polar night bird

香りの記録

23.雨 (ゴース 他)

先週の日曜日は渋谷で人と会う予定だった。

しかし、その人に急な仕事が入った為、私はいつもの様に1人散歩に出歩ける事になった。
 
 
今回は表参道に行く事にした。
珍しくコットン素材のロングシャツジャケットを羽織り、丁寧でスロウな人間の気分で電車に乗ったのだが、表参道に着くと雨が本格的に降っていた。
傘を持っていなかった。
雨に混ざった春の匂いや衣類が雨に濡れた匂いが急激に気分を下降させたが、駆け足で入り込んだスパイラルマーケットには初めて見る香水の面々が揃っていた。
 
今回出会ったのはD.R.ハリスやカルトゥージア、ミレー エ ベルトーやラボラトリー パフュームと様々だった。
 
その中で印象的だったのは以下。
 
 
ラボラトリー パフューム(Laboratory Perfumes
ゴース(GORSE)
→トップはシトラスの香りながらもしっかりと甘い。それはバニラやライチ、ピーチなどの下手するとベタ付いてしまう類ではなく、名前の通りのゴースのココナッツの香りが由来のため、暖かい季節に纏っても不快ではないかもしれない。
柑橘の香りは飛んでしまったが、ココナッツの香りは最後まで残るため、ココナッツミルクを使ったエスニックなデザートの様な、重いは重いが夏の開放感やリラックス感は失わない香りに思えた。
ココナッツと言えども海岸というよりは陸地の穏やかな夏を感じさせる。
私の肌ではあまり明確には感じなかったのだが、ムエットに乗せた時にかすかに感じたハーブ系の香りもこの香水が甘過ぎない点に貢献しているのだろうか。
 
 
 
ひとしきり香水と本物志向の客層向けの店内の陳列を楽しんだものの、本来ならばお茶をしていた時間にはすっかり暇になった。
そのお茶をするはずだった彼はそもそも生き方が正反対な人間なので内心会う事には乗り気ではなかった。
が、いざ予定がなくなると少し空虚というか、つまらない。
ジャケットは雨の飛沫でまだら模様で、髪は湿気で広がってゆく。
これでは気分も湿っぽくなって行く一方なので、爽やかな香りで気分転換をしたくなり、帰りにトム・フォードに寄って香水を探す事にした。
 
そこで勧めて貰ったものは以下
 
 
 
マンダリーノ ディ アマルフィ(MANDARINO DI AMALFI)
→トップはマンダリンやレモンに合わせてネロリなどのグリーン系の香りが爽やかかつ男性的に仕上がっている。しかし、肌に乗せると時折奥の方にそれらとは趣きの異なる滑らかで白色めいた香りが混じりこんでくる。これは何なのかと思って調べてみたら、だいたい爽やかな香りとは対照にあるジャスミンが入っているようだった。
説明の通り地中海でのバカンスを想起させる香り。その中でフローラスノートは地中海地方の陽光で程よく火照った肌のような艶やかさを加えている。
これは肌質や体温故かもしれないが、時間が経つにつれトップ〜ミドルの柑橘よりもジャスミンの甘みとパチュリの苦みのある香りが目立ち始め、ディプティックのオー モエリに似た香りに変化した。

 
 
 
トム フォードのフレグランスボトルの高級感を堪能して化粧品売り場から外に出ると、午前中の雨が嘘のように晴れていた。
雨上がりの爽やかな香りの強い風が吹いており、雨で裾がぐしゃぐしゃになったジャケットが今度は風で全部ぐしゃぐしゃになった。
 
出会った香りたちは充分に心を癒してくれたが、今日は結局おろしたてのジャケットを「洗いざらし」と誤摩化しも出来ないほどに無惨にさせる為に外出したようなものであった。
 
家に帰ると疲れが一気に襲って来たので、アロマリンのティーを室内と全身に振りかけて早々に布団に入った。
 
 
こういう何とも気が滅入る1日の終わりは本当にうんざりするが、
良い香りの中で過ごすうんざりした時間は実はそれほど嫌いではないのであった。
 
 
 
 
 
 
ラボラトリーパフューム