polar night bird

香りの記録

83.NOSE SHOPレポート《NEBBIA/UNUM/STORASKUGGAN》

昨月、NOSE SHOPがリニューアルオープンした。

 改装の知らせもぎりぎりになってから得たもので、正直このくらい大きなリニューアルだとは思っていなかった。

 オープン日前から新入荷のブランドを紹介していたSNSを見ていると、UNUMやSUTORASKUGGAN、アンドレアマーク、ソン ヴェーンと、北欧系香水を中心に(UNUMはイタリア)セレクトの方向性をだいぶ大きく絞った印象を受けた。クラシカルやオーガニックなセレクトに寄っている店はよく目にするが、ここまでエッジの効いたアンチパフューム系のセレクトショップも珍しい。

 

 

さて、今回は個々の所感は追いつかなかったので全体的な所感を残そうと思う。

 

新たなバリエーションとして、個人的になじみ深いNEBBIAとUNUM、STORASKUGGANをピックアップしたい。

改めて聞いて、やはり実験的ともいえる視点の置き方が面白い3ブランドだと思った。

 

 

 

 

UNUMは少し前にLAVSの所感を残したこともあり、記憶には新しいブランド。

 

UNUMの創始者のフィリッポはSAUFやNEBBIAも手掛けているが、彼の香水の世界への入門はもちろんこのUNUMからをお勧めしたい。

店頭には上記のLAVS、ローズを使わないでローズを作り出すローザニグラ(私は彫刻的だと思っている)、サンドニ大聖堂とゴシック建築をモチーフにしたオーパス1144、退屈さの中での内なる旅のアンニュイノワール、マリオ・ジャコメッリの写真をテーマにした神学徒たち(原題はIo Non Ho Mani Che Mi Accarezzino il Volto)、オルガン奏者のマルセル・デュプレに捧げたシンフォニー パッションが置いてある。

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ジャコメッリの写真。実際に見る際はボトルの裏側も是非見てもらいたい。

 建築、写真、音楽、服飾、彫刻とフィリッポが関心を寄せる芸術の領域を網羅しているシリーズなので、各々のジャンルに馴染み深い人は更に楽しめるのではないか。

それらはイタリアの歴史を感じさせるキリスト教的なフランキンセンスやミルラ、ベンゾインなど沈み込むようなレジンの香りが内にくぐもるように分厚く漂うのだが、その一方でその浮世離れした香りと対照的な、俗世界の乾いた香りが混ざり合い、厚い重力をもって鼻より少し下方を漂うイメージを受けた。ここでの厚さや奥行はクラシカルな香水に見られるウエットさを失わない下に向かうトンネルのようなそれではなく、突き放したような、このまま地平を見続け自分で深みを探るようなマットな奥行を感じさせる。それが案外息がしやすいのは、あくまでこのシリーズの視点が我々人間から見た、人間が追い求める崇高さを思わせるからかもしれない。

闇の中での時間の過ごし方の指南香水としても傍に置いておきたい。

 

 

 

NEBBIAは

Densa(濃密な霧)、Spessa(深い霧)、Fitta(厚い霧)

の霧をモチーフにした3作品。

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 ラメ入りで可愛い

 最近の香水は、往年の名香や天然香料系の香水と比べると厚みの無さや底の浅さを指摘されてしまうケースがしばしばある。しかしこのシリーズについては、その横に広がるケミカルな浅さがいい意味で重要に思えた。

NEBBIAは霧の中に敢えて止まり、見ることを放棄する香りだった。

アンジェラチャンパーニャのアーエルやアンドレアマークのソフトテンションの霧の表現は、専ら瑞々しいグリーンやモスの緻密な描写、それと霧イメージの香り群との対比が、霧の中の草や岩などの包まれたものへの視線を想起させる。

一方NEBBIAはトップから感じられる水蒸気のような細かい粒子感と気体的な広がりを作り出しているケミカルの速度感によって、霧自体の量感、拡散性、周囲を覆う圧の方へ視点が向いている。

前者が霧の中の物たちの輪郭が描きこまれて行く描写だとしたら、後者は見つめる事物や己自身が霧に飲まれてその境界線を失って行く。

(訳しきれていないが、公式HPにも境界線については書いてあったと思う。)

名前の通りの強い霧に飲まれて正体を失った状態で、その霧を見つめ続ける静寂の時間が過ぎ去ったあとの足元に広がる元の世界の香りは嗅ぎなれないもののように映る。

 

 

続いてSTORA SKUGGANは、スウェーデンストックホルムの小さな工房で作られている香水。このブログでも以前に取り上げたFantome Maulesもディスプレイされていた。

 

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シルエットが人のようでもあるボトル

改めて試香してみた所、やはりこのブランドの面白さは感情の読めないフラットな香り方なのだと思った。同じ北欧系のブランドと嗅ぎ比べをしてみると、どの銘も自然が絡んで来ているものの、STORASKUGGANの自然はある一定以上の具体的な描写を意図的に避けているようにも思える。

また、とある香水愛好仲間と話している時に「サイトがアノニマス的だ」との指摘をもらった。なるほどなと思ったのだが、確かにSTORASKUGGANは、調香師やオーナーがメディアに露出する今日の香水界隈には珍しく関係者の素性が一切明かされていない。香りのコンセプトも個人的な記憶というよりも、村に伝わる森の中の怪人、古代の植物、鍾乳石など、昔からその周辺の人々が共有してきているのであろうモチーフを扱っている。至る所が集団知的なのだ。

STORASKUGGANは遠くで見ればどこかで嗅いだことのある香りがぼんやりと抽象的に見い出せる。それはあっさりと人当たりの良い香り方をしているのだが、何か切り込むとっかかりを掴もうと近づくと、意図された物語性のような起伏や感情のささくれ立ちが見当たらず、ただただそのすべらかな外縁の曲線に沿って漂うだけになる。

もちろんそれは香りとして個性が薄いという意味ではない。

顔の無いいくつもの香り達の顔の無い集合体が作るフラットで底の知れない香りは、その土着性を完全に蚊帳の外の者へ向ける形で展開してゆくような奇妙さがあり、寧ろとても楽しい。

 

 

 

 

以上3ブランドをまとめてみたが、全体を通して、やはり21世紀のアンチパフュームの奥行きではなく水平に広がってゆく構成を上手く使って表現しているものが特に印象に残った。

確かに香料自体の上質さや沈んで行く蕩けるような贅沢な香水も好きだが、同じくらい敢えて浅い層に留まる事で見えてくる構成の面白さにもまだまだ可能性を感じるのだ。

そしてやはり、実物を手に取りそのブランドを他の香りと一度に試香できる店舗があるというのは素晴らしい。様々な香りに五感で触れて得る目が回るような充足感はやはりネット購入ではなく店舗でしか味わえない贅沢だと思う。

 

はるばる海外から日本にやってきた不思議な香水たちが、これから多くの気が合った人の元に買われてゆくことを願うばかりだ。

 

私はというと、新宿を通過するたびに、容易に手の届く存在となったLAVSを購入するかどうか悩ましく思う毎日を送っている。

 

 

 

 

 

www.storaskuggan.com

 

www.unumparfum.com

82.春の喜び《Melodie de L'amour(Parfume Dusita)》

春が近づいてきた。

一日中眠気が襲い、外は何やら花粉と共に生物の香りが蘇り始めている。

 

イタリア香水の一旦の締めくくりにBogue Profumoを選んだものの、一種類だけでは特徴を掴めず追加で何品か取り寄せているのもあり、記事の進捗が思わしくない。

その間にNOSE SHOPがリニューアルオープンし、前々から気にしていたUNUMとSTORA SKUGGANが日本にやってきた。

もちろん行ったので愛をこめてまとめてレポートしたいと思っているのだが、こちらもまたなぜだか進捗が思わしくない。

書きたいことはたまるばかりで全体的になんだかとてもやる気がない。

腐って行くような非生産性が心地よい。

 

 

 

眠くだらだらとした日々の中で、ふとParfume DusitaのMelodie de L'amourに手が伸びた。

まとめてサンプルを取り寄せたものの、忘れていたようだ。

Dusitaは海外の香水ブログでも軒並み高評価を得ており、Melodie de L'amourは去年のArt and Olfactive Awardのアルチザンカテゴリーで入賞していた銘なので、興味半分懐疑半分の印象だった。

なんにせよ、白い花系の香りはこの眠い春先にぴったりだと、試しに腕に付けてみた。

 

所感は以下。

 

Melodie de L'amour

→雑に括れば王道のホワイトフラワーの香りなのだが、白い花の香りが150種類ほど入っているらしいという説明の通り、底の知れないホワイトフラワーの渦が迎えてくれた。渦と言うより万華鏡のようなのだろうか。ガーデニアのような水滴じみた香りかと思えばジャスミンの青さのような気もする。そうしているうちにチュベローズの濃厚な花粉なのかとも思えてくるので結局は何者なのかは掴めない。四方から正体の知れないホワイトフラワーに見下ろされる空間は、中層のピーチの花とは違った内にくぐもる瑞々しい香りのおかげで、草花を触った時の指に柔らかくこすれる表面の産毛を彷彿とさせる。私の中の記憶と紐付けするとしたら「80~90年代に建てられた白い建物の壁の官能性」とでも表現しようか、決して古いと言うわけではないのだが、触れたいという欲望を刺激する(でも触れられない)デジャヴともノスタルジーともとれる粒子となってとろみのあるゆっくりとした動きで回っているように感じた。

ホワイトフラワーといっても甘さと濃厚さにフォーカスしては広がらない。表面はパウダリーで柔らかな花粉感が漂うものの、これがワイルドハニーなのか、白い花の香りの間を埋める様に蜜めいた甘さが染み出して輪郭を形成しているので、香りの立体感と透明感、肉厚な柔軟さを同時に安定させている。その背後にトップからの白い花以外の花の茎のような青みも感じられる所も、この花園の舞台を一層鮮明に力強く描いているように思えた。

ミドルにさしかかると、白い花の香りが徐々に上方に抜け出てゆく一方で、青みの伴った花の香りがはっきりと感じ取れるようになってくる。調香にあるイタリアンブルームフラワーとは一体何のことだか分からないが、その青みのある花の香りはこのカテゴリのものなのだろうか。シダーウッドオイルの滑らかな下方に流れる動線に沿って自然に、白い花自体の残り香の様に下の方に落ち着いている。それはトップの白い花が元の花に戻るように、トップの胸の躍るようなエモーションを伴う湧きあがり方とは描き方のタッチの違ったある種のクールな細密さをもって鼻を掠めていった。

終始鼻当りは滑らかで、白い花の香水によくあるベースのバニラなどでの甘さの強調は見られないので、ラスト以降はミドルの移動からの流れでいつの間にか腕からするりと逃れ出てゆくように香りが消えていた。別れの予感はミドルから感じられるものの、本当に訪れた時のそのあっさりと後にされるような表情の変化も、いい意味で寂しさと余韻を味わえる。

香りに対して「官能」と表現するのは一種の暴力だと思っていたが、Melodie de L'amourに関しては使わせてもらいたい。白い花達とのめくるめくような情事の記憶のような香りだと思った。いくつもの愛とその喜びの交点で、私は過去の白い花たちとの記憶のモンタージュを抱いているのか、それとも腕の中の名も分からない花の様々な表情を同時に感じているのか。平衡感覚を失うような官能性には湿った臭みも燃えるような激しさも必要なく、ただただ喜びがあるのかもしれない。

 白昼夢のように全身を覆われ耽溺できる香りだが、描写が抽象的だからか不思議と香りの対象との距離は終始遠く感じるのだ。先ほども書いた通り、触れたいが触れられないものの香りだからこそまた出会った喜びが欲しくなり手首に一滴落としてしまう。

個人的にはどのような機会にも、男性ならばスーツにも合う香りだと感じる。布の下から香ってほしい。

 

 

 

Melodie de L'amourをひとしきり聞いたあとに顔を上げると、半分眠っていた脳が別の夢に移動したような感覚だった。

まだ昼過ぎの明るい窓の外を見ていたら、無性に外に出なければならない気がして、よたよたと外に出た。

春は正気を失うような気分がする。

温かさのある厚い空気を受けながら、この風は人にはどう香っているのだろうかなど考えながら目的もなく駅へ向かった。

 

 

www.parfumsdusita.com

 

 

 

 

 

 

81.思い出≪id/SOUTH(Mendittorosa)≫

幼少期、プロテスタントであった両親に連れられて日曜日は教会に行っていた。

その教会は後に私が入る事になる幼稚園が併設されていたが、結構な古い建物だった。

ある日、皆が聖書を読んでいる時にお手洗いに行った。

そこの壁はホールと同じく限りなく黒に近い焦げ茶色で、高い位置にある唯一の窓からの外の明かりや緑の葉の反射がかえってからりとした埃っぽさと薄暗さを強調していた。

そこのシンクで手を洗っていると、ふと石鹸に目が行った。

その使い古された乾いた小さい塊には黒い筋がいくつも走っていた。その不気味さを興味深く思った私はその時何かを言ったのかもしれない。

そうしたら、後ろにいた母が「黒い所には人のばい菌がはいっているんだよ」と囁いた。

 

 

なぜこんな他愛のない思い出を冒頭から語り出したかというと、サンプルを取り寄せていたイタリアのMendittorosaを試香したからだった。

サンプルの中のidという銘を始めて肌に乗せた時、その記憶がなぜか頭に浮かんできた。

これがプルースト効果か、としみじみした。

 

 

香りはしばしば記憶と結びつく。

Mendittorosaもまた、創始者のSTEFANIA SQUEGLIAの、幼少期に花などを飽きビンに入れて混ぜたりと香水作り遊びをしていた記憶に根ざしている。

ブランドのテーマとなっているイタリアのストロンボリ島が噴火したとき、STEFANIA は香水を作る事を決意したそうだ。(訳の正確さは疑問なので、公式HPのPDFを参照してもらいたい)

 

しかし、そんなMendittorosaが運んできた記憶は先程の思い出話で、ノスタルジックな感傷とは全くかけ離れており、とても興味深く思えたのだった。

 

 

 

香りの所感は以下。

トリロジーシリーズからはidの香りを選びたい。

(他にはアルファ、オメガがあるが、こちらはやはり別なおかつセットで考えて行きたいと思っている。)

 

id

→ストロンボリ島の火山の別名「iddu」から取っている。

 トップはハーブが主体のクラシカルな香りが現れる。儚いというかさりげない香り方で、強い香りを日々好んでいる人には驚きになるのではないか。

ナツメグサフランは点のように散見できるのだが、ラヴェンサラやタイムのハーブ感とバイオレットやイリスのパウダリーさには何かが突出して香る様子はなく、一つのゆるく繋がった塊として認識できた。注意深く聞くとベースのラブダナムが全体を柔らかく包んでいるのがトップの時点でも分かる。そこがあえて現代的な広がりやスピードを抑えており、人肌のような温かい香りとして、誰かが寄ってきた様にいつの間にか距離を縮められている。

それと同時にベースの堅固さも伺い知れる。かといって変な重たさがあるわではなく、深く吸い込むほどその不思議な安定感と上層の掴めなさのちょっとした差異が心地よく響いた。

ミドルはそのふわりとした空気を内包した香りの中央に穴が空いているような感覚を覚えた。その穴のような中心は、ラブダナムとウッド系の香りがトップとは違ったスピードで整理しているように感じた。フラットに、規則正しく整えられて行く。しかし、出だしからの透明感は全く衰えていない。ベンゾインは遠くに感じるだけで主張はせず、甘みの優しさの面をフォローしている。

トップから言えるのは、ラブダナムの優しさを帯びた香りが常にそばにあるという事で、その香りの包み込む様な質量感が香りの輪郭のガイドのように鼻の後を追うのだ。それが羽を滑らせていくようですこしくすぐったい。

火山というと分かりやすく激しい炎やマグマを連想しがちで、ストロンボリ火山も現在も活発な火山ではあるが、ここでのidは緊張感や攻撃性というよりは、その火山とともに堆積し、ストロンボリ島にしっかりと根を下ろした力強い自然の大地を思わせる。

ただし、その自然も壮大な表現ではなく、あくまで人の日々の暮らしの中の記憶の中から それらを見つめているような、ひそやかで繊細な構成になっているように思えた。だからこそ、透明感と愛おしさすら感じる柔らかさが出来上がっているのかもしれない。

 

 

 

 

次に、THE DUO シリーズからはSOUTHについて所感を残したい。

このシリーズは北と南、相反するが引かれあう二者をテーマにしている。

北は北欧、南は地中海らしいが、確かにNORTHはラムネのようなトップが身近な香りでいうとアゴニストの寒冷な描写に似ている印象を受けたので、コンセプトを読んだ時に納得した。

一方で、SOUTHはよくある地中海的な調香とは少し違っており印象的だった。

 

 

SOUTH

→まずは調香ピラミッドから書くと

トップがイタリアンベルガモット、エジプトバジル、シクラメン

ハートがソフトジャスミン、ドライクリーニングカバーアコード、シリンガ

ベースがオーストラリアサンダルウッド、ホワイトサンダルウッド、グリーンヘーゼルナッツ、パンアコード、プレシャスウッド、キャロットシード、アミリスウッド

というユニークなものになっている。

トップから、温かさを感じる、やや土っぽい香りが広がる。

表層には植物の青みの甘みの少ない苦味があるが、奥にアニスのような、アニスよりはさりげない甘みが感じられる。それと一緒にスッと鼻に通るハーブのような滑らかな線が印象的だった。瑞々しさはそれらとは違う丸く水玉のような質感で、最初は肌の上に留まっていたが、少しずつ肌の中に吸収されて行く。その肌と一体化してゆく度に香りはトップのハーブの線に沿って横に広がって行く。時間が経つにつれて、種を割った時のようなふくよかでコクのあるオイルの気配を帯びた柔らかい香りが時折感じられるようになった。

idと同じく、この香りも優しい香り立ちが鼻と近くて心地良い。ミドルの時点でラストの馴染みを感じるほど肌に浸透した。最初はあえて調香を調べないで試香してみたのだが、ミドルのドライクリーニングカバーアコードがムスクのように思えてしまい、もうラストなのか?と間違えてしまった。しかし、その後も香りの変化があった事で、驚きと嬉しさを感じた。シリンガというのはライラックの花の事の様だ。この花の香りは、私の肌だとミドルの後半の方で感じた。ジャスミンと相俟って、温かく朗らかな花の香りだった。

ラストは日だまりで乾かされたシーツの温かさと繊維の質感を持ったミドルの石けんのような香りの下に、丸みのある甘い香りが現れた。ふっくらとした、パウダリーさと瑞々しさの両方持つこの香りがパンアコードだろうか。このパン的な、ややぱさついた小麦の甘い香りは、サンダルウッドも演出しているのだろう。思えばトップからこのパン的柔らかさと表面の香ばしさは奥の方に行き来しており、ラストでようやくこの香りだったのか。とも思う事が出来た。しかし決してグルマンではない。

南方であるとすれば、温かな風の吹く温暖な農耕地帯のようなイメージを受ける。

不幸にも私はまだ自らの手で植えた植物が実る嬉しさを知らないが、その植物を温かな南風が撫でれば、きっと自分自信が撫でられているような気分なのだろう。眼差しが温かい。

 

 

Mendittorosaの息遣いや体温をも分かる至近距離で囁くような透明で無垢な温かさは、ふと思い出す記憶の質感に似ていた。

 記憶は他の記憶と混ざり合い、誇張され、削ぎ落とされ、絶えず改竄されてゆく。

私が思い出した教会の壁は実際には焦げ茶ではなかったかもしれないし、

石けんの黒い筋もそんなにはっきりと浮き出ていなかったかもしれないし、

 母親は囁かなかったかもしれない。

 

しかしその記憶はとても鮮烈なイメージとして確かに呼吸をしており、これまでもこれからも、私の意思とは関係無く成長し、姿形を変えて再び私に囁きかけるだろうと思う。

 

 

さて、Mendittorosaには他にもTALISMANSというシリーズもあり、試香の後に気付いたらそちらも注文していた。

 

到着が楽しみだが、もはや自分の中でMendittorosaへの感覚は香りの善し悪しや好き嫌いではなくなっているのが分かる。

記憶への中毒に近いのかもしれない。

 

 

 

Home - Mendittorosa

80.5 ブログタイトルを変えました

タイトルの通り、ブログタイトルを日々の糧ー香り日記ーからpolar night birdー香りの記録に変更しました。

 

理由は特にないのですが、「日々の糧」の敬虔な響きよりは、極夜の徘徊者の方が自分自身の生き方や香りに対する姿勢には合うのではないかと思った次第です。

 

今後、もしかしたら気分によっては日々の糧に戻すかもしれませんが、今は生活を抜け出し夜の徘徊を楽しもうと思います。

 

 

 

80.UNUMの黒《LAVS(UNUM)》

雪の降る日にnoseで注文していたUNUMのサンプルが届いた。

雪で再び外に出る気もせず、若干時間を持て余していた私にとって丁度いい到着だった。

 

UNUMというと、マルチにアーティスト活動をしているFilippo Sorcinelliが立ち上げたイタリアのブランドで、アーティックなボトルは遠くに陳列されていてもすぐにUNUMと分かる。

前にはパリでの思い出としてRosa Niglaの所感を書いた。

57.パリの夢(Rosa Nigra 他) - 日々の糧—香り日記—

この酷く寒い今日ではもうこの記事の体験が大昔の記憶のようなのだが、最近ふとイタリアの香水に興味が出て来たので、他のいくつかの香水と併せて Io Non Ho Mani Che Mi Accarezzino il VoltoとLAVSを取り寄せたのだった。

 

パリの旅行以降も様々な香水に出会ったが、やはりUNUMのアートワークはニッチパフューマリーの中でも群を抜いて格好良い。それらの帯びる重厚な黒が、思慮深い香りにとても映えている。

  

今回は2つのうちのLAVSのほうから所感を残したい。さり気ないが深い雪の日にぴったりの香りだ。

lo Non Ho Mani…の方もこれまた趣向の凝らされた濃い目のレジンの香りだったので、二種類同時だと所感をまとめきれないと思った。

 所感は以下。

 

 

LAVS

→トップから澄んだ香りが染み出すように香る。スモーキーだが燻製、みたいな印象ではなく、水蒸気のようなきめ細かい湿潤感と粒子感だが、同時に冬の外気のようなドライな突き抜け感がある。その中心はフランキンセンスのような密度を持ったすっきりとした線が走っており、その香りの一群を補強するようにカーネーションやバラに通じる青さのあるフランキンセンスと比べてやや粘度の高い花の香りが並走しているイメージを受ける。その部分は混ざり合った状態でとてもゆっくりと漂っているので、寺院に漂う香の薄い香りのミストのような印象を受けた。

調香を見ると、ジャスミン、カルダモン、ブラックペッパー、エレミ、コリアンダークローブカーネーション、ラブダナム、オポポナックス、ローズウッド、アンバー、オークモス、トンカビーンとなっている。

確かに、澄んだトップの水蒸気のような点在感はカルダモンやクローブのクラシカルなハーブの調香が由来だった。その中央に感じていたフランキンセンスの香りは、調べてみるとどうやらエレミとオポポナックスの香りだそうだった。

がっつりとした樹脂ではないからだろうか、樹脂の香りの密度の高い重さよりライトで柔らかい印象を受ける。しかし、ハーブの香りと合わせて、そのスッと鼻を通り抜ける香りの筋が張ったやや酸味のある清浄な香りからは、やはりキリスト教におけるフランキンセンスやミルラのイメージを受け取れる。

時間が経つにつれて、ベースのオークモスとウッドが地平を広げて行き、煙もそこへと広がってゆくので幾分かは薄まってゆく。香りの調子はラストまでこのようなテンションで展開されてゆくのだが、スモーキーさは最後までトップの状態以上にはならない。私の肌では不思議とラストの方がエレミがモスとウッドに乗った調子ではっきりと香った。やはりオークモスから感じる石のようなある種の冷たさが心地良い。ジャスミンやトンカビーンといった特徴的な香りは良い意味で最後まで目立たなかった(残り香が時折若干甘いと感じる程度)。

このような香りの分類はスパイシーウッドなのだろうか、オリエンタルなのだろうか。終始雑味のない、金属の振り香炉から噴きこぼれる聖なる香煙を思わせる。それに包まれた時の、心身が清められてゆくような、何とも言えない厳かで静かで、それでいて視界が新しく開いてゆくような祈りと儀式の体験を、煙に乗せて遠い異国の私にも情緒として味わせてくれた。

煙といっても、最後まで火を連想させる気配は感じられなかった。トップで湧きたったやさしい軽さの煙だけがしっとりと揺らめきながら消えてゆく。

 

 

 

 

オークモスがベースの、大変私好みの静謐系の香りだった。

その時間が止まったような静寂が心地よく、周囲の布製品にもLAVSを吹きかけてみた。

こうしてLAVSの香りに包まれていたら、ふと、どこかの映画で見た昔のヨーロッパの家族の祈りのシーンを真似てみたくなった。

電気を消して、ろうそくだけを灯してみた。

 

この夜は雪のおかげで全くといって良いほど外の音が聞こえてこなかった。隣の大学生も今日は家にいないようだった。

 ろうそくの小さな火が微かに低い音を立てているのが分かる。

 

漆黒の中には私たちの目には見えないだけの様々な何かが無限に内包されているのだと、どこかで教わった記憶を思い出した。

LAVSのモノクロの静けさが入り込んだ小さな自室は、本当に雪に閉ざされた、周囲の世界とは隔絶された空間のように思えた。

 

 

unum

79.ペンハリガンについて考える②(ザ ルースレス カウンテス ドロシア)

香水を人に勧めることが多くなったが、 男性からモテる香水を聞かれるとまだ正直困ってしまう。

香りは香りで、人は人だと切り離して考えたい私は、香水を付けること自体の美学や人への効果みたいなものにはてんで疎い。

しかし、だいたいの人々は当たり前だが付ける香水を探している。

 

 

 そんな時、特によく考えずにお勧めしてしまってもだいたい評判が良いのはペンハリガンだ。

何故だろう。

「癖がない」という答えはすでにあるのだが、もう一つ自分の中で視点を持ちたい。

 

 

以前もペンハリガンの色気について考えたことがあった。

63.ペンハリガンについて考える①(オーパス1870) - 日々の糧—香り日記—

 

 この段階では、なぜペンハリガンが色っぽいのかには答えを出せずじまいだった。

しかしやはり考えるならその部分なのだと思う。

 

また答えには到底行きつけなさそうだが、色々と考えて行きたい。

今回はそのポートレートコレクションを中心にしてみようと思う。

 

 

ポートレートコレクションはその名の通り、架空の貴族とその関係者の肖像がテーマになっている。

以前の記事でペンハリガンのいくつかを社会へ臨むための香水と表現したが、このコレクションのテーマはある貴族一家の肖像とその狭い社交内での人間模様といった、外から内情を垣間見るようなスキャンダラスな話が扱われているといった対照的な点がある。

 

今回はその中で「冷酷無情なドロシア伯爵夫人」について所感を残してみたい。

 

 

ザ ルースレス カウンテス ドロシア

(THE RUTHLESS COUNTESS DOROTHEA )

ベルガモット、レッドジンジャーオイル、シェリー、シナモン、蜜蝋、セージ、マテ、カシュメラン、バニラなどの調香。

トップはジンジャーオイルとシナモンなどのスパイスがベルガモットのフレッシュさと相まってジンジャーエールのようなはじけ方をする。しかし軽いというわけではなく、その下には蜜蝋、バニラなどの甘くこっくりとしたグルマン調の大きな層が流れており、その中に含まれるマテの熟成されたようなコクのある暗い色の茶葉めいた香りが優雅な動線を作っている。

老女家主をイメージしたこの香りは、トップ以降のシナモンやカシュメランが時折グルマンと混ざり合いクッキーを連想させる他にも、どこかアンティークのような乾いた調子を醸し出しているのだが、そこにシェリーの香りが甘く広がってゆくために、ある種の現代的な解放感とデカダンを感じさせる。

ミドルに差し掛かったあたりから、トップの華やかな広がりの水気が何となく雰囲気から浮くようで気になり始めた。蜜蝋の存在感が強くなったように感じたからかもしれない。その蜜蝋は上品な赤いルージュのように滑らかに引かれている印象で、トップの香りとの対比で明快なグルマンで終わらせない含み笑いのような陰影を感じさせる。遠くに見つけた白い花のような香りは何が由来なのだろう。それもまた、家主と同じ含み笑いを浮かべているようだった。(もしかしたら清らかな花ではないかもしれない。)

トップが一気にこちらに歩み寄る様な広がりと肌への定着を考えると、ここのある種の断絶感は興味深く思えた。

ラストはカシュメランの温かさで硬質なウッドを底に感じることが出来る。そのベースはトップからすでに存在感は奥のほうに感じられているのだが、色でいうと屋外の光のみが差し込む部屋の影の部分のような暗さを持っている。そこに目を向けてしまうと、トップからの楽しい時間は影を潜め、カーテンが閉められるように積年の深みのような奥行が芳醇なグルマンを眠りに就かせて行く。

全体的に丸みのある落ち着ける類の香り。

 

 

このドロシアのように、ポートレートコレクションは基本はクラシカルな調香だと感じるが、その中に含まれた酒の香りにより、香りの質感が緩み、芳醇な広がりを見せていた。

それは香り全体の印象をぐっと現代的にしているし、銘の持つ物語性へ構成のドラマチックさを忠実に引きつけさせているものが多い。「ブランシュ夫人の復讐」なども終盤にむかうにつれ、トップのスイセンなどの禁欲的な様とは全く違った変化を見せた。

そのように、ある程度香りがそれ自身で完結しているのだ。

 

 それと比較すると、従来のペンハリガンの香りはそもそも、その香り自体を纏うというよりは、己の美学に引き付けて纏う、いわば仕上げの香水に適しているブランドだということが良く分かってくる。

タヌさんのブログLa Parfumerie Tanuでも、ペンハリガンの正規の価格帯と品質、あり方について言及されていたが、やはりそこからもペンハリガンは本来それ自体が高級な嗜好品・芸術品を目指す立ち位置にいない、トータルグルーミングの一環と分かる。

 擬人化ならぬ擬香化されたそのラグジュアリーで快楽主義的な香りを、階級も日々の役割も違う私たちが敢えてペンハリガンの香水として身に付けるということは、仮面をつけるような楽しさもあり、欧州の階級社会ならではの皮肉とも読めるかもしれない。

 

何にせよ、ペンハリガンは香水の使い方について考える良いきっかけになるだろう。

どんな香水でもそうだろうが、殊にペンハリガンの癖のない調香は、私たちの生活の中の香りと容易に溶け込む。

私たちは常に様々な香りに取り巻かれている。毎日のシャンプー、シェービングフォーム、整髪剤、ボディークリーム、洗剤、着ている服の布地の香りから、極端にいえば先ほど食べた食事まで。それらが香水の香りでグルーミングされて一つの香りへと再構成された時、初めてペンハリガンの香りが完成する。

その香りそのものには隙があるということなのかもしれない。その部分に私たちが入り込み、互いを埋め合う形で結合してゆく。

ペンハリガンの官能性はそこなのではないか。

 

 

今の時代、珍しい香りを探して付ける事は容易だ。

しかし自らが日々堆積させてきた生活を香りとして纏うのはどうだろう。

私は男の装いの美学については分からない。

しかし、己の日々の営み、生きざまへの覚悟のある男性は魅力的なのだとは言える。

 

という一応のまとめをして今回は終わりたい。

前回からの「ペンハリガンの色気」に関してはまたも明確な答えを出せずじまいだったが、今後は少しだけ自信を持ってお勧めできるかもしれない。

 

 

 

www.penhaligons.jp

78.Zoologist Perfumes①(キャメル/エレファント)

2018年が始まった。

 2017年は個人的にはウンハイムリッヒとの出会いによってしっかりと終わりを迎えられた気分なので、今年は初心に帰ってさらに香水の探検を進めて行こうと思っている。

 

香り始めは、年始早々に取り寄せたいくつかのブランドのうちのZoologist Perfumesで始めた。

 

 Zoologistは香港出身のVictor Wongが創始者のカナダのブランドだ。

残念ながら日本には未上陸だが、日本人では稲葉氏(彼のポータルサイトは日頃から愛読している)が調香で参加している他、ビジュアル面での他にない熱量などが最近の新鋭ブランドの中でも一際目を引く存在だった。

ブランド名の通り、それぞれ動物がテーマになった銘が揃っている。

 しかし「動物学者」であるので、動物=香りは私たちの研究の対象としてあくまでフラットに扱われている。

 

今回は悩みに悩んで

エレファント、キャメル、ドラゴンフライ、ナイチンゲール、パンダ、シベット

を取り寄せた。

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パンダの文字が切れてしまった… 

 

 

この記事ではどれの所感から始めようかとここでも悩みに悩んで、新作のエレファントとキャメルから書き始めることにした。

 

 

エレファント(ELEPHANT

→トップはトゥリーリーフ、ダージリンティー、マグノリア

ミドルはココア、ココナッツ、ミルク、インセンス、ジャスミン、ウッディーアコード

ベースはアンバー、ムスク、パチュリ、サンダルウッド となっている。

トップから深いグリーンが全面に香るのだが、それを奥まで吸い込むと、マグノリアジャスミンのややパウダリーで濃厚な花の香りや茶葉のコクのある香りがウッドの乾燥した香りに包まれながら内に凝縮するように瑞々しく香るのを感じた。ユニークなグリーンだと思う。中間にやや重めに不透明なミルキーさのある香りが配置されている構成で、トップのやや渋みを伴うグリーンは出だしから徐々に華やかな広がりへと変化するのだが、やはりココアの鼻の中腹で留まるようなふくよかなパウダリーさとココナッツの繊維感のある乳白色の香りがグリーンをスパークしたままでは終わらせず、まったりとした流れで明るく温かい色を差してゆく。

ミドルはトップの木の葉が生い茂るグリーンから考えればずいぶん日向のような香りへと変化している。ココアのなのかココナッツなのか、やや毛羽立った質感の仄かな気配は感じるが、他の甘さが控えめでミルキーな香りが沈着な調子で流れる中、その上に香り立つのはジャスミンの芳香なのだろうか。花と果実の丁度中間くらいの体温を感じる甘酸っぱさのある香りは、木々の開けた場所で感じる日光の温かさとそれを浴びる南国の木の実をイメージできた。ただしここはあくまで森の中なのだ。トップからのウッドのちりちりとした粒子感の香りは常に周囲に配置され、ラストまで続く。

ラストはココナッツや花の香りは遠のくものの、パチュリの影響か、トップのグリーンの渋みが再び現れる。ミルクの部分を引き継いだサンダルウッドのまろやかさとグリーンの相まったリラックスのできる香りは、やはり日本人の考える森的な爽快感というよりは、さらに深い森の湿潤感に近い。

全体的に興味深かったのは、主な香りのグリーンが割と下の方に感じられた所だった。像の視点という事だろうか。HPでは木々をなぎ倒して進む像について書かれているが、そう考えるとラストにさしかかる頃には自分が像になったような気分さえしてくる。自分がなぎ倒した木々の新鮮な香りや身体に纏わりついた葉の濃い香り。にも関わらず不思議と攻撃的でない。スケールの大きな像だからこその不思議な穏やかさなのかもしれない。

 

 

 

キャメル(CAMEL)

→トップはドライフルーツ、フランキンセンス、プラム、デーツ、ローズとオリエンタルなフルーティーさが広がる。しかし重すぎずドライフルーツやデーツの煮詰めたような茶褐色のこくのある甘みをローズとフランキンセンスの鼻に抜けるような香りが奥の方に空間を作り出しているようなイメージがある。そのローズもオリエンタルな石鹸的なローズであり、ドライフルーツのとろけるような甘さの外縁を流れている。

ミドルはアンバー、セダー、シナモン、インセンス、ジャスミン、ミルラ、オレンジブロッサム。私の肌だとミドルへの移行が早かった。このままどんどん甘くなってゆくのかと思ったが、急に重力(スピードだろうか)が変わりセダーやインセンスの甘みのないスモーキーさが前面に現れた。それは軽やかで穏やかな動きで香りを囲い始めているのが分かる。それまでのフルーツなどのとろけるような甘い部分は徐々に控え目な様子で混ざり合い、煙のベールの奥へとしまわれる。時折、そのインセンスのベールを揺らすように瑞々しい花の香りが一瞬通りすぎるが、それはこの距離ではジャスミンともオレンジブロッサムとも判断がつかない。ローズの蝋のような滑らかさはかろうじて分かるのだが、長い夜の間にいたずらに思い描く空想の花を思わせる。

ここでベールと表現したミドルの香りは、遠くの花やフルーツへ思いを馳せているうちに徐々にラクダの毛皮の様に思えて来た。シベットやムスク由来なのだろうか。それは砂漠の砂で乾燥した、粒子感を乗せてややごわついているが撫でれば手の動きに合わせてしっとりと落ち着くような毛並みを感じさせる。気付くとその毛皮に直に触れたくなって香りを乗せた手首に鼻を付けて吸い込んでいた。(実際にラクダに触ったことがないので何とも言えないが…)

 ラストは意外にも穏やかで控えめだった。ムスクとトンカが優しく肌に染み入り、バニラに乗ってトップからのドライフルーツの甘い香りが再び仄かに顔を出した。

オリエンタルというと、とにかく中東的なインセンスやベンゾイン、ミルラが渦巻く濃厚で不透明な様という先入観があったが、このオリエンタルは王道のオリエンタルの様相ながらトップから最後までどこかに突き抜けた風穴があるように風通しが良く、全体から想起できる茶褐色は固形物然としたまとまりはあるものの宝石の様に透き通っている。それは夜の砂漠を流れる風のようでもあり、ボトルのラクダの悠然とした表情と眼差しとも何とも重なるのだった。

全体的に砂漠のテントで過ごす夜のようなイメージ。何かの香りが変に突出しているわけでもなく、とてもまとまっている印象を受けた。久々にオリエンタルで多幸感を味わえた。

 

 

 

 

Zoologistは総じて鼻当りはFUEGUIA1833と似ているように感じた(アンバーや合成香料の割合が似ているのだろうか)。そのFUEGUIAにしばしば見られる女性的な曲線をシャープに男性寄りにしたような感覚も覚えた。甘い香りも鼻当りは良いがそこまでエモーショナルな広がりがある訳ではなく、モダンなシャープさがある。

 調べると、創始者は香水マニアかつコレクターらしい。

確かに、Zoologistの香水はどれも個性的だが、先行している各ジャンルの香水からの引用がしっかりなされている印象を受けた。それが懐古的な気分にさせる時もあるのだが、その王道のノートを踏まえた香りは初心者も一通り香水を楽しんだ者も明確に香りの探究が出来るようになっていると感じた。

残りの香水も追って所感を残して行ければと思う。

 

 

 新年早々個性的で楽しい香水に出会えたのは嬉しい限りだった。

 

今年はこの他にもどんな香水に出会ってゆけるのだろうか。

Zoologistperfumesのおかげで今から探究心が止まらない。 

 

 

 

www.zoologistperfumes.com