前々からエルメスから新作の香水が発売されるとは聞いていたが、当初は知らないふりをしようかとも考えていた。
官能性とセットで語られがちな甘く濃厚なチュベローズの香りに若干食傷気味であったからだ。
しかし、やはり天下のエルメスなので捻りがある香りに違いない。と、純粋に気になってしかたがなくなったので、表参道のBA-TSU ART GALLERYへ急いだ。
そこでツイリードゥエルメスの特別展示をしており、この際なので世界観も合わせて楽しんでみようと思った。
ギャラリーに着くと、シャボン玉のような風船やツイリーに結ばれた宙に浮くボトルなどがガーリーながら無重力な爽やかさのある雰囲気を醸し出している。(残念ながらこういう類への語彙がない)
会場内の様々なサイズのツイリードゥエルメスに囲まれながら試香をさせてもらった。
早速所感をまとめようと思う。
ツイリー ドゥ エルメス(Twilly d' Hermès)
→トップはチュベローズの筋を感じさせる甘い花の香りを感じるが、それは意外に思うスタートとなった。従来の嗅慣れたあのパウダリーでとろけるように濃厚なチュベローズではなく、透明感と、ハーブやグリーンが含まれているのだろうかと感じるある種の渋みとも取れる青い爽やかさを伴って香る。その香りは甘さの部分には丸みがあるも、ユリのような白い花の花粉を連想させるクラシカルさも併せて感じられる。店員さんの説明やネットの情報では、調香はチュベローズ、フレッシュジンジャー、サンダルウッドが中心らしい。トップの爽やかさの正体はフレッシュジンジャーなのだろう。思えばジンジャーエールのようなドライな瑞々しさだった。ミドルに移行すると共に、チュベローズの甘みは幾分かお馴染みのパウダリーさが引き立つものの、そのジンジャーのおかげか全体は引き続きシャープに引き締まって香る。奥に感じるサンダルウッドは、これも滑らかで乳白色な香りが強くはなく、清潔でベタつきのないドライな白檀の表情を持っている。それらのちらつき方はスパイシーではあるが、刺激的というよりもクールな粒子感を覚える。ラストはサンダルウッドのパウダリーさが前面で香り、チュベローズの甘さが肌に定着し過ぎなかった。
香りの中にツイリーを見出すとすると、香りの伸縮や動き方がシルクのようだと思った。風に軽やかに揺れるが、気体のように広がってどこかに行ってしまう事はなく、香りの一つ一つが密度のある状態で、シルクを肌に滑らせた時の心地よい冷たさと似たつややかな質感が肌の上に繋がっている。
詩的な香りというよりも、戦略的なチュベローズの使い方をしているという印象を受けた。ここでのチュベローズはチュベローズが今まで表現して来た成熟した女性ではなく、PRムービーに現れる若い男女(?)の眼差しのように、どこか冷めたような含みと鋭角的なエネルギー(ただし攻撃的なものではない)をもって香っている。
今回のチュベローズとジンジャーの組み合わせは、人によっては、やや古い香水を想起させるかもしれない。しかし、従来のチュベローズのアプローチから見れば、ローズとブラックペッパーの組み合わせのような現代的な可能性を感じる。
このように、香りだけ見れば対象を女性だけに限定するのは少しもったいない気がする香りではある。男女ともにシーズンレスで使えるだろうと思う。
試香をした後、もう一度ギャラリー内を巡った。
前職ではたくさんの若い子たちと触れ合う機会があったが、今はめっきり少なくなってしまった。
不思議と彼らの眼差しを思い出すことが出来たのは、コンセプトからの先入観なのか純粋に香りのおかげなのかは分からない。
ただ、この香りを聞いた時に過去を振り返り、つい半年前まで常日頃触れていたエネルギーを懐かしむようになった私は、もういい大人になってしまったという事だろう。