日々の糧—香り日記—

日々出会った香水について記してゆく日記。

60.オイルとの相性(ネデ ローズ )

パリに今までの香水の書簡を書き留めた手帳を忘れてしまったことに気がついて、しばらく落ち込んでいた。

このブログに上げていなかった数々の香水の記憶は、その香りのように私の記憶から薄れて行くのだと思うと悲しくてならない。

しかしそれもまたふさわしい最後なのかもしれない。

 

 

 

ところで、ヘアオイルにディプティックのオイル サテンを使っている。

ジャスミンやイランイラン、サンダルウッドなどがパウダリーかつ甘さ控えめに香るのでとても気に入っている。

 

そして、常々そのオイルサテンに合う香水を買いたいと考えていた。

 

 

オイルと言えど、時間が経つにつれて下に降るようにしっかりと香るオイルサテンは同じく主張しすぎる香水と混ぜるのは些か重く胸焼けがする。

(そのため手持ちのフェギアは残念ながらことごとく合わなかった)

夏はただでさえ爽やかに香りと触れ合いたいので、鼻への驚きよりも日常さりげなくシンプルに同居出来るものが良い。

予想としては、筋が通った清潔感のあるローズか、オーガニックなゼラニウム、クラシカルで瑞々しい柑橘系

辺りがいいのでは、と考えていた。

 

そこで、パリの練り香水ブランドのサベ マソンを購入する事にした。

サベマソンはパリで少しだけ試香してきたのだが、手頃な値段なのにどれもグラースの香料を使った優しい香りが付けやすく心地よい。

今回はその中のネデローズに決めた。

 

 

ネ デ ローズ(Né des Roses)

→トップから石鹸のように締まった香りのローズが立ち上る。その筋の周りを囲むように他の花々の蜜めいたまろやかさが香るのだが、あくまで主役はローズであり、フランシスクルジャンのローズの様なとろける様な華やかさというよりは粒子感がシャープな清潔感のあるローズが続く。ピオニーやフリージアすずらんなども含まれてはいるが、ベースにひんやりとしたウッド系の香りが香っているからか、色鮮やか、というよりはそのパッケージデザインのようなクールさのある淡い色に統一されている。

もしかしたらトップはローズのツンとする様な香りが強いと感じる人もいるかもしれない。しかしそのつややかで筋のある香りは叙々に周りを取り巻くマイルドな蜜と混ざり合い、ふわりと広がる優しい質感に変化して行く。

私が気に入っているのは、ラストが強くなりすぎない所だった。香水のローズは、私の肌だとラストにムスクやウッドが強く感じたりするものが多かった。その点、この香りは最後までローズの存在感が失われずに、ラスト以降はいつの間にか香りが過ぎ去っている。

パウダリーになりすぎず、かといって煮詰まったような重いラストになる訳でもない、練り香水特有のやや肌から浮いたような柔らかく軽い調子はどんなシーンでも心地よく纏える。

 

予想どおり、ネデローズは相性がよかった。うまく混ざらない距離で香り、お互いがお互いの香りに干渉せずに各々マイペースに香った。

 

 

その次に考えたのはオリザのレリーク ダ アムールだった。

最近青山のエルムタージュで破格の値段で旧デザインを購入できたのだが、思い返せばレリーク ダ アムールは私がモスの静謐な香りの魅力に目覚めたきっかけの香水だったので、手に入れられたのは感慨深い。

所感は以下。

 

レリーク ダ アムール(RELIQUE D’AMOUR)

→ 愛の聖遺物という意のごとく、静かな湿度を纏った香りが漂う。

トップからベースにあるモスが終始空間的な清涼感を持たせているのだが、他の静謐なモス系香水(アンジェラチャンパーニャのアーエルなど)と比べて、トップから水気のあるハーブがはっきりと香るため、完全な禁欲というより女性的な丸みを帯びたウエットさを感じる。

調香を見ると、聖堂や修道院に所縁のある香りばかりで構成されているという他に、インセンスやミルラなどの下手すると重くなるパウダリーノートがハート部分に配置されていることが分かる。

この香りがクラシカルなのに深く複雑になりすぎないのは、ベースが強固ではっきりとした透明感が広がってゆくように演出されているからだろうと思う。 

静謐ながらも、説明で書いてある通り、礼拝堂で祈りを捧げている時に研ぎ澄まされた五感で感じる、神に捧げる百合の花の香りだったり、育てている薬草の滋味深い香り、古い礼拝堂の空気や石畳の冷たい触感、差し込む外の光だったりと、神聖さの奥に進みながらも生きている人間の知覚を忘れさせない香りだと思った。

もはやこれはユニセックスと判断する必要もない。ただ、前に店員さんから男性に人気の香りらしいと聞いた。

 

 

 

 

これはオイルサテンには若干合わなかった。

予想以上に香り同士が混ざり合ってしまい、特にお互いのハート部分のパウダリーさがうまく結合して重みのあるクラシカルさが増してしまったように思う。

それもまた面白い香りではあったが、賑やかで鼻が疲れてしまった。

 

 

 

 

 

といった風に組み合わせを研究している中で、やはり今の所はネデローズが一番良い。

 

正直同じディプティックで合わせるのが一番なのはだいたい予想は付いているのだ。

しかし、ひねくれ者の私はどうしても冒険がしたくなってしまうのだった。

 

 

 

 

 

jp.sabemasson.com

 

isetan.mistore.jp

 

 

59.夏が来る(マーレパフィシコ)

少し前に丸の内に行った。

平日の午後であるのに東京は人がたくさんいる。

この日は日本に帰ってから初めて良い香水を求めて出歩いた日だった。

 

丸ビルのコンランショップに行くと、リナーリのコーナーが拡大されていた。

幸運にも、その日まで全種ディスプレイしている予定らしかった。

リナーリはドイツのブランドで、設立者は建築やインテリアデザインの出身だからか、ボトルデザインは硬質かつ安定感があり、インテリアとしても美しい。

 マーク・バクストンを調香師の1人に迎えているところから気になっていたブランドだった。

今回はマーレパシフィコの所感を残したい。

 

 

マーレ パシフィコ(MARE PACIFICO)

 →海の誘惑という副題が付いている。マリンのカテゴリに入れられているが、トップはレモンの瑞々しく爽やかな香りが広がる。バーチリーフやサイプレスのグリーンの香りが背後で支えているように香るため、弾ける香りではなく当たりは穏やか。

私の肌では、マリンらしいミネラル感のある甘みがミドル以降の、終盤に近い時期にじわじわと香り出してきて初めてマリン系なのだと知った。

マリンと言っても、よく見られるバニラは含まれていない。ハートノートの清涼感のあるローズやベースノートにモスが置かれているためか、香りは終始澄んだ静けさがある。 甘さらしい香りは先述の清涼な香りが包み込む水の様な香りの一群とは少し違う位置にあるように香るマリンノートしか感じられなかった。

 イタリアや南仏のマリンと比べると、明らかにアプローチが違って面白い。海水浴場で感じる海岸や日光の臨場感は遠くにあり、窓を開けて浴びる潮風や、澄んだ海水に足を浸した時の冷たさや飛沫の爽やかさを感じた。気付いたら海にいた、様な心境だ。名前の通りの海への誘惑を彷彿とさせる。

 

 

リナーリの香り全般に言えると思うのだが、香りに終始大きな安定感があった。ベースノートは重くはないが硬質で、それを土台にしてお互いが支え合うように整然と香りが織り込まれている印象がある。

背景に建築があるからというのは浅い発想だが、確かに理知的で建築的な香りだと感じた。

 

 

 

 

もう外は夏の様な気温だったりする。

マリンは個人的には甘さがつよくなってしまうためあまり好まないのだが、そのバリエーションについて考えるのは予想以上に面白そうという発見があったのは大きな収穫だった。

 

去年の夏は確かグリーンばかりを追っていた。

今年の夏はマリンだけを聞き歩きしてみたい。

 

 

LINARI | リナーリ ジャパン

58.Memoに会う(Moon Fever 他)

パリではもう1つ印象深い出会いがあった。

ギャラリーラファイエットにて、まだ日本には上陸していないが、本で見知っていたMemoにも会うことが出来た。

噂通り、金のボトルを飾るアール・デコ調のデザインが目を引く。

 

 その中で印象的だったものが、

INLE IRIS、KEDU、MOON FEVER

の3種類だった。

 

 

ケドゥ(KEDU)

→核となる香りがグレープフルーツオイル、セサミアブソリュートホワイトムスクという面白い調香。それを知ると何やらボトルのデザインもゴマを彷彿とさせるような…と感じてしまう。

トップは甘さの控えめなグレープフルーツが強い。その他に、何やら奥にトンカビーンやコーヒー豆に似た、それよりも甘さを抜いたやや苦味が強い香りがする。多分これがセサミアブソリュートの香りなのだろう。それにマテ茶の茶葉のコクが合わさり、香ばしいコーヒーのような芳香として感じたのだと思う。

私の肌ではこのグレープフルーツとセサミの苦味の爽やかな香りが目立ったのだが、フリージアやローズ、ピオニーアコードも含まれているらしい。苦味と香ばしさがありながら角が少ないまろやかさが心地良かった。

 

 

 

 

インリー イリス(INLE IRIS)

→トップから穏やかで安定感のある甘い花の香りが広がる。ジャスミンオスマンサス、イリスといった各々個性的な香りの花が集まっているよう。他にはベルガモット、アルテミシア、ミントなどが含まれている。

核である香りが各々癖のある花だが、イリスは主張せずあくまで縁の下の力として、その滑らかで沈着な香りはラストまで香りの立体感を支えている。また、これにもマテアブソリュートが使われている。ケドゥの時もそうだったがマテがコクを担い、ミドルからは濃い酒の様に滑らかでとろみのある香りになっている。私の肌ではラストまでジャスミンが主体に香っていた。

香りの立ち方のバランスが良く、本来ならば結構な甘さであるはずなのだが上品に纏えるのも流石Memoだと感じた。

 

 

 

 

ムーン フィーバー(MOON FEVER)

→トップはシダーウッドを下敷きにビターオレンジとグレープフルーツが香る。よくあるフレッシュな柑橘系ではなく、最初からウッドとグリーンの乾燥した香りが走っているため甘さやたるみがない。

しかし、ミドルからみるみる香りが変わり、レザーの深みが現れる。それと同時にネロリを思わせる香りとシダーのパウダリーさが相俟って甘い質感になった。不思議なのはこの「甘さ」という点で、実際に甘い訳ではなく、匂いとしてはトンカビーンが香るものの甘さは控えめなのだ。しかしトップの筋張った香りからすると、質感がレザーの肌触りのようにとろけるようになる。そこに絶妙な甘さを感じた。

ラスト以降はベチバーとレザーのドライな香りが残った。

名前にMoonが入っている、いわゆる夜を題材にした欧米の香りの中では面白いと感じる。

ホームページの紹介文に「夜空では感覚が鋭くなる」と書かれている。(訳が違ったら残念だが…)

その通りで、ムーン フィーバーから想像出来る夜は孤独で自由で瞑想的だと思った。

男女共に違和感なく纏える。

 

 

 

 

 その他の銘柄も試してみたところ、

Memoはベースにレザーを使うものが多く、しっとりとした高級感のあるものが多かった。

そして何より、MOON FEVERで言った通り甘さの距離が絶妙なものが多い。

旅や神秘的な自然をモチーフにしたものが多い通り、上品でありながら、都会の街並みや豪奢な人の営みとは少し離れた場所を思わせた。

日本上陸が待たれる。

 

 

 

他にもパリでは様々な香水との出会いがあったが、このブログではこのくらいにしておこうと思う。

 

 

日本に帰ってきてまず感じたのは、パリと比べて空気が甘く角が丸いという感覚だった。

 

その空気の中でこれからはどんな出会いがあるのだろうか。

 

 

 

Memo Paris - Luxury fragrance

 

57.パリの夢(Rosa Nigra 他)

前回の記事で言っていたように、パリへ観光に行った。

 

空港から外に出ると、パリ空気は日本の空気よりも幾分かシャープで、水気が少ないように感じた。朝は日本より少し寒かったが、陽光は暖かい。

雨に降られた日は1日目だけで、あとは夏のような日差しの晴天が続いた。

 

おかげで観光らしい観光も出来、無事に友人とその彼女にディプティックのキャンドルも渡せた。

 

パリの街中の香りについてはわかっている人はわかっているだろうから書かないでおこう。

しかし、早朝のどこまでも見通せるようなきりりとした空気や、墓地の前でふとした瞬間に香った干し草の甘い香り、公園で感じたリラの甘い香り、ブーランジェリーから香る香ばしい香りはかけがえのないものだった。

 

 

さて、香水巡りも充実した発見があった。

この日は香水のセレクトショプのnoseを訪れた。

マレ地区からオペラ地区に行く途中だったか、散々迷った挙句にたどり着いたnoseは驚くほど見たことのないニッチフレグランスにあふれていた。

(写真を撮り損ねたのは痛恨のミスだった)

 

その中で

UNUM、STORA SUKUGGAN、FOLIE À PLUSIEURS

の3ブランドが印象的だった。

 

まずFOLIE À PLUSIEURSだが、調香師にコムデギャルソンなどを手がけたマーク・バクストンを迎えている。私は彼の作るウッド系の香りが好きなのだが、このブランドでもメンズライクな香りのドライさは、女性が踏み込めない禁欲的な渋さがあって格好良かった。

そのなかで、一際ユニークだったのが The lobsterだった。

 

 

The lobster

→この香水は同名の映画からインスパイアされた香りなのだが、まず最初に酸味を強く感じ、その意外性にこれは一体何の香りなのだろうと戸惑った。

調べてみると、ウッドとアニマリックという一見相反する香りのカテゴリだった。トップはグリーンとリリーオブザバレー、ハートはサイプレスとシダーなど、そしてベースにアニマリックとアルニカ、ミルラ、フェヌグリークと、ベースに癖のある香りが詰め込まれている。進めば進むほど、森の奥部に突き進んでいるようなイメージを受ける。

多分、私が最初に感じた酸味はアルニカだろうか。確かこの「ロブスター」という映画は、独身者は動物に変えられてしまうという世界で、それから逃れる為に独身者が暮らす森へ逃げ込み、そこで恋に落ちる。という話だったはずだ。

この香りもまた、トップとハートとベースが行儀よく綺麗に分かれているわけではなく、森のようにグリーンとウッドとアニマリックが共存している。それらが混ざり合った自然界は人間にとっては一種の深いカオスだ。香りたちが互いに近くを取り巻き強く結びついてカオスを生んでいる印象を受けた。

だからこそ、またその混沌を垣間見たくて試香してしまう。

 

 

 

 

続いてUNUMのRosa Nigra。

このUNUMはとにかくボトルデザインが美しい。

下にURLを貼った公式HPはぜひ見てもらいたい。

陶器のようなガラスに、木や金属を彷彿とさせるボリュームのあるキャップ。日本ではおよそ見られないデザインに感動した。

英語は得意ではないのでディレクターの哲学に目を通しても理解出来ていないのだが、コンセプチュアルでとてもエッジの効いた勢いのある香水ブランドだと舌を巻く。

美術史や理論を学んでいれば、更に深くこのブランドについて考察できるのだろうが、今回は私なりに所感をまとめたい。

 

 

Rosa Nigra

→一見華やかなローズの纏易い香りなのだが、それがミドル以降にはっきりと分かってくるのが面白い。トップはローズというよりはやや甘さのあるみずみずしいフルーツ系の香りとスモーキーですらあるグリーン(パチュリだろうか)が全体を覆い隠している。トップのヴェール越しにミドルとベースの香りが一緒になって感じるためその後の変化の予測が出来ない。

時が経つにつれて、ローズの輪郭が見えてくる。ローズはトップの甘く透明感のある香りからは全く想像出来ない、引き締まった華やかな香りで最初からそこに一輪咲いているような崇高さを以って香った。ラストはさらにローズが定着した。バニラが入っているらしいが、私の肌ではあまり残らず、ムスクとミドルの花々の香りがローズをなおも立体的に香らせてくれた。

Rosa Nigra はそのボトルのデザインのように、既存のローズ香水の香り方とは変化の順番が逆のように思えた。

映画・建築と香水の親和性はいわずもがなだが、このUNUMは彫刻的な香水だと感じた。まずトップでテクスチャが提示され、その後は彫刻家が彫塑し作品を作り出してゆくように、香りは彫刻されるように時を経るごとにその姿を変えて私たちの前に現れる。

 

それがこの香水のコンセプトと合っているかは分からないが、他の香りもボトルデザインのように、どこか宙に浮いているような神秘さがある。

 

 

 

 

そしてSTORA SUKUGGAN。このブランドはつい最近noseに置かれたスウェーデンのブランドらしい。

これもボトルデザインがとても美しいのでHPを見てもらいたい。

そしてわたしはこのブランドのFantome Maulesにすっかり魅了されてしまった。

もう一つの銘柄のSilphiumもオーガニックなゼラニウムの香りでとてもいい香りだ。日常で纏うならこのSilphiumだろう。

今回はFantome Maulesの所感を残す事にする。

 

Fantome Maules

→まず、調香ピラミッドをみると、

トップがベルガモット、レモン、ガルバナム。ハートがカルダモン、コリアンダー、ラベンダー、カシュメールウッド、ブラックペッパー。ベースがアンバー、シダー、オークモス、サンダルウッド、トンカビーン、ベチバー、ラブダナム

となっている。トップはベルガモットとレモンと相まってプチグレンのようなフレッシュさを以って香り、徐々にガルバナムやウッド系の香りが台頭し周囲の緑の濃さが深まる。ラストはまろやかでおとなしいサンダルウッドに落ち着くのだが、濃さのきつい香りではなく、そこにはオークモスの湿気を含んだ静けさとトップのグリーンの気配がほのかに感じられる。

先述した調香をみる限り甘さの抑えられたクールなウッドの調香であるはずなのだが、香りの奥に香り全体を包み込むさらに深く優しいグリーンが存在しているように感じるのがとても魅力的に思えた。ミドル以降のウッドの香りは予想以上に柔らかく包みこむような香りに変化してゆく。それはまるで森の中で見つけた大樹に寄り添って休む木陰だったり草むらを駆けて遊んだ後に休む家の暖炉だったり、遊び疲れた子供を迎える母のような静かな安らぎを思わせる。それはラベンダーとオークモスのベーシックな組み合わせによるものかもしれないが、それは決して単に古風だからではない。他の配合がとてもクールでモダンだからこそ、その異色の気配が私を惹き付けて止まないのかもしれない。

 

 

 

自分の腕から香っていたFantome Maulesはその日から私の心を掴んで離さなかったが、きっとこのパリの空気の中だからなのだろうということも分かっていた。

これに限らず、何だかThe LobsterもRosa Nigraも日本に連れて帰ろうと手に取った途端に美しい夢から覚めてしまう気がして、何も購入せずに店を出た。

  

パリはいたるところにベンチがあるから良い。

思い切り試香をして平衡感覚がおぼろげになったので、しばらくベンチで休んでいた。

周囲にはいつもアジア系の観光客や白人、アフリカ系にアラブ系、さらに路上生活者。めまぐるしく様々な人がいる。さらに荘厳な建物の数々はしきりに知らない小道に誘い込んだ。

だから私は滞在中しきりにベンチで休んでいたように思う。

 

この6時になっても陽がさんさんと照っている本当に夢のような街は、一つの香水のようでもあるようだった。

 

 

www.folie.space

 

 

UNUM

 

 

www.storaskuggan.com

 

 

56.ギンザシックスと誰かの香り (TOKYO 他)

またも久々の更新となってしまった。

最近は完全フリーでイラストを描いたり転職活動をしたり、

ついに念願のパリ香水旅行を実行に移せる時がきたのでその計画をしていたりする。

 

さて、20日はギンザシックスがオープンという事で銀座を訪れた。

 

時間もあったのもあるが、前回書いたパリに住む友人にプレゼントを選ぶためもあった。

友人はなんとパリで日本人の彼女が出来たそうだ。

部屋に閉じ籠りがちだった彼の前進が嬉しいやら、前のように連絡しにくくなって正直寂しいやらで複雑な気分なのだが、恋人達をこよなく愛する私は5月にパリに旅行する際に彼らに特別なプレゼントをしたいと考えていた。

 

 そこに、ギンザシックスのディプティックで銀座店限定のキャンドル「TOKYO」が限定発売されると聞いた。パリと東京の融合。彼らへの土産としては文句ないのではなかろうか。

そうして訪れたギンザシックスは、平日に関わらず混雑していた。

しかし、店内は新装特有の変な香りはせず、適度に良い香りがする。きっと様々な香水があるはず。

ディプティックは後回しにしてとりあえず香水の販売状況を見て歩いた。

今回は、

ジョーマローン、ディプティック、サードマン、ミヤ シンマ、ヨウジヤマモト、オリザ ルイ ルグラン、マドエレン(香水は扱っていなかった)

に出会った。

新鮮なものといえばサードマンとミヤ シンマ。オリザ ルイ ルグランは旧デザインなので、伊勢丹で販売している新デザインより幾分か安く購入できてお得そうだった。また、オリザは石鹸の取り扱いが他では見られないほど多かった。オリザもこれから注目されてゆくのだろうか。

 

サードマンは、香水をあまり付けない人や初めて香水を付ける人のためのシンプルなフレグランスというコンセプトらしかった。

香りはアンバー、ベチバー、シトラスなメンズ寄りのドライな香りを中心に揃っていたが、確かに、それらの香りはアンバーだったらアンバー系香水のベチバーだったらベチバー系香水の現代の流行の平均に位置しているような佇まいで主張をしない。

しかしクールでフラットで、誰にでも馴染むに違いない。(こういうのをノームコアと言うのだろうか)

香水ライトユーザー以外でもオフィスで使用するには申し分無い香りだった。

 

 

 ミヤシンマは雑貨屋の片隅に売られていた。

今回は風が気になったので記録に残しておきたい。

 

 

風(KAZE)

→トップは酸味よりも甘みの勝る柑橘系の香り。ミドル以降に強まる爽やかな花の香りと柑橘のみずみずしい香りが相まって、風は日本のちょうどいまの季節の風のように甘く水気を含んでいる。(フェギアのソンダと聞き比べると、その違いに風にもいろいろあるのだと改めて感じられて面白い)

時間が経つに従い、癖のない甘みとを帯びた明るい花の香りが混ざり始める。フリージアとすずらんなどだそうだ。ミドル以降の香りは風がふと通り過ぎてゆくような加速が心地よい。トップの水気は近づいてくる花々とウッドの香りと共に水蒸気のように四散し、だんだんと香りが一つに纏まってゆく。私はミヤ シンマのラストに使われているムスクの香りの透明感がとても気にいっているのだが、この「風」も、ラストは濁り気の無いシダーウッドの香りと共にムスクが残る。

 癖の無い香りで、春夏にはぴったりだろう。服のように纏ってもいいが、休日の朝の部屋にこの香りをプッシュしたらよい1日を迎えられそう。

 

 

ミヤシンマとの出会いのあと、ディプティックへ向かった。

その時点でお目当てのキャンドルはほぼ売れてしまっていたが、運良く購入できた。

店頭で試香した所感は以下。

 

 

TOKYO

→香りを聞かせてもらうと、ヒノキの香りが主体であるものの、ミヤシンマ的な澄んだみずみずしい香りがする。サイトでのパインオイル、シダーリーフ、オークモス、インセンス、エレミ、ジンジャーという調香を見た限りではよくあるインセンス系の香りなのかと思っていた分驚きがあった。決してドライ過ぎたりお香の甘い香りがするわけではではない。ジンジャーが華やかさを出しているのだろうか、癖がなく清々しい空気のように鼻に抜ける湿気を含んだウッドの香りの中には透き通るジュースのような爽快感さえあった。

なんでも調香師が新宿御苑を訪れた時に閃いた香りらしい。

フランスの調香師にかかれば新宿御苑がこのように変わるのか。と舌を巻いた。

 

 

 

この傾向の似た香りを同時に試香できたのは面白かったと思う。

 

 

 

 

ギンザシックスは他にもマドエレンのキャンドルが新発売されていたりと今後の香りの展開が気になるところだった。

品揃えは若干フランス香水に寄ってはいるが、個々の香りの取り扱いに関しては他の百貨店と大きく違っていたように思う。

 

 

そうしてディプティックの袋を片手に意気揚々と外に出ると、急に何か物足りなく感じた。

何がそうさせているのか自問しながらバーニーズニューヨークに入ってバラの香水でおすすめは、と店員さんに話しかけたところで、その原因が解明した。

今までは香水は自分一人で楽しむ密かな趣味であったが、今年に入ってから友人に香水を選んだり誰かと一緒に試香散歩をする機会が増えた。

その「誰かの香り」を聞くという贅沢にかまけて自分の香水に関してあまり考える暇を設けていなかった事に、その時気がついてしまったのだった。

 

バーニーズを後にして地下鉄に乗った頃には言葉にならない焦燥感に駆られていた。

 

新しい自分用の香水はもちろんパリで買うから良いのだ。

問題は専ら、何の香りをパリに持って行くかなのだ。

 

 

 

 

www.miyashinma.fr

 

www.diptyqueparis.com

55.パリはどんな香りなのか(カリーニャ 他)

前回の記事から一ヶ月以上時間が過ぎてしまった。

手紙のように近況を記すと、転職活動をしつつ(これは全くおもしろくないから割愛する)最近はフランス人アーティストのライン友達が出来て、毎日何故か英語でラインをしている。

 

たまに彼から送られてくる写真が面白い。

パリで撮られたその写真は、本であったりギャラリーの展示風景だったりと同じiPhoneで取られたただの写真であるのに、写り込んだ空気が違うとでも言うのだろうか、どこか異世界での出来事のように写っているのだ。

 

ふと、セルジュ ルタンスとラルチザンを聞きたくなった。

それらは私の中で「いまいち得意ではないフランス香水」の位置付けであったが、今なら距離を詰められるのではないかと思えて、日曜日に銀座に急いだ。

 

まずはザ ギンザのルタンスを片っ端から試香した。

フランスの知性はまだ私の鼻には濃いと感じたが、不思議と普段の抵抗感が少ない。

今回はサマジェステラローズが印象に残った。

 

 

サマジェステラローズ(SA MAJESTE LA ROSE)

→トップは濃厚で鮮やかなバラの香りが広がるのだが、一般的な華やかで蜜のようなローズというよりは、序盤からややパウダリーさのあるウッド系の茶褐色の重厚感を伴って広がる。

トップがそのような香りであるためにこの先古典的な香り(悪く言えば古臭い)に変化してしまうのかと心配したものの杞憂に終わった。確かにクラシカルな粒子感は強まるものの、私の肌ではカモミールを始めとしたウッディフローラル系の香りが一緒に前に出始めた。このフローラルの部分も瑞々しさと甘さは控えめで、トップから続くローズの香りの調子を過剰にさせず、全体の華やかさは失わせない。また、ローズの石鹸のような清潔感を助長させていたように思う。まさに花弁が開くような変化の様子が面白く、久々に新鮮に思えた。

ミドル以降はそのまま石鹸のような香りへと移行してゆく。調べるとライチが入っているらしかったが、その種のフルーティーさは私の肌だとあまり感じなかった。

先で述べたように、真っ赤やピンクの鮮やかな薔薇というよりは、赤をワントーン落としたビロードのように高貴な薔薇を彷彿とさせる。さすが女王の薔薇。

どちらかと言うと夜に華やかな場所で香ったら美しいのではないかと思ったが、街中にも十分に溶け込める。不思議と女性らし過ぎない。

 

 続いて三越の香水売り場へ行った。ラルチザンはボトルデザインが変わってから初めての試香だった。

その中でカリーニャが印象に残った。なぜ今までこの香りに気づかなかったのだろう。と不思議に思った。

 

 

カリーニャ (CALIGNA)

→カリーニャとはプロヴァンス語で「求愛」という意味らしい。愛がテーマの香水は数あれど、この求愛はエモーショナルで濃厚な愛の交換ではない。

トップはフィグとアロマティックなグリーン、柑橘の爽やかで優しい香りから始まる。

トップから続く心地の良い癖の少ない甘酸っぱさは、ミドル以降も香りの種類を変えながら持続する。そこの甘さを担う香りも、薔薇の蕾を始めとしてやはりどれも初々しい青みを含んだ香りに思えた。

調べるとハートノートがジャスミンマーマレードやレンティスク、ベースにオークチップ、松葉、オリーブの木などのなかなかフルーティーな香水では見られない調香になっている。ベースに湿気の感じられない爽やかなウッドが揃っているためか、トップから最後まで肌に乗せた際の香りの質感は甘さを帯びながらも粘度は低くさらりとしていた。

しかしただあっさりした香りではない。ある程度の軽さを持ちつつシャープな輪郭と主張を持っているように思える。

香りの癖だけで考えると纏やすく現実的な香りだと感じたが、考えようによってはとてもロマンチックな香り。

 なぜこの香りに「求愛」と銘打ったのだろう。と考えながらこの香りを聞いていると、ふと懐かしい気持ちになるのだが、しかしそれが何なのか答えは出ずしまいだった。

 

 

まだ寒いというパリの、透き通った午後の空の下ではセルジュルタンスは、ラルチザンはどう香るのだろう。

2種類の香水を手首に乗せた私は銀座を歩きながらそればかり考えていた。

距離を詰められたかは分からないが、ルタンスもラルチザンも、今いる場所よりもう少し大気を見通せる場所が似合う気がしていた。 

 

気がついたら銀座の端に来ていた。

ここまで来ると海外の観光客も日本人もまばらになる。

ふと正気に帰ってiPhonを見ると、送られてきた彼のメッセージにはパリのどこかの橋から撮られた空の写真が添付されていた。

早朝なのか夕刻なのか分からないのに、不思議と懐かしい色をしていた。

 

 

彼のいるパリはどんな香りがするのだろう。

思っているだけでは分からずじまいだろうが、彼からの返事が少し待ち遠しい気持ちが少し悔しくて、それだけで毎日が少し楽しいのだった。

 

 

 

 

www.sergelutens.jp

 

www.artisanparfumeur.jp

54.チョコレートの濃い香り(ダークアンバー&ジンジャーリリー 他)

ブログの更新を行えないまま バレンタインデーが過ぎた。

今年は大好きなリトアニアのチョコレートナイーブをたくさん買おうと張り切ってサロン デュ ショコラを訪れたものの、そこで自分はチョコレートの香り、正確にはチョコレートと砂糖が混ざりあったあの出来たての甘くて温かい香りが実は苦手なのだと気付いてしまった。(食べることはできるのだが…)

 

チョコレートの甘い香りと溢れかえる人々の肌の香りをたくさん吸い込んでしまった後、鼻と胃と精神がすっかり疲れてしまい、チョコレートの香りとそのときの具合の悪さがトラウマのように頭に染み付いてしまっていた。

そのためしばらく香りから距離を置いていたのだった。

 

 

 

バレンタインデーを直前に控えた日曜日、友人と香水を見に新宿を訪れた。

彼女は数ある香りの中からどうやらローズの香りに惹かれたようで、一緒にローズの香りを聞いていたら少しだけ心が華やかになった。

 

しかしまだ、香り、殊に甘い香りに対して恐怖に似た気分が続いていた。

重く甘いバニラの香りに当たってしまったら、もう歩いて帰る気力がなくなるに違いない。そればり考えており、そのため、やはり手が伸びるのはクリーンやイッセイミヤケのような清潔系の香りばかりだった。

 

 

友人と別れた後、再び伊勢丹に戻ってジョー マローンを訪れた。

あの癖のない、瑞々しいガーデンのような香りがこの疲れから救いをもたらしてくれるのではないかと思ったからだった。

 

そこで出会った香りの所感は以下。

 

ダークアンバー&ジンジャーリリー (DARK AMBER&GINGER LILY)

トップは意外と爽やかで、ダークアンバーの濃厚になりがちな香りは強すぎず、変な甘さもなく低調で落ち着いた香りが持続した。ジンジャーリリーの香りなのか、名前のようにジンジャーエールのような瑞々しさと清涼感がある。

トップを過ぎると時間と共に甘さが強まり出す。サンダルウッド系の甘さだと思ったが、従来のそれよりは幾分か滑らかさの部分があっさりとしている。伽羅が入っていると店員さんが教えてくれた。その店員さんはこの香水を「日本の香り」と評していた。トップの奥に感じる研ぎ澄まされたダーク。涼しさはこの伽羅のためだろう。

ミドル以降は伽羅やパチュリ的な暗めの色が目立ちメンズ寄りの香りになるが、男女問わずに纏えると思う。

深い香りのタイプではあるが、ジンジャーリリーの 水気を伴う繊維感がトップの香りを広げてくれているので纏いやすい。

 

ブラックベリー&ベイ(BRACK BERRY &BAY)

→ベリー系というと、甘酸っぱい香りが時に濃すぎるように感じることがあるが、これに関しては全くそのような心配はなかった。トップのブラックベリーは瑞々しさと共に流れるように香り始める。ミヤシンマのように、清流の中に浮かぶ木の実にような透明感と立体感がある。

他にはフローラル(赤いスパイシーなものではなく、パンジーやすずらんのような、瑞々しい香りに合った優しい類のものだと感じる)グレープフルーツやシダー、サンダルウッドなども含まれてはいるが、そのどれもが変に主張がない。それはベイリーフを始めとしたグリーンの瑞々しさが、潤いのある水のような香りの中でそれらをまとめている印象がある。あくまで主役はブラックベリーで、グリーンの織りなす香りはベリーのフレッシュさが流れの中で散漫にならないよう支えるように香る。

時間の流れとともにやはりベリーが強まってくるが、トップのフレッシュさはしばらく続いたので嬉しかった。

 

 

ジョーマローンの香りは期待通り、ストレスなく香りのリハビリができた。

お陰で、チョコレートの甘い砂糖の香りへの嫌な思い出は少しずつ忘れてゆけば良いと思えてきたのだった。

 

 

その帰り道、ふと冷えた夜気の中に滑らかな花の香りがしたので顔を上げたら、桃の花が咲いていた。

もう春が来ている。

桃の花の蜜と花粉の混ざりあった甘い香りはいとも簡単に鼻の奥を通り過ぎていった。

 

 

 

 

ホーム | ジョー マローン ロンドン