスボトルの高級感を堪能して化粧品売り場から外に出ると、午前中の雨が嘘のように晴れていた。
雨上がりの爽やかな香りの強い風が吹いており、雨で裾がぐしゃぐしゃになったジャケットが今度は風で全部ぐしゃぐしゃになった。
 
出会った香りたちは充分に心を癒してくれたが、今日は結局おろしたてのジャケットを「洗いざらし」と誤摩化しも出来ないほどに無惨にさせる為に外出したようなものであった。
 
家に帰ると疲れが一気に襲って来たので、アロマリンのティーを室内と全身に振りかけて早々に布団に入った。
 
 
こういう何とも気が滅入る1日の終わりは本当にうんざりするが、
良い香りの中で過ごすうんざりした時間は実はそれほど嫌いではないのであった。
 
 
 
 
 
 
ラボラトリーパフューム