秋田に行った後、実家に帰った。
実家は私が家を出てから幾分か変わった。
台所の配置が変わり、煙草の臭いはすっかり消え去り、知らない猫を飼い始め、その猫の為に柵が設けられ、おまけに冷房が効かなくなっていた。
今年はなぜか、あまり実家に帰ってきたという時間が無く、何となく疲れが取れなかったので、気晴らしに皆が各々の活動をしている中引き出しや物置を物色することにした。
すると、引き出しの奥からレール デュタンとディオリッシモを見付けた。
昔、亡き母方の祖父が海外土産に買ってきてくれたものらしかった。
不幸にも香りに興味のない者への送りものにされてしまったおかげで時の流れをほとんど湿った引き出しの奥の箱の中で経ており、残念ながらディオリッシモは既に劣化しきっていた。
ルドニツカと当時のスズランの香りに思いを馳せる事は叶わなかったが、その隣にあったレール デュタンは劣化していながらも辛うじて嗅ぐ事が出来た。しかしそれも辛うじてであって、劣化は劣化。購入当初は更に香りが豊かだったのだろう。
そう思うとあまりにも口惜しかったので、東京へ帰る途中の池袋の西武で新しいものを試香した。
所感は以下。
レールデュタン(L'Air du Temps)
→1948年に誕生したいわば名香と呼ばれる類い。
スパイシーフローラルに分類されるが、スパイシーさを感じるとしたらペッパーやシナモンといった香辛料というより、百合に顔を近づけた時の様な、花粉の香りめいた刺激を感じた。
カーネーションが特に強く、続いて百合、イリスが強く香っている気がした。生花の花束のようなイメージ。故に重みのあるパウダリー感が目立ち、私の肌だとベチバーやサンダルウッドの主張が比較的強めの香り方をした。ピーチも入っているようだが、フルーティーな香りは私の鼻では感じなかった。丸みがあり温かではあるが、肌への乗り方に関してはあくまで内政的で控えめな香りであり、層に深みもあるので今日の香水のような広がってゆく傾向は弱い。その分落ちてゆくような耽溺感があり、体を包み込んだ後静かに通り過ぎて行く。その様はクールにさえ感じた。結婚式やセレモニー系の機会に纏いたい香り。
ちなみにレールデュタンは羊たちの沈黙のクラリス・スターリングが付けている。
もちろん意味をふまえた上での設定なのだと思う。
これをレクター博士はガラス越しに嗅いだのかと思うと別の楽しみ方がある。
その夜、母の夢を見た。
「私、お母さんをやめる活動をする事にした」
と言った母の目の前で、やめやすいようにと思い出のイヤリングやCDを持って来て壊して行く夢だった。
目覚めの悪い夢から覚めると、雨風のおかげで窓からは夏とは思えない涼しい風が吹き込んでいた。
時の流れは常に優しく出会いと別れをもたらしながら私たちを運んでゆく。
ニナ リッチ
こちらにも説明が書いてある。
NINA RICCH / L'Air du Temps | ニナ リッチ / レールデュタン | INTERMODE KAWABE -フレグランス・香水-