polar night bird

香りの記録

36.結婚披露パーティー(ローズ ゴルデア 他)

大学の同級生の結婚披露パーティーへ参加するために椿山荘まで行った。

椿山荘は行くのは初めてだった。 かの有名な椿山荘にはどんな香りがあるのかも非常に楽しみで、会場の1時間前にはホテルに到着していた。

しかし、探し方が悪かったのか、ロクシタンチェリーブロッサムしか見つからなかった。

 

パーティーの終わった帰り道、せっかくの華やかな気分であるので、華やかな香りを楽しみたくなった。

椿山荘のバーで一杯やる事も考えたが、いそいそと銀座に向かった。

 

 そこで色々と華やかさに目を向けて香水を選んだところ、クリード  アクア イリス チュベローズ、ブルガリ ローズゴルデアが印象に残った。

所感は以下。

 

 

 クリード

アクア イリス チュベローズ(AQUA IRIS TUBEREUSE)

→トップからチュベローズの香りが立ち上るが、郊外の緑地をイメージしているとの事で、甘く濃厚というよりはユリやイリスなどの青みがかった香りが強く、チュベローズの香水としては新鮮な香りのものの1つに感じた。季節や体質もあるが、トップ以降は熟する様に徐々にチュベローズらしさが現れ始め、ラストはトップの控えめな青みのある香りからは想像の出来ない、ジャスミンやココナッツの様な優しくややパウダリーで滑らかな白色の甘みが覆った。バニラが入っているらしいが、水っぽさは無く草花の気配を残しているためラボラトリーパフュームなどでも表現されているゴースの香りに似ている。

英国貴族が楽しむ郊外の草花的なイメージを持った。

 

 ブルガリ

ローズ ゴルデア(ROSE GOLDEA)

→「華やかなローズ」の王道を行く香り。ただ、今までの良くあるローズの香水より一段と瑞々しく香る。生花的な青さやパウダリーさは抑えられ、トップにザクロの香りが配置されているらしく、そのフルーティーな甘さは個体で主張せず、すっきりとそれでいて蜜めいたローズの香りを際立たせている。その後はローズの上品な香りが更に台頭して行く。王道なのでムスクとジャスミン、サンダルウッドも入っている。ミドル以降に甘さは増す事なく、やはり瑞々しさのあるムスクが目立ち始め、どこかで嗅いだ事のあるローズ石鹸の様な香りに落ち着いた。香料もどれも良いものを使っているので、嫌な感じで鼻に残らない。

店員さん曰く、調香師がこの香水を一言で言うなら「feminine」と形容したそうだ。それを踏まえて総体として良く言えば全ての女性に安パイの良い香り。

エピソードに関しては聞かねば良かったと少し後悔したが、トップからミドルにかけてのローズの芳醇さには眼が覚める。

 

 

 

香水の華やかな値段と香りを楽しんだ後、やはりどこかのバーで一杯やってから帰ろうかと思ったが、ヒールを履いた足が限界だった。 

 

思い返すとパーティーはとても暖かく幸せな雰囲気で、綺麗になった花嫁の同級生を眺めながら次は誰かな、と同席したクラスメイトと話した。
私たちは今年27歳になる。本来27歳は結婚や家庭に希望を持つべき、社会を担うべき年齢のはずなのだ。

しかし私は、今までもこれからも、結婚式はいつまでも浮世離れした、他人事の儀式であってほしいと思う。

 

 

 

クリード

Café des Parfums|カフェ デ パルファム|クリード

 

ブルガリ

ブルガリ | イタリアのファインジュエリー、ウォッチ、ラグジュアリーグッズ

 

35.ミラー ハリスとの出会い(ルミエール ドー レ 他)

仕事を定時にあげて銀座に行った。

昨日から三越でミラー ハリスの香水が全種類カウンターに出回ると聞いたからだ。

ここの所、あまり新しい香水を嗅いでいなかったので、これを機にミーハーに新しい香水に飛びついて一度に沢山嗅いでみようと思った。

 

 

B1階の香水カウンターに行くと、丸い卓にミラーハリスの新コレクションが綺麗に陳列されていた。

シンプルなボトルはどこかのセレクトショップで見た記憶があったが、試香の機会は無かったのだろう。新鮮な出会いに久々に試香の意欲が湧いてきた。

その中でも今回の新作のルミエール ドーレとエチュイ ノワールは光と影がテーマと言う事で、早速試香してみた。

所感は以下。

 

 

 

ルミエール ドーレ(Lumière Dorée )

→オレンジ由来の香料がふんだんに使われており、トップからプチグレンとオレンジフラワー、ネロリの香りが豊かに広がる。ジャスミンも入っているらしいが香りはパウダリーな甘いオレンジフラワーではなく、甘さはあるもののコロンの様に瑞々しいネロリの爽やかさが主役なので男性でも難なく纏える。

店員さんの説明通り、瑞々しく青空の下の晴れやかな朝の庭を彷彿とさせる。

時間を経てもネロリの香りは最後まで続くが、ラストが不思議だった。体質のせいだろうか、明るい太陽の日差しを感じさせるトップの甘さは遠退いて行き、プチグレンの酸味のある香りに木の根やお香の様な乾いた鼻にツンと来る神秘的な香り(エレミだろうか?)が入り込んで来た。

 

 

エチュイ ノワール(Étui Noir)

→トップからパチュリやレザーが深みを感じさせる。重さはあるが、そこに混じる甘さはくどくなく、ベルガモットかタンジェリンなどの酸味を引いた柑橘系の香りに加えてアイリス、ジャスミン的なパウダリーさがそれを濃厚にしている。

肌に乗せると不思議とレザーは主張をせず、パチュリやジャスミンの香りが肌に馴染んだ。フェギアのアルギィエンスエニャを思い出したが、こちらはカシスの甘さではない分甘みの粘度が弱くあっさりとしている。ミドル以降からインセンスとベチバー、アイリスのパウダリーな香りが増して行き、漂う様な夜露を含んだ様な甘さに変わる。不思議と女性的であり、夜が白む直前のあのまったりとした時間のイメージが湧いた。

 

 

 

ルミエールドーレとエチュイノワールは、トップこそ分かりやすく違った香りだが、光と闇が同じものの様に、どちらも柑橘系を包み込むようにしてグリーン系の香りが広がる設計はとても似ている気がした。やはり節々に同じ香料がつかわれているのだろう(説明してもらったが何が入っていたかはほぼ忘れてしまった)、やがてそれらは時が経つにつれて日が暮れ夜が明ける様に近付いて行くが、しかし近付く程にそれぞれの香料が対照的に働いている事が分かる。

 

試しにルミエールドーレとエチュイノワールの残り香の付いたムエットを一緒に嗅ぐと、やはりとても良い香りになった。

コンバインしても良いのかもしれないが、それよりもカップルなどでそれぞれ別の完成された香りとして纏った上で合わさった時の香りを楽しむ方が良いのではないかと思った。

 

 

この他にも全種類嗅がせて貰ったのだが、印象的だったのはジェーン・バーキンとのコラボフレグランスであるレールド リアン。簡単に所感は以下。

 

 

 

レールド リアン(L'air de rien)

→製作時に「古書の香り」とオーダーされたものだと店員さんから聞いた。トップからモスやパチュリなどの苔むした様な癖のある湿った香りと古い紙を彷彿とさせるウッド系の香りが丸みを帯びて広がるのだが、その後に浮かび上がるバニラが製本に使用されている様な上質な糊の様な香りを作り出していて非常に面白かった。(所有しているイタリアの高級糊が丁度こんな香りだった)

図書館系の香りはちらほら見かけるが、本自体に寄った香りは珍しいのではないか。ノスタルジックではあるが、埃っぽさより先述した湿っぽさが心地よい。

 

 

 

 

 あとは

花と果実をふんだんに使った華やかでフルーティーなカード ジャルダン

ローズの香りをペッパーが引き締めた甘さの控えめなローズ サイレンス

パウダリーで落ち着いた香りのベチバー インソレント

だろうか。嗅ぎやすいが、どれも考えれば簡単な香りではなかった。

 

 

 

また色々と勉強になったと感心しながら三越を出た時、既に鼻がほとんど効かなくなっていた。

歩いているとたまに感じる排水口のような香りに苦悶する必要が無くなり助かりはしたが、

次に行ったバーニーズニューヨークではあまり香りが分からず、何度もコーヒー豆を嗅がせて貰ってしまった。

 

 今思い返すと、ミラー ハリスはバリエーションが豊かで面白かった。

現代的な流行を押さえたものからクラシカルな調香まで楽しめる。

昔のレシピを守って製造している系統のニッチフレグランスは多いが、ミラーハリスの香水は根底がとてもモダンなので、古典的な香りも広がり方はあくまで現代的で、妙なノスタルジーが排除されていて嗅ぎやすかったように思う。

 

ミラーハリスはムエットではなく人の肌にのせる事が完成らしい。

すべて試そうとすると腕がおおよそ20本必要になってくる。

たくさんの人を連れて腕に乗せてもらうのが良いかもしれない。 

 

 

 

ミラー ハリス

https://www.millerharris.com/collections/fragrance

34.実家(レールデュタン)

秋田に行った後、実家に帰った。

 

実家は私が家を出てから幾分か変わった。

台所の配置が変わり、煙草の臭いはすっかり消え去り、知らない猫を飼い始め、その猫の為に柵が設けられ、おまけに冷房が効かなくなっていた。

今年はなぜか、あまり実家に帰ってきたという時間が無く、何となく疲れが取れなかったので、気晴らしに皆が各々の活動をしている中引き出しや物置を物色することにした。

 

すると、引き出しの奥からレール デュタンとディオリッシモを見付けた。

昔、亡き母方の祖父が海外土産に買ってきてくれたものらしかった。

不幸にも香りに興味のない者への送りものにされてしまったおかげで時の流れをほとんど湿った引き出しの奥の箱の中で経ており、残念ながらディオリッシモは既に劣化しきっていた。

ルドニツカと当時のスズランの香りに思いを馳せる事は叶わなかったが、その隣にあったレール デュタンは劣化していながらも辛うじて嗅ぐ事が出来た。しかしそれも辛うじてであって、劣化は劣化。購入当初は更に香りが豊かだったのだろう。

そう思うとあまりにも口惜しかったので、東京へ帰る途中の池袋の西武で新しいものを試香した。

所感は以下。

 

 

 

 

レールデュタン(L'Air du Temps)

→1948年に誕生したいわば名香と呼ばれる類い。

スパイシーフローラルに分類されるが、スパイシーさを感じるとしたらペッパーやシナモンといった香辛料というより、百合に顔を近づけた時の様な、花粉の香りめいた刺激を感じた。

カーネーションが特に強く、続いて百合、イリスが強く香っている気がした。生花の花束のようなイメージ。故に重みのあるパウダリー感が目立ち、私の肌だとベチバーやサンダルウッドの主張が比較的強めの香り方をした。ピーチも入っているようだが、フルーティーな香りは私の鼻では感じなかった。丸みがあり温かではあるが、肌への乗り方に関してはあくまで内政的で控えめな香りであり、層に深みもあるので今日の香水のような広がってゆく傾向は弱い。その分落ちてゆくような耽溺感があり、体を包み込んだ後静かに通り過ぎて行く。その様はクールにさえ感じた。結婚式やセレモニー系の機会に纏いたい香り。

ちなみにレールデュタンは羊たちの沈黙クラリススターリングが付けている。

もちろん意味をふまえた上での設定なのだと思う。

これをレクター博士はガラス越しに嗅いだのかと思うと別の楽しみ方がある。

 

 

 

その夜、母の夢を見た。

「私、お母さんをやめる活動をする事にした」

と言った母の目の前で、やめやすいようにと思い出のイヤリングやCDを持って来て壊して行く夢だった。

目覚めの悪い夢から覚めると、雨風のおかげで窓からは夏とは思えない涼しい風が吹き込んでいた。

  

 

時の流れは常に優しく出会いと別れをもたらしながら私たちを運んでゆく。

 

 

 

 

ニナ リッチ

NINA RICCI Site Officiel

 

 こちらにも説明が書いてある。

NINA RICCH / L'Air du Temps | ニナ リッチ / レールデュタン | INTERMODE KAWABE -フレグランス・香水-

33.新潟にて(六神 花露水)

出張で新潟に行っていた。

 

新潟の山の中で数日過ごしたのだが、殊の外涼しく、自然の草花や土の香りは都会のそれとは違い、ふっくらとした有機的な甘みが鼻に心地よかった。

しかし、暑い事は暑いから汗はかく。仕事が一段落した後、いかにしてその汗ばんだ肌を忘れようかというのが悩みであった。

 

そこで引率していた学生の中の中国からの留学生がこれを持っており、使わせて貰った。

 

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六神花露水

→花露水という中国では有名な虫除け・痒み止めらしい。

香水感覚でつけられるらしく、成分を見ると

薄荷、金銀花(スイカズラ)、麝香と牛黄(漢方?)、蛇胆などの漢方も入っていた。

100年以上前から製造されており、今は香りも複数種あるが、これが1番クラシカルな香りだそうだ。

 

調べていたら「ベビーパウダーの香り」と形容されていたが、確かに白檀のパウダリーで穏やかな甘さが1番強く香り、香りを深く吸い込むとスイカズラの蜜っぽい香りが奥に感じられる。酸味は無い。麝香(ムスク)が入っているからか、漢方の数々はきつくは香らず、例えればメンズ香水に入っているパチュリ的な、奥にややコクのある癖と苦味を添えるのみ。

香りは甘く濃厚だが強くは香らず、薄荷のおかげで鼻に通る冷たさが心地よく肌に乗せるとひんやりとした爽快感がある。

1番クラシカルな香りだけあって懐かしさを感じさせる香り。

 

 

 

自然のリアルな香りに包まれていたら、持って行った気に入りのポメロパラディやオーデラブにも不思議と酔ってしまった。 

六神花露水ももしかしたら車内で香ったら酔う人間がいるかもしれない。
しかし不思議と周囲の自然の香りの邪魔をせず、私の鼻と肌には良いものだった。

 

花露水も新潟の自然も、嗅いでいると草と土の香りを吸い込みながら夢中になって遊んだ遠い昔を思い出した。

 

 

 

そして今は新幹線で秋田県の自然の豊かな母の実家に向かっている。

秋田の草花はどんな香りがするだろうか。

 

 

 

 

 

 

※六神花露水は購入出来る日本語サイトが無いようだった。

中国でしか買えなさそうと聞いたので、中国に行く友人知人に土産に頼むのが1番簡単な入手法かもしれない。

 

 

32.よそ行き(ナルシソ オードパルファム プドゥレ 他)

知人が二組結婚した。

めでたい話だ。

しかもどちらも私をパーティーに呼んでくれるらしい。

これは服と香水を新調せねばなるまい。と嬉々として外出した。

私は恋人達が大好きだ。

恋人達の関係が流動的に常に進化発展する感動は、手に届かない美しいものに対する憧憬に似ている。

 伊勢丹でパーティーに来て行く服を見繕いながら、

もし自分の恋愛や好きな人、結婚式の為の香水となるとどんなものを纏いたいか

と考えてみたが、あまりにもピンと来ない発想だったのですぐに考えるのに飽きてしまった。

 

その日、病み上がりの鼻のリハビリで試香した香水の所感は以下。

 

 

 

ナルシソ・ロドリゲス

ナルシソ オードパルファム プドゥレ(Narciso Eau de Parfum Poudree) 

ジャスミンとローズ、シダー、ムスクといったド定番の調合かつウッド系が強めに香るにも関わらず、香りの水と言うよりボトルのピンクのように不透明な滑らかさがペーストを感じさせるところが面白かった。同じ調香で「センシティブ」を自称する香水は数あれど、トップからミドルにかけてはその中でも嫌味なくセクシーで華やかな香りなのではと感じる類。パチュリが入っているからか、私の肌に乗せるとムスクが強く香りながらほのかに苦みを感じ、そこが他の王道の「センシティブ」な香水とは違っていたように思う。滑らかに一つの香りとしてまとまってはいるが、オードパルファムのため重さと濃さはある程度ある。体質的に時間を経るほど甘さが深まり、ラストはバニラとローズの甘みが強くなってしまった。

華やかで洗練された街・室内に付けて行きたい香り。

 

 

イッセイ ミヤケ

ロードゥ イッセイ プールオム サマー オーデトワレ 

(L'EAU D'ISSEY POUR HOMME SUMMER EAU DE TOILETTE)

→2016年限定版らしい。ボトルの面白さに興味を惹かれてオムだと知らずに付けてしまった。トップはパイナップルや柑橘の嗅ぎやすい南国を感じさせる甘さ(キウイも入っているらしい)の奥にコリアンダーやベチバーの苦味が共存する瑞々しい香りが広がるが、私の肌に乗せると途端にグリーン系の香りが強く香りだし、よく言えば渋み、最悪に言えば加齢臭のような人肌の暖かさと刺激のある香りになってしまった。ここが上手く香れば良い香りになるのは明白で正直後悔したが、それも程なく収まり渋みの伴うマリン調の香りに変わって行った。ムエット上ではミドル以降のミントのように鼻に抜ける清涼感が良く分かった。

毎日肌にしみ込ませるように使うと言うよりは、カジュアルに海などへ出掛ける際に纏う事を勧めたい香り。

 

 

 

どちらも似合うシーンは違えど「よそ行き」の香りであった。

よそ行きかつ、個々の香りの組み合わせとトップ・ミドル・ラストの変化が予想外の香り立ち方をする香水だったように思う。

 

 

さて、パーティーにはどんな香水を付けて行こうか。ゲランかシャボゥかフェギアか、いっそこれを機にメゾンオリザのミュゲを買ってしまおうか。

パーティーの前に今週の日曜日は人と美術館に行く約束があるが、そこで纏う香水はまだ決まっていない。

 

 

 

 

 ナルシソ ロドリゲス(cafe de parfums)

Café des Parfums|カフェ デ パルファム|ナルシソ ロドリゲス|ナルシソ オードパルファム プドゥレ

 

イッセイミヤケ

ISSEY MIYAKE INC. | ISSEY MIYAKE INC.

 

31.懐かしい香り(ミュゲ フルーリ)

風邪を引いた。

明らかに心身が弱っているのを感じる。

 

しかし、伊勢丹の香水売り場に行った。

鼻が利かなくなる前にどうしても香りを嗅いでおきたかったからだ。 

 

今回はお目当があった。

オリザ ルイ ルグランのミュゲ フルーリをまた嗅ぎたくなったのだった。

初めて嗅いだのは今年のすずらんの日だった。

その日からその香りに強く惹かれながらも、今日まで夏らしく瑞々しいアトリエコロンや都会的なニッチフレグランスに浮気をし、買わなかった事を後悔したくないがために距離を置いていた。

 

そんな日々を経て、再びミュゲフルーリのクラシックな香水瓶と向き合ってみると、何だか不器用な男になった気分だった。

 

所感は以下。

 

ミュゲ フルーリ(MUGUET FLEURI)

 →クラシックな処方を守るオリザ ルイ ルグランにしては取っつきやすいすずらんの洋ナシのような香りが広がるが、他のミュゲの香水より仄かに陰翳が感じられ甘さが控えめ。トップは花そのものというより、すずらんの咲く森や草むらのイメージに近い。エルメスのミュゲ ポースレンと比べると分かるのだが、こちらは現代的なミュゲというよりは先ほどあげたパウダリー感が良い意味で乾燥した古書のような香りをミュゲとグリーンの奥に添えるため、過去の記憶やノスタルジーを喚起させる。肌に乗せるとムエットよりもそれが顕著になる。時間が経つにつれて草花の瑞々しさはさらに遠のき、木箱の中の石鹸のような仄かで落ち着いた甘さに落ち着いた。

 

 

調べてみると、オリザ ルイ ルグランのなかでは珍しく(唯一?)1920年に発売した当時のオリジナルの処方から変更されているらしい。現代の自然観に合わせているとのことで、その現代人に向けた記号のお陰でこうしてノスタルジーを感じているという事が興味深かった。

 

 

ミュゲフルーリを両手とムエットに貰い、帰りの電車に乗ったらついに熱を出した。

中途半端な熱を出すと寒気や頭痛や目眩がする訳だが、この半分宙に浮いた状態で眠るととても深く眠れて嫌いではない。

ただ、体調が悪くなると妙に感傷的な気分になるのは困ったもので、家に帰ってもメールやLINEの返信を全て放棄して真っ先にベッドに潜り込み、1人ミュゲフルーリと共に昔見た夢の記憶を辿りながら眠った。

 

 

オリザ ルイ ルグラン

Oriza L. Legrand | Maison de parfums fondée en 1720

30.家の前の木(ビーチ ウォーク)

最近、めっきり外が暖かくなり、春先に比べて香りに快感よりも不快感を覚えることが多くなった。
だからなのか、試香をしても文章にする気力がなかなか湧かず、ブログもこの体たらくなのだった。


歩いている表参道は、人の汗と香水と化粧品の香りといったべたついた不透明な香りがしていた。
かつて帰り道を彩った花々の時期はとうに終わり、あの甘いネロリの香りを恋しく思っていた。

春の終わりの夜、家に入る前どこからともなくネロリの甘い香りがする時があった。
辺りを見ても暗闇ばかりでそれがどこから来るものなのか分からなかったが、闇夜に香るネロリは心に温かかった。

それももう来年まで感じる事は出来ない。
そう考えたら急にしょげた気持ちになってしまい、自分の意思で来たにもかかわらず帰りたい気持ちになりながら原宿を目指して歩いた。


丁度その時、MM⑥のショップが目に入り、久々にモダンなレプリカシリーズの香水を嗅ごうと入店した。
その中で、今日はビーチ ウォークが印象に残った。今まで特に着目していなかったが、夏の今になって急に目に留まった香りだった。
所感は以下。


ビーチ ウォーク (Beach Walk)

→名前の通りマリン的な甘さが香る。しかしそれに含まれるのはバニラではなく、調べるとココナッツやミルク由来の甘さ。
バニラだと気温が高いと嫌な濃度で残ってしまったりするが確かにこれにはそのべたつきも生臭さもない。
最後まで波打ち際を彷彿とさせるような粒子の細かい滑らかな瑞々しさが続く。
酸最初は味の抑えられた柑橘の香りからはじまり、時間が経つにつれて濃厚なイランイランのパウダリーな花の甘さが混ざって来る。
甘い香りが多く使われており優しい香りだが、個々がある程度クールに管理されて混ざり合っており肌と上手い距離感で香った。(単に使いこなせていないのかもしれないが)
フレッシュな朝のビーチというよりは、やや日の傾いた海岸で香って欲しいイメージ。
23の記事のゴースと併せて夏でも甘い香水を付けたい人にはお勧めしたい。


やはり夏は柑橘系の香りが良く香る。
その日はレプリカシリーズだけで鼻が疲れてしまい、早々に家に帰ってビーチ ウォークの付いたムエットを嗅ぎながら今年も行かないであろう海に思いを馳せながら寝た。

 

次の日の朝、家の前の通りを歩いていたら、大きな夏みかんが2つ道路の脇に落ちていた。上を見上げると大きな木が茂っており、いくつか道に落ちている物と同じ形の実が残っていた。
いつも帰るのは夜遅くで、この木を日の下でまともに見るのは初めてだった。
そして夏みかんは、夜にどこからともなく香っていたネロリが家の目の前のこの木のものだったと意味していた。
その熟しきって落下した萎びた夏みかんを見て、
「お前だったのか」
とついつぶやきが口に出た。

丁度そのとき近所の老人達がやって来て、私は独り言をいう変な女として見られたが、そんな事はどうでも良かった。

 

 

メゾン マルジェラ

Maison Margiela Fragrances