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日々の糧—香り日記—

日々出会った香水について記してゆく日記。

41.美味しい香り(ポップ 他)

 

友人に果物料理というテーマに合う香水を選ぶ機会があった。

なんでもイベントの香りの演出で使うらしかった。

 香りの演出も興味深いし他人にこうして香水を勧める機会は初めてで、張り切って情報を集めたのは言うまでもない。

 

しかし、フルーツの香水は星の数ほどあるが、「料理」となると意外に難しい。

フレッシュなフルーツ意外では、だいたいがスイーツ的な香りになり、バニラやクリームなどに頼ってしまいたくなる。

直球でグルマンを推すか、料理と繋がる由来や調合のコンセプトで勝負するか。

しかも、やはりある程度の価格帯以上ではないと香りに納得が行かなかった。

 

 

連日サイトや店で香水とにらみ合った結果、ネット等で安価に手に入りやすいものに焦点をあてた場合だと二つに絞る事ができた。所感は以下。

 

ステラ・マッカートニー

ポップ(POP)

→トップはピーチやベリー、クリームの入ったフルーティーかつクリーミーな香り立ち。一嗅ぎだけならファッション香水によく見られるフローラルウッディの濃厚な甘さなのだが、トマトリーフがそれらの奥に控え、むせ返るようなよく言えば若々しさに陥りがちな配合にどこか冷めたようなクールな視点を与えている。時間が経つにつれてフルーツに隠れていたチュベローズやトマトの青みのある香り、サンダルウッドが現れてくる。私の肌だとフルーツではなくチュベローズが強く香った。しかしチュベローズもクリームとトマトのおかげなのか従来の香りに感じるえぐみや官能的なイメージは感じない。ポップと言っても決して幼さやガーリーに終始しない現代的、都会的な香り。最近の甘い香水の中では特に面白い部類だと思った。

どちらかと言うとカジュアルな場面で、服のように纏いたい。

 

ラルチザン

プルミエ フィグエ エクストリーム(PREMIER FIGUIER EXTREME)

 →トップはフィグを感じさせる青みのあるグリーンの香り。そこに香り出すバニラやクリームとは違う、抑えられたコクのある滑らかな乳白色の甘さはアーモンドミルクやココナッツの香りで、ドライフルーツなどもその広がるというよりは落ち着く香りに貢献している。私の肌では早い段階からサンダルウッドのお香の様なパウダリー感が出て来て、最後までその粒子感が定着していた。

南国のバカンスのイメージらしいが、南国であっても、その日差しをのがれてやってきたイチジクのやや湿った木陰で、火照りを冷ましながらその木と果実を観察しているようなイメージが湧いた。

今回はエクストリームを試香したが、普通のプルミエフィグエの方があっさりと瑞々しく、トップからの甘さとパウダリー感が押さえられているのでココナッツよりもイチジクの実の青さが楽しめる。

エモーショナルというよりは香りの温度が低めで心地よさのある香りのため、夏でも冬でもよそ行きでもカジュアルでも使えそう。

 

 

どちらも香り立ちでは果実のフレッシュさとは少し違う。どちらも落ち着いてゆく香り方をしていて、果物は主要な香りではあるが、主役ではない。

私は料理のことは詳しくないが、これらの香水を吸い込んで、たくさんの素材が複雑に混ざり合った香りのレイヤーを辿りくぐり抜けた先にピーチやトマト、イチジクの香りを発見した時、食べ物を食べた時に似た満腹感を覚えた。

 

 

 

結果、今回はポップが採用された。(プルミエフィグエはネットの小分け販売があるのだが、時間がかかってしまいそうな為あきらめた。)

実はポップは前から気に入っていた香水だったので、購入時に半額負担し、半分貰い受けることになった。

そのポップのボトルを友人のいる開場に届け、香り立ちを見届けて役目を終えた後、持ってきたストールにポップを一吹きしてみた。

外は早くもキンモクセイの香りも終わり、風は香水がきれいに香る季節の香りを纏うようになっていた。

ストールを巻き直すと、何だか無性に甘いものが食べたくなって、何も考えずに下北沢でベリーの乗ったワッフルを食べた。

 

 

 

 

 

isetan.mistore.jp

 

 

www.artisanparfumeur.jp

40.旅の小休止と再開(キモナンス 他)

もう外は秋の香りに満ちている。

いつの間にか前の記事から大変時間が開いてしまった。

 

今日まで、いろいろなスケジュールに追い立てられて、香りの無い生活を送っていた。

そうして一息ついて外に出たら、どこもかしこもキンモクセイの香りが漂っており、ふと我に返った。

 

記憶をたどると、9月24日に知人と青山のディプティックで行われた新コレクションの発表イベントに行って来た。

 そこでは香水に因んだカクテルを片手に香りを楽しめ、派手なパーティーではなくアットホームな雰囲気でとても賑わっていた。

ただ唯一残念だったのは、振舞われていたバラのカクテルを飲んで早々に酔いを回してしまった事であった。

楽しく説明を聞いた記憶は残ったが、肝心の香りの記憶は酔いと共にほとんど消えてしまった。

 

しかしやはり何らかの形に残しておきたい。

辛うじて記憶に残っていた知人との会話の記憶や殴り書かれたメモを元にまとめた所感は以下。

 

エッセンス アンサンセ 2016 (ESSENCE INSENSÉES 2016)

→ローズ、蜂蜜、薔薇の実、サンダルウッドなどの香り。トップはローズが主体に香ったが、例えばローズゴルデアの様な華やかさのアクセルを最大まで踏み込んだ王道のローズ香水ではなく、ハーブや蜂蜜の香りが目立って混ざっており、くぐもった溶ける様な甘さがある。知人は鼻にツンと来る香りを感じたらしい。それが薔薇の実なのだろうか。ローズの香りを覆い隠さず、奥の方に甘酸っぱいグリーン寄りのベリーの香りを感じる。

ミドル以降はローズよりも蜂蜜とみずみずしいハーブの様な香りが強くなった。蜂蜜の甘さはラストまで続く。(しかしそんなに甘さはキツくはない)

青空の下、様々な花や果物を収穫する緑の中で、薔薇も同じように香りを熟させて香っているようなイメージの香り。

ソリッドパフュームの方が薔薇が強めに香った。

 

キモナンス (KIMONAITHE)

→複雑かつ気持ちの良い香り。樟脳、サンダルウッド、スパイス、モクセイ(キンモクセイではないらしい)、それに塗香(だったと記憶している)などが入っているらしい。面白い調合でお香系のウッディな香りが多いが、決してそれらにありがちな煙たい香りではなく、むしろトップは深みよりは広がるタイプの香りであり、粒子をあまり感じず、やや重く滑らかでまったりと香り立つ。

モクセイはさり気なくインセンスの香りと混ざり合っている。店員さんが砂糖菓子のようと形容していた通り、最初からラストに香っても良いような密度のある甘さがある。ただし、もともと甘さを狙った素材は入っていない為に甘さは主役ではない。ボトルのデザインのように、薄い暖色の色味がかった半透明な、角の無い丸い石のようなイメージを受けた。

ラストに近付くにつれてお香のパウダリー感は強まるが、「香」というより花粉のような粒子感。

感情的ではないが、捉えどころのない魅力のある香りだった。

 

 

 

 

 

 

自然をテーマにしようともどこか現代的に、ブティックのある青山の様に洗練され研ぎすまされたディプティックの香りは確かにどれも良い香りだと毎回感じる。

香水の他にも掃除や浄化に使えるビネガーの入ったウォーターも気になった。

しかし、それと同時にディプティックのスタイルは自分には都会的過ぎる気も毎回する。

その日、アルコールを入れて綺麗な香りを纏って歩いた青山は、まだまだ好奇心で歩く街だった。

 

 

そろそろ香りの世界が恋しくなったので、もう少ししたら、また宛も無く香水の旅に出ようと思う。

 

キンモクセイも良いが、最近は道ばたのツツジもガーデニアもよく香っている。

 

 

 

 

ディプティック

https://www.diptyqueparis.com/

 

39.ヴィトンの旅(マティエール ノワール 他)

先日、ルイ ヴィトンが70年ぶりに香水の新コレクション「レ・パルファン ルイ・ヴィトン」を発表した。

しかもインハウスマスターパフューマーに就任した調香師はロードゥイッセイなどを手掛けたジャック・キャバリエというのだから、その値段と併せて何とも簡単にはお目にかかれない大作めいた雰囲気が漂っていた。

 

この時の私はオーガニックに傾倒して行こうと思っていたので、キャバリエの香水とも距離が出来るだろうから軽い記念程度に試香をしておこうと銀座に向かった。

 新作コレクションは、銀座松屋のルイヴィトンの1Fで揃って煌びやかな光を反射させながら飾られていたのだが、発売直後の連休とあって、ボトルと近くで向き合って説明を受けるには予約が必要であった。

しかし試香は可能であったので、全7種類試香させてもらった。

 

結論から言うと、70年ぶりの新コレクションだけあってとても充実していた。

人間は常に変わっていくもので、つい昨日までグリーンの香りばかり考えていた私に早くも方向修正が行われたのだった。

 

全種類それぞれ面白く詳しく文字に残したかったのだが、一度に肌に乗せて覚えるのは2つが限界だった。

そこで今回は以下の2点を肌にも載せてみた。所感は以下。

 

 

マティエール ノワール(Matière Noire)

→トップは水仙ジャスミンの香りに個人的に好みのブラックカラントとパチュリの組み合わせが香る。パチュリはえぐみや苦味など無く目立って主張せず、花や木の実の香りをちょうど良い湿度にしっとりと落ち着かせている。そしてそれらを包み込む様に香るのが、草花の新鮮な甘さというよりはアルコールに似た、こっくりとした熟した甘み。アガーウッド(沈香)がそうさせているのだろうか。ウッドが入っている暖かさは感じるが従来の乾いたイメージは受けない。

時間が経つにつれて甘さは増して行き、花の香りより濃くまろやかながら仄かに清涼感のあるブラックカラントが目立ち始め、そこに沈香の混ざった沈着な甘い香りへと変化する。

公式サイトで書かれた「溶け合う」という言葉はぴったりで、トップからラストまで香りが互いに溶け合い続ける様に変化し漂う。香りとしては充分濃さがあるにも関わらず、宙を泳ぐなめらかなベールのようなイメージ。

ノワールと銘されるように7種類の中で1番複雑かつ神秘的な香り方をする。

 

 

 

ダン ラ ポー(Dans la Peau)

→レザーが主役ではあるが、トップはアプリコットジャスミンなどの東洋的な香りが拮抗して香るので、レザーと言っても卸したての清潔感を感じるソフトで柔らかな質感。

レザーがとろみのある白い花とフルーツへ苦味とこくを与え、同時にアクセントとなっているそのレザーにも人肌のような自然な甘さがあるのだと気付かされる。ラストに向かうにつれてフルーティーな甘さは水仙と白色を彷彿とさせるムスクのパウダリーな香りへ変化して行く。

レザーは先述の通り柔らかく、時が経つほどに肌に馴染んで行くような香り方をするので今までレザーを苦手としていた人にも手が出しやすいはず。

他の6品と比べてさり気なく香るため、店員さんが「このコレクションは重ね付けをしても楽しめる」と言っていた様に、他のバニラなどの香水と混ぜて香らせても面白いと思う。さり気なくと言っても存在感は失わないので肌に近い場所に纏いたい。

 ちなみに今作のレザーは「ナチュラルレザー」と呼ばれ、香水に使われるのは初めてだそうだ。

 

 

 

その他の香りについては簡単にムエット試香の所感をまとめようと思う。

また機会があったら次回を設けて所感を書きたい。

 

 

 

コントロ モイ(Contre Moi)

→原産地の違うバニラが2種類入っている。トップからバニラだが、菓子類のようなバニラではなくあくまで甘く香る花の香りとしてのバニラを楽しめた。ミドルからココアの粒子の軽めの渋みが現れ、ラストにはローズを感じながら爽やかに終わる。

 

ミル フー(Mille Feux)

ダン ラ ポーと同じくレザーが使われた香り。こちらはレザーがシャープな印象。ラズベリーやローズ、サフランなどのフルーティーになりがちな香りにスパイスのようにレザーが効いている。トップはイリスのお香のように鼻に抜けるパウダリーさが強めに感じた。

 

アポジェ(Apogée)

→スズランのジューシーな香りにローズ、マグノリアのまた違った甘さのある香りが混ざり合う。7種類の中では1番嗅ぎやすい気がした。スズランはラストまで続く。深く吸い込むとサンダルウッドの落ち着いた甘さがスズランの香りを一層濃厚に広げてくれている事が分かった。

 

ローズ デ ヴァン(Rose des Vents)

→3種類(記憶が確かなら)のローズが使われている。ローズは蜜めいた甘さで、そこにペッパーのひんやりとした刺激を感じるフルーティーな香り。基本的にローズらしいローズの香水なのだが、ミドルからラストのアプリコットのような瑞々しい果実に相俟ってローズの甘さが濃く深い。

 

タービュランス(Turbulences)

→正統派チュベローズとジャスミンの丸みのある香りが混ざり合い、濃厚であるもののすっきりと雑味のない白い花の濃く甘い香りになっている。

判断が付きにくいのだが、果実の香り(ベルガモットだろうか)が背後に入っており、さらに香りの角を落として滑らかにしている。

 

 

  

 買うならまずは7種類が揃ったトラベル用スプレーだろう。 

これらを全て試香した後、新コレクションの香りに共通して言えるのは「甘み」だと感じた。

個々の香りの分類としては必ずしも新しいタイプがある訳ではないのだが、このコレクションには香水としては王道の柑橘系の酸味やハーバルグリーンの爽快感を感じるものは見られない。

その代わり、コントロ モイのバニラやローズ デ ヴァンのマティエール ノワールのブラックカラントと沈香といった組み合わせのように全体を通して甘い香り同士がふんだんに重ねられてゆき、変化を起こしながらも濁る事無く進化を続けて行く。

そうしてそれぞれの香りが溶け合い洗練された末の、ある種の円熟の香りが彼らに共通に感じる「甘み」なのだろうと思う。

 そしてその甘みの濾された様な滑らかな質感はちょうど上質な革のそれに似ている。

 

 

キャバリエはこの新コレクションの為に4年間世界中を巡ったらしい。

旅を重ね、感情を重ね、それと同時に香りも重なってゆく。

長い月日をかけて洗練されてきたのだろうこの香水たちは、まだ香りの旅路を始めたばかりの私ごときでは到底所感にまとめ切ることの出来る香水ではなく、まだ嗅ぎ分けられない香りが沢山使われているに違いないのだ。

 

 

試香の後、私も長い旅をした気分になり、思考を朦朧とさせながら喫茶店に入った。

客は私しかいなかった。

頭からはヴィトンの店内の蜂蜜のような金掛かった照明の色が離れず、邪魔者のいない店内でしばらくテーブルにもらったムエットを広げて残り香を吸い込んでいた。 

 

 

ルイ ヴィトン

7種の新作フレグランス・コレクション(香水)が登場|ルイ・ヴィトン

 

※銀座松屋店と阪急梅田店と以下のオンラインショップで扱っているらしい。

レディース フレグランス(香水) カタログ|ルイ・ヴィトン公式サイト

 

 

38.草の香り(パンパ セカ 他)

人は変わるもので、最近、グリーンやボタニカルの香りに関心がある。

去年から今年の始めにかけては専ら濃厚なチュベローズやジャスミンばかり気にしていたのに、この変わり様は何なのだろう。

疲れているのだろうか。

夏に自然に触れる機会が多かったからだろうか。

それともファッション香水に溢れ過ぎている「センシュアル」や「清楚」「女性らしさ」「自由」などの記号に食傷気味だからだろうか。

 

何にせよ、気候による一時的な気の迷いだったら恐ろしいので、今は香水を購入することをためらっている。

 

 

しかしながらどうしても試香だけはしていたい。

 

ということで、今月の7日にフェギア1833に赴いたら、ちょうど限定品の新作が発売されていた。

 そのパンパ セカはパンパ ウメダのスピンオフ的な香水らしい。
調香の情報が無かったので、どの香りが何かが克明に思い出せないのが口惜しいが所感は以下。

 

 

 

 パンパ セカ(Pampa Seca)
→トップは草と土の香りがする。青々としたグリーンと土のひんやりとした低調な香りがリアルに表現されており、一瞬で草原の中に身を置いている様に感じる。そこに感じられる優しい甘さはクローバーだろうか。(パンパウメダにはシロツメクサが入っているらしい。それと少し似ている)その甘さがグリーンの香りを引き締め、力強くしている様に感じる。
パンパウメダはその湿った露も表現している深い青緑色のグリーンだが、このセカは説明通り乾いた大気を彷彿とさせる。色で言えば黄色味が掛かっており、太陽に照らされて水分と栄養を沢山その身に蓄えた草の甘さをイメージさせる様でジューシーだった。
時が経つといつの間にかトップの臨場感のある草の香りは姿を隠し、甘い露の様なクローバーの香りとハーブの香りが心地良く香る。
子供の頃に何も悩む事無く夢中で遊んだ堤防の芝生がちょうどこんな感じの甘い香りだったのを思い出した。 

ちょうどその日の朝は雨が降っており、グリーンが良く香った。 

 

数量が少なかった記憶がある。

もう売り切れてしまっただろうか。

 

 

見事パンパの草の香りに魅せられてしまった私は、その日は必死に自分のものにしたい気持ちを抑えて店を後にした。

 

その翌週、懲りずに銀座東急プラザへ遊びに行った。

パンパ セカによるグリーンへの衝動を忘れようとしていたのにも関わらず、そこでもまたハーブ系の香りとの出会いがあった。

とあるショップに南仏の山奥で生産されているマドエレンの香水が売られていた。

マドエレンはその製造環境や香りから、前々から気になっていた。

ポプリは伊勢丹でしばしば見ていたが香水は初めて実物を見たので、やや興奮気味で試香をした。

そこで店員さんに勧められたのが以下。

 

 

スピリチュエル(SPIRITUELLE)

→トップからとても鮮やかなミントの香りが広がる。ミントの香りの香水やルームフレグランスは少なくないが、ここまで摘みたてのミントのような豊かな香りは珍しいのではないか。茂みの上に広がる空やその他のものを感じさせないくらいの深い緑。ミント葉に乗った水滴の瑞々しさまで感じる事が出来る。ミントの他にもハーブの香り(パチュリのこくのある苦み感じる)や柑橘系のピールの様な香りをいくつか奥の方に感じることができ、それが一層緑の深い茂みのような香りを豊かにしている。シングルノートなのでここから香りが大きく変わる事はない。

もちろんミント特有の鼻に抜ける爽快感はあるが、一般的なリフレッシュ効果というよりもグリーンに飲み込まれる感覚がある。ミントの茂みに横たわったら視界までもこのような香りに包まれるのだろう。

名前の如く、深い緑の精神世界に思いを馳せられた。

 

 

 緑を感じさせる香水にも様々なアプローチがあるが、これらは緑の緻密な描写が美しい2本だった。

 

試香を終えたところで、なぜそれらに惹かれているのだろうか今一度考え直してみた。

 

グリーンは確かに華やかさで言ったらローズやベリー、チュベローズなどの香水よりも引けを取るかもしれない。

合成香料の効いた都会的な香りよりも使い勝手もイメージが広がりにくいかもしれない。

 

ただ、この2本の香りを吸い込んだ時

私は私の身体が土に帰る時、何の香りに包まれながら、何の香りを思い出すのだろう。

と、そんな事を考えていた。

 

結局のところ、季節の変わり目のせいなのかもしれないが。

 

 

フェギア1833

FUEGUIA 1833 Laboratorio de Perfumes, Patagonia

 

マドエレン

MAD et LEN - Heroomtage

 

37.記憶に残る甘い香り(サリーナ)

早いものでもう9月だ。

8月の末から気持ちが塞いでいて、それが9月の今も少し尾を引いている。

 昨日は特に予定は無かったが、怠い気持ちのままでは不健康な気がして、ちゃんと化粧をして、少しだけ乗り換えに手間をかけて外苑前のCIBONEに行った。

CIBONEのついでにカフェで甘いものでも食べれば気分が良い具合に向かうのではないかと思っていた。

 

CIBONEは気軽にニッチフレグランスを嗅げるので以前にもミルコブッフィーニやアーキスト、ラボラトリオオルファティーボを試香しようと訪れた事がある。

 

 その時にも衝撃を受けたのが、ラボラトリオ オルファティーボのサリーナだった。

ムエットを嗅いだ時にその甘い香りに漠然とした不安に駆られ、

肌に乗せたときに衝撃を受けた。

体質や嗅ぎ分けられなかった私の嗅覚が劣っていたから変な香りとして感じたのかもしれない。しかし、何だかマリンに殴られた気持ちになり、思考停止したまま店を出たのを覚えている。

 

その日もサリーナは変わらずさりげなく店頭に並んでいた。

甘い香水はすぐに忘れる私が、サリーナだけは最初の出会いから忘れた事はなかった。

 

最初の出会いから幾分か冷静になった現段階での感想は以下。

 

 

 

 サリーナ(salina)

→トップはレモンピールの爽やかさが目立ち、バニラが香りながら夏のさわやかな柑橘の香りとして楽しめるのだが、みるみるバニラとマリン特有の潮味を帯びた濃厚で丸みを帯びた甘い香りが増してゆく。ミドルの香りは初めて嗅いだ時は主観で良く言えば「カスタードクリームのように濃厚なバニラ」であり、悪く言えば「生卵っぽいマリン」と感じた。時が経つにつれてマリンの側面が強まって行き、ラストは変わらずマリンとバニラのままだが、ややパウダリーに漂う様な温かな調子に落ち着く。

他のビーチ系の香りと比べて個々の香りの強度が高く、よくある雰囲気系の緩くチープなマリンではない。調べると、バニラとマリンスパート以外に甘さを担う香りは見られず、ハーブ系のマートルやウッド系のパインニードル、ラベンダーが含まれている。ミドルの最もマリンが濃厚な時に香りを吸い込んでみると渋みを伴うシャープな香りを有機的に感じた。ラストになるにつれてそれらの香りは明確に姿を現しバニラたちを縁取り始め、香りをぼやさせない役を担っていた。そのお陰で生々しく強すぎる程にバニラが引き立てられているのに乳白色のイメージではない、まろやかで癖のある、一筋縄ではいかない甘い香り。

ユニセックス。もしかしたら男性の方が上手く香らせられるのではないかとも思う。

 

 

 

 

 つい長くなってしまった。

 他にもミルコ ブッフィーニのモクシーやコムデギャルソンなど面白い香りはたくさんあったが、所感は後に回そうと思う。

 

 2回目にして漸く気付いたが、サリーナは香りに付加される余計な物語性を排除している気がしていたが確かに夏の陽射しと浜辺の香りなのだ。

体験した事のないどこか遠くの国の燦々と輝く太陽の暖かさと煌めくなめらかな海の香りだった。

 

 帰りはカフェには寄らなかった。

 サリーナの残り香が消えた時、ふと風の香りがもう秋の様相だと気付いた。

秋が大好きなのに、今年は何故か無性に夏の終わりが寂しくなった。

 

 

 

 

ラボラトリオ オルファティーボ

Home - Laboratorio Olfattivo

36.結婚披露パーティー(ローズ ゴルデア 他)

大学の同級生の結婚披露パーティーへ参加するために椿山荘まで行った。

椿山荘は行くのは初めてだった。 かの有名な椿山荘にはどんな香りがあるのかも非常に楽しみで、会場の1時間前にはホテルに到着していた。

しかし、探し方が悪かったのか、ロクシタンチェリーブロッサムしか見つからなかった。

 

パーティーの終わった帰り道、せっかくの華やかな気分であるので、華やかな香りを楽しみたくなった。

椿山荘のバーで一杯やる事も考えたが、いそいそと銀座に向かった。

 

 そこで色々と華やかさに目を向けて香水を選んだところ、クリード  アクア イリス チュベローズ、ブルガリ ローズゴルデアが印象に残った。

所感は以下。

 

 

 クリード

アクア イリス チュベローズ(AQUA IRIS TUBEREUSE)

→トップからチュベローズの香りが立ち上るが、郊外の緑地をイメージしているとの事で、甘く濃厚というよりはユリやイリスなどの青みがかった香りが強く、チュベローズの香水としては新鮮な香りのものの1つに感じた。季節や体質もあるが、トップ以降は熟する様に徐々にチュベローズらしさが現れ始め、ラストはトップの控えめな青みのある香りからは想像の出来ない、ジャスミンやココナッツの様な優しくややパウダリーで滑らかな白色の甘みが覆った。バニラが入っているらしいが、水っぽさは無く草花の気配を残しているためラボラトリーパフュームなどでも表現されているゴースの香りに似ている。

英国貴族が楽しむ郊外の草花的なイメージを持った。

 

 ブルガリ

ローズ ゴルデア(ROSE GOLDEA)

→「華やかなローズ」の王道を行く香り。ただ、今までの良くあるローズの香水より一段と瑞々しく香る。生花的な青さやパウダリーさは抑えられ、トップにザクロの香りが配置されているらしく、そのフルーティーな甘さは個体で主張せず、すっきりとそれでいて蜜めいたローズの香りを際立たせている。その後はローズの上品な香りが更に台頭して行く。王道なのでムスクとジャスミン、サンダルウッドも入っている。ミドル以降に甘さは増す事なく、やはり瑞々しさのあるムスクが目立ち始め、どこかで嗅いだ事のあるローズ石鹸の様な香りに落ち着いた。香料もどれも良いものを使っているので、嫌な感じで鼻に残らない。

店員さん曰く、調香師がこの香水を一言で言うなら「feminine」と形容したそうだ。それを踏まえて総体として良く言えば全ての女性に安パイの良い香り。

エピソードに関しては聞かねば良かったと少し後悔したが、トップからミドルにかけてのローズの芳醇さには眼が覚める。

 

 

 

香水の華やかな値段と香りを楽しんだ後、やはりどこかのバーで一杯やってから帰ろうかと思ったが、ヒールを履いた足が限界だった。 

 

思い返すとパーティーはとても暖かく幸せな雰囲気で、綺麗になった花嫁の同級生を眺めながら次は誰かな、と同席したクラスメイトと話した。
私たちは今年27歳になる。本来27歳は結婚や家庭に希望を持つべき、社会を担うべき年齢のはずなのだ。

しかし私は、今までもこれからも、結婚式はいつまでも浮世離れした、他人事の儀式であってほしいと思う。

 

 

 

クリード

Café des Parfums|カフェ デ パルファム|クリード

 

ブルガリ

ブルガリ | イタリアのファインジュエリー、ウォッチ、ラグジュアリーグッズ

 

35.ミラー ハリスとの出会い(ルミエール ドー レ 他)

仕事を定時にあげて銀座に行った。

昨日から三越でミラー ハリスの香水が全種類カウンターに出回ると聞いたからだ。

ここの所、あまり新しい香水を嗅いでいなかったので、これを機にミーハーに新しい香水に飛びついて一度に沢山嗅いでみようと思った。

 

 

B1階の香水カウンターに行くと、丸い卓にミラーハリスの新コレクションが綺麗に陳列されていた。

シンプルなボトルはどこかのセレクトショップで見た記憶があったが、試香の機会は無かったのだろう。新鮮な出会いに久々に試香の意欲が湧いてきた。

その中でも今回の新作のルミエール ドーレとエチュイ ノワールは光と影がテーマと言う事で、早速試香してみた。

所感は以下。

 

 

 

ルミエール ドーレ(Lumière Dorée )

→オレンジ由来の香料がふんだんに使われており、トップからプチグレンとオレンジフラワー、ネロリの香りが豊かに広がる。ジャスミンも入っているらしいが香りはパウダリーな甘いオレンジフラワーではなく、甘さはあるもののコロンの様に瑞々しいネロリの爽やかさが主役なので男性でも難なく纏える。

店員さんの説明通り、瑞々しく青空の下の晴れやかな朝の庭を彷彿とさせる。

時間を経てもネロリの香りは最後まで続くが、ラストが不思議だった。体質のせいだろうか、明るい太陽の日差しを感じさせるトップの甘さは遠退いて行き、プチグレンの酸味のある香りに木の根やお香の様な乾いた鼻にツンと来る神秘的な香り(エレミだろうか?)が入り込んで来た。

 

 

エチュイ ノワール(Étui Noir)

→トップからパチュリやレザーが深みを感じさせる。重さはあるが、そこに混じる甘さはくどくなく、ベルガモットかタンジェリンなどの酸味を引いた柑橘系の香りに加えてアイリス、ジャスミン的なパウダリーさがそれを濃厚にしている。

肌に乗せると不思議とレザーは主張をせず、パチュリやジャスミンの香りが肌に馴染んだ。フェギアのアルギィエンスエニャを思い出したが、こちらはカシスの甘さではない分甘みの粘度が弱くあっさりとしている。ミドル以降からインセンスとベチバー、アイリスのパウダリーな香りが増して行き、漂う様な夜露を含んだ様な甘さに変わる。不思議と女性的であり、夜が白む直前のあのまったりとした時間のイメージが湧いた。

 

 

 

ルミエールドーレとエチュイノワールは、トップこそ分かりやすく違った香りだが、光と闇が同じものの様に、どちらも柑橘系を包み込むようにしてグリーン系の香りが広がる設計はとても似ている気がした。やはり節々に同じ香料がつかわれているのだろう(説明してもらったが何が入っていたかはほぼ忘れてしまった)、やがてそれらは時が経つにつれて日が暮れ夜が明ける様に近付いて行くが、しかし近付く程にそれぞれの香料が対照的に働いている事が分かる。

 

試しにルミエールドーレとエチュイノワールの残り香の付いたムエットを一緒に嗅ぐと、やはりとても良い香りになった。

コンバインしても良いのかもしれないが、それよりもカップルなどでそれぞれ別の完成された香りとして纏った上で合わさった時の香りを楽しむ方が良いのではないかと思った。

 

 

この他にも全種類嗅がせて貰ったのだが、印象的だったのはジェーン・バーキンとのコラボフレグランスであるレールド リアン。簡単に所感は以下。

 

 

 

レールド リアン(L'air de rien)

→製作時に「古書の香り」とオーダーされたものだと店員さんから聞いた。トップからモスやパチュリなどの苔むした様な癖のある湿った香りと古い紙を彷彿とさせるウッド系の香りが丸みを帯びて広がるのだが、その後に浮かび上がるバニラが製本に使用されている様な上質な糊の様な香りを作り出していて非常に面白かった。(所有しているイタリアの高級糊が丁度こんな香りだった)

図書館系の香りはちらほら見かけるが、本自体に寄った香りは珍しいのではないか。ノスタルジックではあるが、埃っぽさより先述した湿っぽさが心地よい。

 

 

 

 

 あとは

花と果実をふんだんに使った華やかでフルーティーなカード ジャルダン

ローズの香りをペッパーが引き締めた甘さの控えめなローズ サイレンス

パウダリーで落ち着いた香りのベチバー インソレント

だろうか。嗅ぎやすいが、どれも考えれば簡単な香りではなかった。

 

 

 

また色々と勉強になったと感心しながら三越を出た時、既に鼻がほとんど効かなくなっていた。

歩いているとたまに感じる排水口のような香りに苦悶する必要が無くなり助かりはしたが、

次に行ったバーニーズニューヨークではあまり香りが分からず、何度もコーヒー豆を嗅がせて貰ってしまった。

 

 今思い返すと、ミラー ハリスはバリエーションが豊かで面白かった。

現代的な流行を押さえたものからクラシカルな調香まで楽しめる。

昔のレシピを守って製造している系統のニッチフレグランスは多いが、ミラーハリスの香水は根底がとてもモダンなので、古典的な香りも広がり方はあくまで現代的で、妙なノスタルジーが排除されていて嗅ぎやすかったように思う。

 

ミラーハリスはムエットではなく人の肌にのせる事が完成らしい。

すべて試そうとすると腕がおおよそ20本必要になってくる。

たくさんの人を連れて腕に乗せてもらうのが良いかもしれない。 

 

 

 

ミラー ハリス

https://www.millerharris.com/collections/fragrance