2018年が始まった。
2017年は個人的にはウンハイムリッヒとの出会いによってしっかりと終わりを迎えられた気分なので、今年は初心に帰ってさらに香水の探検を進めて行こうと思っている。
香り始めは、年始早々に取り寄せたいくつかのブランドのうちのZoologist Perfumesで始めた。
Zoologistは香港出身のVictor Wongが創始者のカナダのブランドだ。
残念ながら日本には未上陸だが、日本人では稲葉氏(彼のポータルサイトは日頃から愛読している)が調香で参加している他、ビジュアル面での他にない熱量などが最近の新鋭ブランドの中でも一際目を引く存在だった。
ブランド名の通り、それぞれ動物がテーマになった銘が揃っている。
しかし「動物学者」であるので、動物=香りは私たちの研究の対象としてあくまでフラットに扱われている。
今回は悩みに悩んで
エレファント、キャメル、ドラゴンフライ、ナイチンゲール、パンダ、シベット
を取り寄せた。
パンダの文字が切れてしまった…
この記事ではどれの所感から始めようかとここでも悩みに悩んで、新作のエレファントとキャメルから書き始めることにした。
エレファント(ELEPHANT)
ミドルはココア、ココナッツ、ミルク、インセンス、ジャスミン、ウッディーアコード
ベースはアンバー、ムスク、パチュリ、サンダルウッド となっている。
トップから深いグリーンが全面に香るのだが、それを奥まで吸い込むと、マグノリアやジャスミンのややパウダリーで濃厚な花の香りや茶葉のコクのある香りがウッドの乾燥した香りに包まれながら内に凝縮するように瑞々しく香るのを感じた。ユニークなグリーンだと思う。中間にやや重めに不透明なミルキーさのある香りが配置されている構成で、トップのやや渋みを伴うグリーンは出だしから徐々に華やかな広がりへと変化するのだが、やはりココアの鼻の中腹で留まるようなふくよかなパウダリーさとココナッツの繊維感のある乳白色の香りがグリーンをスパークしたままでは終わらせず、まったりとした流れで明るく温かい色を差してゆく。
ミドルはトップの木の葉が生い茂るグリーンから考えればずいぶん日向のような香りへと変化している。ココアのなのかココナッツなのか、やや毛羽立った質感の仄かな気配は感じるが、他の甘さが控えめでミルキーな香りが沈着な調子で流れる中、その上に香り立つのはジャスミンの芳香なのだろうか。花と果実の丁度中間くらいの体温を感じる甘酸っぱさのある香りは、木々の開けた場所で感じる日光の温かさとそれを浴びる南国の木の実をイメージできた。ただしここはあくまで森の中なのだ。トップからのウッドのちりちりとした粒子感の香りは常に周囲に配置され、ラストまで続く。
ラストはココナッツや花の香りは遠のくものの、パチュリの影響か、トップのグリーンの渋みが再び現れる。ミルクの部分を引き継いだサンダルウッドのまろやかさとグリーンの相まったリラックスのできる香りは、やはり日本人の考える森的な爽快感というよりは、さらに深い森の湿潤感に近い。
全体的に興味深かったのは、主な香りのグリーンが割と下の方に感じられた所だった。像の視点という事だろうか。HPでは木々をなぎ倒して進む像について書かれているが、そう考えるとラストにさしかかる頃には自分が像になったような気分さえしてくる。自分がなぎ倒した木々の新鮮な香りや身体に纏わりついた葉の濃い香り。にも関わらず不思議と攻撃的でない。スケールの大きな像だからこその不思議な穏やかさなのかもしれない。
キャメル(CAMEL)
→トップはドライフルーツ、フランキンセンス、プラム、デーツ、ローズとオリエンタルなフルーティーさが広がる。しかし重すぎずドライフルーツやデーツの煮詰めたような茶褐色のこくのある甘みをローズとフランキンセンスの鼻に抜けるような香りが奥の方に空間を作り出しているようなイメージがある。そのローズもオリエンタルな石鹸的なローズであり、ドライフルーツのとろけるような甘さの外縁を流れている。
ミドルはアンバー、セダー、シナモン、インセンス、ジャスミン、ミルラ、オレンジブロッサム。私の肌だとミドルへの移行が早かった。このままどんどん甘くなってゆくのかと思ったが、急に重力(スピードだろうか)が変わりセダーやインセンスの甘みのないスモーキーさが前面に現れた。それは軽やかで穏やかな動きで香りを囲い始めているのが分かる。それまでのフルーツなどのとろけるような甘い部分は徐々に控え目な様子で混ざり合い、煙のベールの奥へとしまわれる。時折、そのインセンスのベールを揺らすように瑞々しい花の香りが一瞬通りすぎるが、それはこの距離ではジャスミンともオレンジブロッサムとも判断がつかない。ローズの蝋のような滑らかさはかろうじて分かるのだが、長い夜の間にいたずらに思い描く空想の花を思わせる。
ここでベールと表現したミドルの香りは、遠くの花やフルーツへ思いを馳せているうちに徐々にラクダの毛皮の様に思えて来た。シベットやムスク由来なのだろうか。それは砂漠の砂で乾燥した、粒子感を乗せてややごわついているが撫でれば手の動きに合わせてしっとりと落ち着くような毛並みを感じさせる。気付くとその毛皮に直に触れたくなって香りを乗せた手首に鼻を付けて吸い込んでいた。(実際にラクダに触ったことがないので何とも言えないが…)
ラストは意外にも穏やかで控えめだった。ムスクとトンカが優しく肌に染み入り、バニラに乗ってトップからのドライフルーツの甘い香りが再び仄かに顔を出した。
オリエンタルというと、とにかく中東的なインセンスやベンゾイン、ミルラが渦巻く濃厚で不透明な様という先入観があったが、このオリエンタルは王道のオリエンタルの様相ながらトップから最後までどこかに突き抜けた風穴があるように風通しが良く、全体から想起できる茶褐色は固形物然としたまとまりはあるものの宝石の様に透き通っている。それは夜の砂漠を流れる風のようでもあり、ボトルのラクダの悠然とした表情と眼差しとも何とも重なるのだった。
全体的に砂漠のテントで過ごす夜のようなイメージ。何かの香りが変に突出しているわけでもなく、とてもまとまっている印象を受けた。久々にオリエンタルで多幸感を味わえた。
Zoologistは総じて鼻当りはFUEGUIA1833と似ているように感じた(アンバーや合成香料の割合が似ているのだろうか)。そのFUEGUIAにしばしば見られる女性的な曲線をシャープに男性寄りにしたような感覚も覚えた。甘い香りも鼻当りは良いがそこまでエモーショナルな広がりがある訳ではなく、モダンなシャープさがある。
調べると、創始者は香水マニアかつコレクターらしい。
確かに、Zoologistの香水はどれも個性的だが、先行している各ジャンルの香水からの引用がしっかりなされている印象を受けた。それが懐古的な気分にさせる時もあるのだが、その王道のノートを踏まえた香りは初心者も一通り香水を楽しんだ者も明確に香りの探究が出来るようになっていると感じた。
残りの香水も追って所感を残して行ければと思う。
新年早々個性的で楽しい香水に出会えたのは嬉しい限りだった。
今年はこの他にもどんな香水に出会ってゆけるのだろうか。
Zoologistperfumesのおかげで今から探究心が止まらない。