日々の糧—香り日記—

日々出会った香水について記してゆく日記。

71.アゴニストの冬(ソラリス/ブルーノース)

と春や夏よりも、秋の終わりから冬にかけての季節に心惹かれる部分がある。

 今は夏から秋への変わりどきで、そろそろ気に入りの秋冬用の香水に変えようかどうしようかと思案していた。

 

そんな中、NOSE SHOPにアゴニストが入荷されたのをその2日後に知った。

アゴニストはバレードやSTORA SKUGGANと同じスウェーデン発の香水だ。STORA SKUGGANを調べていた際に見かけ、その北欧的なモダンなデザインに常々日本に来るべきブランドだと思っていた。

そしてそんな願いが叶った今、こうしてはいられないと低気圧に負けそうな身体に鞭打って慌てて試香しに行ったのだった。

 店舗に行くと、ラボラトリオオルファティーボの隣に陳列されていた。調香の書かれたボトルのシンプルだがこだわりのあるデザインが目を引く。

 

試香してみたところ、初回はソラリスとブルー ノースが印象に残った。

所感は以下。

 

 

 

 

ソラリス(SOLARIS)

→夏の真夜中の太陽にインスパイアされていると書いてあるが、それは白夜の事だろうか。しかし、ソラリスとの銘を冠しているところを見ると、空想上の太陽なのだろうか。

トップはピンクグレープフルーツ、レモン、グリーンマンダリン、プチグレン。

青さが爽やかなシトラスが煌めくように香るのだが、よくあるフレッシュなトップというよりは、奥にはミドルのオゾンアコードが開いた空間にベースのパチュリ由来か深い緑が鎮長に流れているため、香りは奥行を感じ軽すぎない。

そのため、どこか肌とは離れた場所で香るので、シトラスと言ってもつかみ所がない。色で例えれば、どこか陰影のある、良い意味でのくすみのあるオレンジ色といったところだろうか。それが煮込まれているように甘さを増しながら肌に近づいてくる。

 ミドルになると、トップで煮込まれ良く混ざり合った香りの中に直線的に流れる甘い花のような香りを感じ始める。そこにはネクタリンやピーチの甘さ(Vigna Peachと記載があるが、たぶんこのことだろう)とその表面のようなきめ細かく優しい温度の粒子感を覚える。ベースを見るとトンカビーン、ベンゾイン、シスタス、パチュリ、アンバーと幾分か重みを感じる構成なのだが、それらもまた混ざり合いながら全体的に広がって定着してゆくために、重さを感じたり変な甘さの主張を感じたりはしなかった。明るさのあるトップからミドルの香りの奥のそれらの内に籠るような優しい甘さの配置は、絵画の中の陰影のようで、周囲の色と混ざり合った暗部の深さと安息感と全体の輪郭を浮かび上がらせている。ラストはそのまま穏やかな流れで他の香りが通り過ぎ、仄かにピーチを乗せたベンゾインとトンカビーンの落ち着いた甘さが残った。

全体的に、纏いやすい香りながら、前半の瑞々しい球を綿が優しく包んでいるような浮遊感のあるイメージを受けた。

 

 

 

 

ブルー ノース(Blue North)

→厳しく暗い北欧の冬の季節に対する畏怖と敬意、そして光への希望や憧憬が込められた香り。

トップから広大な広がりを感じさせる。調香はカルダモン、ローズマリースペアミントと言った、文字の上ではコロン的な軽さのある構成となっているものの、カルダモンの芯の通った香りとスペアミントの冷たいながらグリーンの瑞々しい甘さのある香りが少し裏返るような癖を持って香る様は、無駄を排除し洗練されており、一面冬を連想させる寒色寄りの白を彷彿とさせた。その中腹では、トップからミドルのオリスのパウダリーさが雪の様に香りのフィールドにスピードを持って拡散してゆく。オリスが含まれていると、どうしてもある種の乳白色のぬめりを感じてしまうことが多いが、この香りにはそれはない。確かに一面に広がり香り全体の形が見えるのもこのオリスの香りの力なのだが、その香りはドライでミドルになっても拡散を続けた。

ミドルの調香はミント、ヘリオトロープ、ジンジャールーツ、オリスとなっている。表層のミントの清涼感の中、ヘリオトロープのパウダリーで甘く優しい香りがオリスと相まって、人肌のようなベビーパウダーのような香りに変化してゆく。ラストのバニラはグルマンではなく、あくまで甘い花の香りとして現われ、拡散して漂うオリスとヘリオトロープの香りを受けとめるようにして肌に近づける。

ラストに向かうにしたがって、オリスの中にサンダルウッドの乾いた表情が見え始める。このウッドの乾燥感はトップから一貫して見られる特徴だが、各々のパウダリーさの中でそれがミントのひんやりとした質感とともに終始シャープな鼻触りを作り出す。そのおかげか香りの温度は常に一定になっている印象を受けた。

ブルーノースはそのテーマのごとく、鼻の前にクールな距離感で広がっている。

それはただそこにある自然の佇まいを思い出させ、その中でミドルの優しい肌のような温度は、暗い冬の中で憧れとして見出される太陽の光の母なる温かさなのだろうか。と感じた。

 

 

 

アゴニストは本当に北欧的モダンな香りだ。どの香りもさりげなくスマートだが、その実かなり捻られた香りになっている。

隣のラボラトリオオルフィティーボと比較して試香することで、ニッチ香水の前衛のアプローチも様々なのだと舌を巻いた。

しかし、やはりどうしてもラストのパウダリーさの最奥に優しさを見てしまうのだ。先に書いた様に、ただそこにある自然の厳しさの中に、 母性や生命の温かさを感じる。それはフエギア1833のラストに通じる感覚で、香水の描く自然の興味深さを改めて感じた。

 

 

 

アゴニストの上陸に、つい嬉しさを店員さんに吐露してしまい、少し恥ずかしい気分になりながら店を出た。

 

次はどんなニッチ香水がやって来るのだろう。

しかしその前に、とっておきの一本を購入したいところではある。

 

 

www.agonistparfums.com

70.レジーム デ フルールの花の中(ターコイズ/ゴールドリーブス)

レジーム デ フルールが日本に来るとは思っていなかった。

そのマットで鮮やかな発色のボトルは海外のサイトで稀に見かけていたが、それ以上の情報も無く、どんな香りの傾向なのかは全く予想がついていなかった。

 実は発売日の前日くらいに日本への上陸を知り、急にわくわくした気持ちで一日を過ごしたのを覚えている。

 

発売日の次の日あたりに銀座のエストネーションを覗きに行くと、丁度レジーム デ フルールのお披露目パーティーイベントが行われていた。

中は業界人のような人々ばかりで(作者の二人の姿もあった)通勤帰りの一般人にはそぐわない雰囲気だったが、興味本位で見物がてらに試香しに寄ってみた。

 

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 その会場でとりあえず全種類試香はしたが、今回はターコイズ、ゴールドリーブスの所感をまとめようと思う。個人的にはファウナが一番気に入ったが、各々とても深い香りの上に一度に試香しすぎたために所感をまとめるのはまた今度にしようと思う。

所感は以下。

 

 

 

ターコイズ(turquoise)

 →ターコイズがイメージされた香りらしいが、トップの調香はローズバッド、野草、ウコン、ヘディオン。野草とウコンを中心とした、ドライで渋みのある、臨場感のある野生のグリーンの香りが現れる。干し草やフレッシュなハーブというよりも、硬い大地に生えている草の乾いた緑色の香りだった。それらはヘディオンの影響か、やや体温を持った丸い形を描き中心に集まるような厚みのある質感をもって香っているのだが、ミドルになるに従ってそれらが解れて平らになるように花の香りが現れるのが心地よい。

ミドルの調香は金香木、フルーツ、キャシーフラワー(キャシーフラワーが何なのかは分からなかった)。金香木は本来甘く濃厚な花の香りだが、トップのドライな香りが続いているからか、それらとミドルが複雑に混ざり始める中、鮮やかさと明るさがそれらに当たって跳ね返るようにコントラストとなって現れる。とても高い位置で花が咲いているようなイメージを受けた。その後のベースに重みのある蜜蝋アブソリュートとベンゾインが控えているにも関わらず、私の肌だからだろうか、それらが分かりやすい主張をすることはラスト以降もなかった。それらのなめらかな香りはトップから続く木の根のような硬質な香りにツヤを与えており、ミドル以降のそれはターコイズのこっくりとした青と滑らかな曲線を思わせる。

ラストも甘みと言うよりはミドルの甘い花の甘さをほのかに含んだ湿潤なウッドのような香りが散り散りに香りつつ、それの先にある野草のドライさを残したターコイズの地面は、堅固ですべやかな冷たさを思わせる香りとして鎮座している。

トップからラストにかけて随所に石らしさを感じたのは先入観からだろうか。その硬質さがあるおかげか、さりげなく現れた花の香りはどれも滑るような自由なスピードを感じる事が出来た。

 

 

ゴールドリーブス(Gold Leaves)

 →トップは月桂樹、カルダモン、セドラといったハーブ系のグリーン中心の調香となっている。表層のカルダモン、セドラの清涼感は鋭利ではあるのだが、中心に行くほど香りの粒は軽い印象で、ミドルあたりのアイリス的なパウダリーで、控え目な甘さをその奥に感じるため深く吸い込める。それと同時に、甘さと混ざり合った形で金属的にも感じるある種の渋み(グリーン系由来という事は感じたのだが…)があり、それが弾けるように香る。

ミドル以降は花の香りが肌に定着してゆくのに気付く。雲が晴れるように、アイリスの内に籠る乳白色めいた滑らかな香りが体温に乗って露わになるものの、グリーンとラストのアンバー系とが混ざった結果なのか、パチュリのような深いグリーンの苦みが常に後ろに控えている。それは不快なものではなく、ミストのように花の甘みを受け止めており、ラストに近づくにつれて現れるオークモスやシダーウッド、ムスクなどの空間的な広さと清潔感のある香りと相まって、ミドルの花の香りを抽象的な輪郭で肌より少し浮かせた状態に押し上げて香らせ始める。

 ラストはそのままムスク、オークモス、ウッドの香りが強くなるものの、そのグリーンはトップの苦みによく似ている。しかしそれは最初に逆戻り、というわけではなく、金属的なきらめきはライラックのような淡い光を帯び、それに混ざって余韻として感じ取ることが出来る、かつて通過したアイリスの優しい重みやオークモスの湿潤感、アンバーの濃い深みによって洗練されたラストのグリーンのように感じた。残り香に不思議な愛着を覚えたのもそのせいだったのだろうか。

公式HPでは説明文にニーチェが引用されているが、その真意は聞けないままになっている。

 

 

レジーム デ フルールは全体を通して香りの変化のプロポーションが美しいと感じた。

まず、トップから花の中へと一気に入り込むような感覚を覚える。それはここには書いていないベル エポックやファウナのトップにはっきりと感じたのだが、成熟させたオイルによる、芳しくも生々しく時にえぐみを持った動物的にすら感じる花の香りは、まるで内部からその生の営みを感じているような気持ちになる。

視点はそんな複雑な花の内部から始まり、やがて縦横無尽に広がるアングルや細かい香りの編集でその花の咲く様を追っているかのように香りが展開してゆく。トップ、ハート、ラストの一応の判別は付くものの、香りは常に運動を続ける。ラストにはその香りは皮膚と一体化し、己が今まで見つめていた花そのものになったように思える余韻が残される。

そして、 もう一つは粒子の粗さが印象的だった。パウダリーと形容もできるが、従来の「パウダリー」とは少し違う。香りの個々にはそれとは対照的な瑞々しさも感じられるものの、全体の香りの拡散のしかたが粒を彷彿とさせる。それはフィルターのようで、ある時は香りを鮮明に浮きだたせ、ある時は輪郭をぼやかせてこちらの想像力を煽る。丁度ブランドのプロモーション動画のようなアナログビデオやフィルムの、奇妙なノスタルジーに似た感覚だった。

 

この値段相応の体験は、しばらく頭をぐるぐる廻る思考で満たしてくれた。

 

 

そうして、ひとしきり香りに包まれた後、華やかなパーティー会場を後にした。

あの会場に居合わせたちょっとだけ着飾った人々は、レジーム デ フルールの香りに包まれた後、今夜はどんな夢を見るのだろうかと考えながら駅の階段を下りた。

 

regimedesfleurs.com

69.エルメスの新作(ツイリー ドゥ エルメス)

前々からエルメスから新作の香水が発売されるとは聞いていたが、当初は知らないふりをしようかとも考えていた。

 官能性とセットで語られがちな甘く濃厚なチュベローズの香りに若干食傷気味であったからだ。

 

 しかし、やはり天下のエルメスなので捻りがある香りに違いない。と、純粋に気になってしかたがなくなったので、表参道のBA-TSU ART GALLERYへ急いだ。

そこでツイリードゥエルメスの特別展示をしており、この際なので世界観も合わせて楽しんでみようと思った。

 

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ギャラリーに着くと、シャボン玉のような風船やツイリーに結ばれた宙に浮くボトルなどがガーリーながら無重力な爽やかさのある雰囲気を醸し出している。(残念ながらこういう類への語彙がない)

 

会場内の様々なサイズのツイリードゥエルメスに囲まれながら試香をさせてもらった。

 早速所感をまとめようと思う。

 

 

ツイリー ドゥ エルメス(Twilly d' Hermès)

→トップはチュベローズの筋を感じさせる甘い花の香りを感じるが、それは意外に思うスタートとなった。従来の嗅慣れたあのパウダリーでとろけるように濃厚なチュベローズではなく、透明感と、ハーブやグリーンが含まれているのだろうかと感じるある種の渋みとも取れる青い爽やかさを伴って香る。その香りは甘さの部分には丸みがあるも、ユリのような白い花の花粉を連想させるクラシカルさも併せて感じられる。店員さんの説明やネットの情報では、調香はチュベローズ、フレッシュジンジャー、サンダルウッドが中心らしい。トップの爽やかさの正体はフレッシュジンジャーなのだろう。思えばジンジャーエールのようなドライな瑞々しさだった。ミドルに移行すると共に、チュベローズの甘みは幾分かお馴染みのパウダリーさが引き立つものの、そのジンジャーのおかげか全体は引き続きシャープに引き締まって香る。奥に感じるサンダルウッドは、これも滑らかで乳白色な香りが強くはなく、清潔でベタつきのないドライな白檀の表情を持っている。それらのちらつき方はスパイシーではあるが、刺激的というよりもクールな粒子感を覚える。ラストはサンダルウッドのパウダリーさが前面で香り、チュベローズの甘さが肌に定着し過ぎなかった。

 香りの中にツイリーを見出すとすると、香りの伸縮や動き方がシルクのようだと思った。風に軽やかに揺れるが、気体のように広がってどこかに行ってしまう事はなく、香りの一つ一つが密度のある状態で、シルクを肌に滑らせた時の心地よい冷たさと似たつややかな質感が肌の上に繋がっている。

詩的な香りというよりも、戦略的なチュベローズの使い方をしているという印象を受けた。ここでのチュベローズはチュベローズが今まで表現して来た成熟した女性ではなく、PRムービーに現れる若い男女(?)の眼差しのように、どこか冷めたような含みと鋭角的なエネルギー(ただし攻撃的なものではない)をもって香っている。

今回のチュベローズとジンジャーの組み合わせは、人によっては、やや古い香水を想起させるかもしれない。しかし、従来のチュベローズのアプローチから見れば、ローズとブラックペッパーの組み合わせのような現代的な可能性を感じる。

このように、香りだけ見れば対象を女性だけに限定するのは少しもったいない気がする香りではある。男女ともにシーズンレスで使えるだろうと思う。

 

 

 

 

 

試香をした後、もう一度ギャラリー内を巡った。

 

前職ではたくさんの若い子たちと触れ合う機会があったが、今はめっきり少なくなってしまった。

不思議と彼らの眼差しを思い出すことが出来たのは、コンセプトからの先入観なのか純粋に香りのおかげなのかは分からない。

ただ、この香りを聞いた時に過去を振り返り、つい半年前まで常日頃触れていたエネルギーを懐かしむようになった私は、もういい大人になってしまったという事だろう。

 

www.maisonhermes.jp

68.残暑《オードイタリー(オードイタリー)》

どこの企業でもオフィスの空気が悪い日はしばしばあるのだろう。

この日のオフィスはとにかく息が詰まりそうなくらい空気が険悪だった。

そんな空気から逃れて存分に息を吐こうと仕事が終わったらさっさと銀座方面へ向かった。

 

 やはり仕事終わりの1人散歩は開放的で、薄暗い銀座の通りを口笛を吹きながら暫くさまよった。

 

すると、銀座のプロフミ ディ ギンザにたどり着いた。

以前オードイタリーに出会った店なのだが、改めて来てみるとこんな立地だったのかと不思議な気分になった。

 

今回もオードイタリーのトワレを中心にして試香をさせてもらったのだが、特にこのブランドのシグネチャーモデルであるオードイタリーに前回とはまた違った複雑さを覚えて印象的だった。

 

所感は以下。

 

オードイタリー(EAU D’ITALIE)

→調香を見ると、トップはフランキンセンスベルガモット、ブラックカラント。ベースのグリーンの上で甘みが少ない瑞々しいベルガモットが前面に香る中、バニラのような甘い乳白色の香りがするのはフランキンセンスが由来。この2つの香りにはある程度の硬さを感じる為、シプレタイプの良くも悪くもイタリア系香水的な香り方だと思えた。しかし、ミドルになると様子が変わり始める。

ミドルはマグノリア、アコールアルジル、チュベローズ。このチュベローズは花ではなくミネラルのみを抽出しているのだそう。このやや有機的で滑らかな爽やかさのある花の甘みの伴うミドルの香りと、トップからのフランキンセンスが混ざり合い、海からの風のような爽やかでさりげないマリンの香りに変化するのだ。それに加えてアース系の香りを集めたアコールアルジルと、トップより緑の立体感を持ち始めたグリーンが、トップのどこか堅さのある殻を破り、僅かにふくよかな温かみを感じつつ包み込まれる様にこの香水の懐の深さというか香りの構成の奥を覗いて行けるようになる。その後は、更にベースのグリーンが明確に現れ始め、トップの花の香りからパチュリとシダーウッドの渋みのある深みとクローバー、ハニーのしっとりとした優しい甘さが台頭する。その他にはベースには苔の香りであるライケンが含まれており、やはり苔の透明な清涼感が香りを深くし過ぎず筋を固めていると感じた。

印象的だったのは、ミドルがマリンとグリーンの理想的な出会いを思わせたところだった。このコントラストが、バニラを使っていないのもありベタつかず、苦味のあるレモンを彷彿とさせるシプレの整然とした列の間を軽い調子で漂う様は心地よい。日頃から強すぎるマリンノートにはグリーンをコンバインして使うのだが、この香水は一本でその楽しみを感じられる。

 地中海の暖かさは日本の残暑とはちがうだろう。その暖かくも爽快な風をイメージ出来た。

 

 

今頃の地中海は一番心地良いのかもしれない。

今年の日本の夏は寒いくらいだが、やはり外は蒸していて、日本らしい夏だった。 

 

あたりはもう夜で、夜風も生暖かく海風とは似ても似つかなかったが、オードイタリーの香りが鼻を掠めると少しだけ銀座が広く思えた。

 

 

rumors.jp

 

 

67.NOSE SHOPにて《ゴールデンネロリ(アベル)》

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新宿NEWoManにニッチパルファンを扱うNOSE SHOPがオープンした。

フランスのNoseやSENS UNIQUEなどのようなニッチパルファンのみを集めた専門店は、いままで日本にはなかったはずだ。

だから前にネットのニュースでオープンの記事を見つけて、ついに日本にも出来たかと感激して密かにこの日を楽しみにしていたのだ。

 

その日はちょうど家での制作作業があったので、作業の滞りを理由に外に出て、どんな香りがあるのかと早速足を運んでみた。

 

NEWoManの1階へ辿り着くと、白を基調としたコンテンポラリーな内装と綺麗に陳列されたニッチパルファン達が目に入った。

 

 扱っていた香水は、

ラボラトリオ オルファティーボ

マドエレン

ディーエス&ダーガ

アベル

と、香水以外ではラボラトリオオルファティーボやケルゾンなどいくつかのルームフレグランスとオーストラリアのオイルパフュームがあった。

この規模で様々な地域の、百貨店系香水とはまた一味違う香りに対するアプローチの前衛に一度に触れる事が出来る場所はやはり他には無い。

そしてその数々を試香してみれば、純粋に鼻が楽しくなる体験が出来る。

 

ディーエス&ダーガとアベルは日本での店舗取り扱いはNOSE SHOPが初めてのはずだ。

ディーエス&ダーガは、古き良きアメリカのフロンティア精神や自然の広大さを感じさせるラインナップで、乾燥地帯のウッドや陽射しだったりを連想できるドライな香りが印象的だった。

 アベルはオランダ発の天然香料100%の香水メゾンだが、シンプルで品の良い香りだけには止まらず、表現に一捻りある香りが揃っている。サイトによると何やらワインに縁があるらしい。初見の印象では、一度に広がるというよりは嗅覚に浸透するように下に降りてゆく香り方をするので、縦長の香りの層を思わせた。

 

その中で印象的だったのは

ディーエス&ダーガでは、

ドライなハーブとウッドのCOWBOY GRASS

華やかでイノセントさを感じるローズのROSE ATLANTIC

すっきりとしたグリーンがトップのCORIANDER

火事の時の香りがテーマの個性的なBURNING BARBERSHOP

アベルでは

変化がユニークなGOLDEN NEROLI

透明感のあるアンバーのCOBALT AMBER

だった。

一度にたくさん試してしまい、記憶がおぼろげなので、今回はアベルGOLDEN NEROLIについて所感を残したい。

 

 

ゴールデン ネロリ(GOLDEN NEROLI)

→名前の通り、トップはネロリが主体に香るのだが、その香りはオレンジフラワーのパウダリーな濃密さというよりは、ミドルに配置されているプチグレンのおかげだろうか、柑橘系のピールのような爽やかな苦味と酸味と共に香る。それと同時に、ふわりと粉のように軽いタッチのクラシカルさを持った香りが同居しているのだが、調香を見てみるとミドルのイランイランの他に抹茶が含まれている。この抹茶の香ばしくも控えめな香りが、トップにおいては他のパウダリーな香りの一軍を引き締めている印象がある。

さらに時間が経つと、抹茶の香ばしさは姿を隠し、ジャスミンなどの花の香りが台頭し始める。引き続きのネロリも含めると文字だけだとなんとも濃厚な香りの組み合わせだが、ここでのジャスミンはその青さと甘さがトップとは対照的にジュースのように瑞々しく香り、イランイランに関しても透明感のある甘露の一部として香りに溶け込んでいるので濃厚さは強くない。ラストはサンダルウッドとバニラなのだが、気候と肌のせいなのか、バニラはほとんど主張して香らず、ミドルでしばらく姿を見せなかったプチグレンの酸味が戻り、それと同時にトップのパウダリーさにサンダルウッドのウッド系の清涼感の伴う滑らかな甘さが相まって静かな残り香に変化してゆく。香りを引き締めているプチグレンが気配を消さずにいてくれたことで爽やかな印象を常に感じることができた。

トップノートの説明にも書いてある抹茶とネロリ(プチグレンも含む)の調和がこの香り全体のバランスも総括しているように思えた。互いが変に主張しないように抑制しつつも立ててゆく関係性がどの香りの配置にも感じられ、ゴールデンと名付けられている通り、それらの香りの波の調和が作る明暗が様々な表情の明るくも品のある光沢を連想させた。

しかし、トップからラストに至るまで香りの変化はチャーミングにさえ感じる。どんな気候でも纏いたくなる香りだった。

 

 

 COWBOY GRASSについても簡単な所感にまとめた。

 

カウボーイ グラス(COWBOY GRASS)

→名前の通り、アメリカ西部の乾燥した荒野を思わせる香りから始まる。降り注ぐ太陽光に照らされて生きる乾いた野草を思わせるヨモギ、ベチバーやハーブの苦味、カウボーイの吸うタバコの煙のようなスモーキーな苦味。砂煙で乾いたレザー。そこには甘さの要素は見つけられず、その寡黙で厳しい土地のようにとてもドライな印象を受ける。

しかし時が経つにつれて荒野に生える草にも命があるように、さまざまな表情と深みを感じられるようになる。風にそよぐように香る乾いたハーブの奥には丸みを帯びた優しいグリーンの息吹があり、荒野の土にも体温が備わっている。

そのようなミドル以降のしっとりとした温かさがとても心地よい。

マカロニウエスタンや西部劇好きには嬉しい香り。メンズ香水としては大変好みの香りなので、ぜひ男性諸君に背中から香らせて欲しいと思った。

 

 

 

 他の所感に関してはまた後ほど残してゆきたい。

 

 

 

 久々の真新しい香りとその場所との出会いは刺激的で、雨やら何やらでうんざり気味の気持ちが一気に吹き飛んだ。

満ち足りた事で眠気を感じながら店を出た。

 

NEWoManのオープン以降、その周辺も大きく変わった。

少し背伸びしてジャドールを纏って人と歩いたイルミネーションの綺麗な道は、あの時はまだ工事中の白い塀ばかりが目立っていたし、突き当たりには小さな飲食店があったが、今はもう無い。

ゴントランシェリエもいつの間にか違う名前になった。

 

NOSE SHOPの店員さんは、これから新しいブランドも店頭に並んで行くと言っていた事を思い出した。

今までもニッチパルファンが多く見られたNEWoManで、新たな香りの探検が出来る変化はとても嬉しい事だった。

すでにまた訪れたい気持ちと共に歩く雨の帰路でも、腕に乗せたゴールデンネロリは良く香った。

 

 

 

www.dsanddurga.com

 

www.abelodor.com

 

www.newoman.jp

 

66.夢の後《モクシー(ミルコブッフィーニ)》

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ようやくSTORA SKUGGANがNOSEから届いた。

パリで見た時と同じ深い緑色をした丸いキャップに涼しげな色の液体。思い続けていた香水が毎日部屋にある光景は何とも感慨深い。

 しかし、肌に乗せたところ、パリでの試香した時と香り方が全く違ったのだった。

それではあの香りは一体何だったのだろう。夢だったのだろうか。

 

 まだ心が夢見心地から抜け出ていないのだろうかと、ここら辺で目を覚まそうと気つけの意味も兼ねて伊勢丹メンズ館へふらりと出かけてみた。

そこに置かれているミルコブッフィーニは気に入りのブランドの1つだ。
私が男性であれば1つは手元に置きたい香水ブランドなはずなのだが、今まで一度も所感をまとめていなかったのは何故なのだろう。

今回はMOXIについて所感を残したい。


モクシー(MOXI)
→日本酒が含まれているという調香を見るだけで興味深い。
トップから日本酒の甘い香りが広がる。私が酒に弱いのもあるが、その実際に日本酒の香りを聞いているような濃厚な香りの粒を吸い込むと、本当に鼻の奥に酒気の熱がこもる様に感じた。
それと同時に現れる、クセのない濃くまろ味のある花の香りは、バラの花弁と蓮の花の香りらしい。薄く色付いたふくよかな花弁を彷彿とさせ、清酒の透明な香りの中に散る様に華を添えてゆく。そして土台にはアンバー、サンダルウッド、ムスクと安定感のあるラストノートが配置されている。それらも濁る事なくトップとミドルの瑞々しさと甘さを最後まで支えており、ウッド系のサンダルウッドのおかげだろうか、時折日本酒の香りと相まって升に注がれた日本酒を思わせる香りを感じさせた。
全体的に変化は安定しており甘く濃厚な香りが足し算されてゆく香りだが、バニラやフルーツ、白い花系の主張の強い甘みでない分テンションは控えめで距離感が丁度良い。
夜桜を見ながらのしっとりとした酒席のような、色気を感じる浮世離れした香りに思えた。
いくつかのサイトの解説では専ら欲望に忠実な女性的な香りだと書かれてはいるが、むしろ男性にも纏ってもらいたい香りではある。
奔放で魅力的な女性に翻弄されてみるように、敢えて女性の香りを纏うというのも、何やら色気があって良いのではないか。

 

モクシーもまた夢の中のような香りだったが、その香りを纏いながら蒸し暑い現実の新宿を歩いていたら、漸く頭が夢から覚めていくのを感じた。

部屋に帰ると、やはり変わらずFantome Maulesは棚に置いてあった。

幾分か冷静になった頭で再度試香をすると、その複雑さがリアルに感じられた。

 

  追記的に新たな所感を残したい。

 

ちなみに下記がかつて書いた所感なのだが

57.パリの夢(Rosa Nigra 他) - 日々の糧—香り日記—

ここで母性的な香りだと形容したFantome Maulesだったが、日本で抱いた所感は全く対照的で、どちらかと言うと男性用香水的なアロマティックグリーンの深みと硬質な柑橘系の渋みの奥にサンダルウッドの滑らかな甘みなど、いわゆる男性的な香りが浅く表面をコーティングしている様に感じられる。しかし全体的な香りの層はさらに奥深く大きな葉の様に何重にも重なっていっぱいに敷き詰められている印象で、その配置された香りの間を見回すとき、木々のざわめくように香り全体が動くのを感じる。

夢から覚めた後で聞くFantome Maulesは、その森の中をさまよう怪人のイメージ通り、北欧の森とその中に住まうカオスを思わせた。物語の中でかろうじてその森の怪人を男だと分類できるように、ふと鼻を掠める表層的な記号から男性的な香水だと認識できる程度で、その周辺は深く暗く光源の見えない森が広がっている。

ここでのグリーンは、マドエレンのミントやフエギアのパンパのように私たちに寄り添い共に生きているグリーンの緻密でリアルな描写ではないように感じた。

先に言ったように複雑に積もった不明瞭な香りの中を、自分の知る記号を頼りに進んで行かねばならない体験は、ある種の自然との隔たりを感じられる。

 日本には来ない類の深い香りだろう。悔しいが、今の私には到底使いこなせない香りだろうとも思う。

 しかし、その土地に根差した辺境系の香水としては大変興味深い対象だとも改めて思った。

 

 

 

Fantome Maulesは今後様々な角度から考えて行きたい香りだと思った。

現実の世界でも少しずつ仲良くなって行けば良い。

 

夢の中も好きだが、その夢から覚めた後の、不思議な清々しさと静けさと窓から見える外の光が好きだったりする。

 

 

 

Mirko Buffini【ミルコ ブッフィーニ】

 

Stora Skuggan

 

 

65.花とスパイス(サント インシエンソ/グッチ ブロッサム)

ついに先日、惚れ込んでしまった香水を取り寄せる事にした。

香り自体はもちろん、ボトルデザイン、モチーフ、コンセプトに至るまでぴったり気に入った香りは珍しい。

その香水の購入を決めるまで、何度もそれと同じグリーン系統の香りを聞いて歩いては香りの記憶の面影を見出そうとしたり、何度もサイトの解説を和訳したりしていた。

 もはや恋なのだった。

 

しかしあとはあちらがやって来るのを待つばかりなので、しばらく執着していたグリーンから意識的に離れて新作の華やかな香水を試香しようと新宿伊勢丹に立ち寄った。

(銀座はいつでも行けるようになったからかむしろ足が遠のいてしまった。)

 

そこで、ディファレントカンパニーとグッチの新作と出会った。

 

 

サント インシエンソ(santo incienso)

インカ民族に尊ばれてきた香木、パロサントをテーマにした香りらしい。 トップからスパイシーな香りが全面に広がる。トップの調香はプチグレン、ベルガモットナツメグなのだが、プチグレンとベルガモットは終始爽やかで甘さがほとんど無く、スパイスの弾ける後ろで清浄なフィールドを作り出している。香木を燻した香りを表現しているらしいが、トップのナツメグを始めとした乾いたスパイスはまさに静かに燻る香の内部の火ように、明滅を繰り返すような香り方をしていたのが印象的だった。ミドルにはパロサントアコードにセダー、ヘリオトロープとウッド系の配置がされている。トップから比べるとミドルからは抽象度が増し、肌との距離が近くなってくる。ヘリオトロープなどのすっきりとした花の香りがパウダリーに肌へ着地し、明滅を繰り返していたスパイシーな香りはウッドと混ざり合い煙のように漂い始める。ラストにあるインセンスやミルラの姿は初めから認識出来るものの、やはりミドル以降から改めて感じることが出来る。

といった終始乾いたインセンス系の香りなのだが、濃厚さや煙さなどとは一線を隔したスモーキーながら筋の通った神聖な香りになっている。その香りが徐々に体へと降り注ぎ、やがて自分と一体化する。

パルファムは宗教儀式で焚かれる香が語源となっている。この現代で香水の起源へと立ち返り、退魔の香りとして信じられて来た魔法の木であるパロサントのインセンスの香りを纏うのは、一種のラグジュアリーと言えるのかもしれないと感じた。

 

 

グッチ ブロッサム(GUCCI BROSSAM)

→香水界では初めて使われる南インド産のラングーンクリーパーが含まれている。

他には主にジャスミンとチュベローズといった、ファーストインプレッションは四方八方が白い花で構成された王道の香りなのだが、中央で主張して広がる役を担いがちの普段は甘く濃厚なジャスミンとチュベローズが、この香りでは青みだったり筋であったり全体的な花の立体感も構成していることが良く分かる。

ラングーンクリーパーもまたその二者のような白い花系の香りで、この香水ではこの花の香りが中心部に位置し最も華やかさ(記号的な白い花の香り)があるのだが、その香りは若干パウダリーで甘酸っぱさがあるように感じる。その差異を発見できるのも楽しかった。ジャスミンとチュベローズの特徴的なえぐみは鋭くはなく、角の無い花のきめ細やかな香りが瑞々しく、とろけるように包み込む一方で、花の繊維感や完熟していない青さも奥で香るため、ある程度深く吸い込み吟味できる香りになっている。

これはボディーローションの方で鮮明に感じたのだが、青みの部分がやや瓜のような果実を思わせる内に円を描く丸みのある香りとなっている所が香りを甘くパウダリーにし過ぎておらず、飛躍できる涼しさのある印象を与えられた。

身近である主役級の3種の花の競演というより共演なので、まるでもう1種の新たな濃厚な香りの花と対峙している気になった。

日頃親しみ聞き慣れた類の香りであっても、庭園の様に様々な角度から注視することで違いが見えてくる。これはこの香りだからこそ感じられる感想だと思った。

 

 

 

 今回試香した香水はどちらも夏には不向きそうな分類でいて、どこかクールさのある香りだったのが何だか救われた。

 

家に帰っていたずらに床に寝そべってみると、花とスパイスの香りが辺りに散らばる様に香った。

目を閉じるといつもの部屋ではないようで、浮ついた気分にさらに華を添えてくれた。

 

恋と旅行は成就するまでの過程が楽しいのだ。

 

 

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