風邪を引いた。
明らかに心身が弱っているのを感じる。
しかし、伊勢丹の香水売り場に行った。
鼻が利かなくなる前にどうしても香りを嗅いでおきたかったからだ。
今回はお目当があった。
オリザ ルイ ルグランのミュゲ フルーリをまた嗅ぎたくなったのだった。
初めて嗅いだのは今年のすずらんの日だった。
その日からその香りに強く惹かれながらも、今日まで夏らしく瑞々しいアトリエコロンや都会的なニッチフレグランスに浮気をし、買わなかった事を後悔したくないがために距離を置いていた。
そんな日々を経て、再びミュゲフルーリのクラシックな香水瓶と向き合ってみると、何だか不器用な男になった気分だった。
所感は以下。
ミュゲ フルーリ(MUGUET FLEURI)
→クラシックな処方を守るオリザ ルイ ルグランにしては取っつきやすいすずらんの洋ナシのような香りが広がるが、他のミュゲの香水より仄かに陰翳が感じられ甘さが控えめ。トップは花そのものというより、すずらんの咲く森や草むらのイメージに近い。エルメスのミュゲ ポースレンと比べると分かるのだが、こちらは現代的なミュゲというよりは先ほどあげたパウダリー感が良い意味で乾燥した古書のような香りをミュゲとグリーンの奥に添えるため、過去の記憶やノスタルジーを喚起させる。肌に乗せるとムエットよりもそれが顕著になる。時間が経つにつれて草花の瑞々しさはさらに遠のき、木箱の中の石鹸のような仄かで落ち着いた甘さに落ち着いた。
調べてみると、オリザ ルイ ルグランのなかでは珍しく(唯一?)1920年に発売した当時のオリジナルの処方から変更されているらしい。現代の自然観に合わせているとのことで、その現代人に向けた記号のお陰でこうしてノスタルジーを感じているという事が興味深かった。
ミュゲフルーリを両手とムエットに貰い、帰りの電車に乗ったらついに熱を出した。
中途半端な熱を出すと寒気や頭痛や目眩がする訳だが、この半分宙に浮いた状態で眠るととても深く眠れて嫌いではない。
ただ、体調が悪くなると妙に感傷的な気分になるのは困ったもので、家に帰ってもメールやLINEの返信を全て放棄して真っ先にベッドに潜り込み、1人ミュゲフルーリと共に昔見た夢の記憶を辿りながら眠った。
オリザ ルイ ルグラン